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『頑張れ!』

例のCMが流れるようになると、学校ではその話ばかり── 話したこともない他のクラスの奴らもやたらと話しかけてくるし、どうにか俺と仲良くなって仁奈とも会えないかとしつこくしてくる奴らもいるし、只々うんざり。 保健室に逃げようにも、いつも誰かしら人がいるから入りにくい。 学校に俺の居場所は無いんじゃないかってくらい居心地が悪かった。 俺は誰からの視線も感じない場所で、一人になりたかった。 康介君や竜太君が心配してくれるからなんとか平常心を保てるけど、この二人がいなかったら俺はきっと学校にこなくなっていただろうな。 ありがとう。 先生も多分俺のCMのせいで嫌な思いをしてるはず…… 最近やたらと俺の家に来てくれる先生。それは凄い嬉しいんだ。 でもきっと俺に会いたいからという気持ち以上に、不安になってるからなんだと思う……態度を見ていれば何となくわかってしまう。 ごめんね、俺のせいで…… 今日も先生が家に来る。 一緒に俺の作った夕飯を食べて一緒に過ごし、一緒に眠りにつく。 眠る前に先生は本心を俺に話してくれた。 思っていた通り。先生は少し不安になっていた。 ごめんね。 大丈夫だよ。 俺はたった一人の愛しい人を抱きしめる。 でも、俺だって先生が仕事ばかりの俺に愛想尽かして他の奴のところに行っちゃわないかって不安なんだよ。 だからお願い。 ずっと一緒にいてよね── 明日は取材の仕事が入ってる。 これもTVで流されてしまうから、本当は受けたくなかったんだ。話を聞かされた時、嫌だと断ったら真雪さんに怒られた。 自分の仕事を責任持ってこなしなさい! 甘えるな! 一丁前に仕事の選り好みしてんじゃないわよ! いい加減にしなさい! 他にも色々…… 久しぶりに猛烈に怒られて相当凹んだ。 俺の横で静かに寝息を立ててる先生の頬に軽くキスをして、俺も目を閉じ眠りについた。 朝、コーヒーの匂いで目が覚める。 また先生がコーヒー用意しておいてくれたんだ。 学校がある日に泊まっていく時は、先生が先に起きて学校に行ってしまう。俺は後からいつも通り登校時間に学校に向かう。 ずっとこのパターン。 コーヒーメーカーにコーヒーを用意してくれて、そこに必ずメモが残されている。 『おはよう』だったり『今日も頑張ろうな!』だったり……ほんの一言だけのメモ。 今日のメモには『応援してる! 頑張れ!』と、そう書いてあった。 ……ありがと、先生。 俺はそのメモをポケットに入れ、学校に向かった。

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