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不安と安心
その日の授業も終わり仕事まで少し時間があったから俺は保健室に向かった。
廊下を歩きながら、行き交う生徒達の視線を感じるのが少し不愉快。
……慣れたとはいえ、ジロジロ見られるのはやっぱりいい気はしなかった。
ふと立ち止まり視線の先を振り返ると、その場にいた数人の生徒達が慌てたように散り散りに歩き出す。人の事をジロジロ見るくせに、俺がこうやって振り返ると途端に目を逸らすんだよな。
バカみてえ……
とりあえず俺の周りから人がいなくなった事にほっとしながら、保健室の前まで辿り着く。ドアの前を見ると「外出中」の札がかかっていた。
なんだ、出かけてんのかな?
そう思い、それでもドアに手をかけると鍵はかかっていなかった。保健室に入ると、いつもの場所にちゃんと先生が座ってる。
「なんだよ。外出中の札があったからいないのかと思ったよ」
そう言いながら俺は保健室に入り、ちゃっかりと鍵をかけた。
「陸也さん、会いたかった……」
俺は先生の座る椅子の背後に立ち、後ろから先生を抱きしめる。
「おいおい、ちょっと待てって…… 」
慌てて立ち上がった先生は、机の前の窓のカーテンを閉め振り返った。
「やっときたな、志音」
そう言った先生は、俺の頭を掴み顔を寄せてキスをする。怒られるかなって思ったけど、今日はちょっと優しかった。
「今日は仕事ないのか?」
「ううん、これからひとつ仕事が 入ってるの。事務所で取材…… 」
先生に会いたかったのもそうなんだけど、本当はこれからする取材の事を先生にちゃんと言っておきたくて保健室に寄ったんだ。
「取材?」
「うん……なんか今流れてるCMが話題になっててさ、取材依頼が事務所に来たんだ。前に撮った仁奈の香水のポスターも相手が俺だってわかったみたいで、今注目のイケメン紹介……とかなんとか? 朝の情報番組の1コーナーに出るんだって、俺」
先生がポカンとして俺を見る。
「あの仁奈のエロいポスターもあれ志音だったのか! じっくり見てなかったから俺も気が付かなかったわ」
俺は仕事の内容など先生や他の人には話さない。
いや、聞かれれば答えられる範囲内でなら話すけど、あまり言いたくないのが本音だった。
仁奈の香水のポスターの話も勿論していなかった。
「エロいとか言わないでよ……あれ綺麗に撮れてんだろ? エロくねえよ 」
少しムッとしてそう言うと、先生はキュッと抱きしめてくれ「ごめんな」と謝ってくれた。
先生の隣に椅子を持ってきて俺は座る。
「あのCMと香水のポスター、随分とイメージ違うよな。たいしたもんだな」
なんか変な所に感心している先生。
「あのさ、取材なんか受けて……俺テレビなんて出ちゃったらさ、また陸也さん嫌な思いさせちゃうかもしれない。ごめんね。不安になっちゃったらちゃんと言ってね」
先生が不安になっちゃったら……
違うな。
俺が不安なんだ。
そんな俺の気持ちなんてお見通しなのか、先生は立ち上がり俺の前に立つ。
「大丈夫だよ。俺はお前が大好きだから」
そう言って先生はまた優しく抱きしめてくれた。
うん。
ありがとう。
「……じゃ、そろそろ仕事行くね。ありがとう陸也さん」
先生の頬に軽くキスをして、俺は保健室を出た。
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