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取材
今日の取材は撮影も兼ねて全て事務所で行う。
真雪さんとの打ち合わせ通り、事前に質問される事とそれに対する答を頭の中に叩き込む。
……本当に嫌だな。
休日は何をして過ごしてるの? とか、得意なスポーツや好きな食べ物……あと、好きな女性のタイプとか。
休日はショッピングをしたり、スポーツジムに行って汗を流してます。得意なスポーツ? 今フットサルにハマってて、友達とチーム組んで試合したりもしてますよ。好きな食べ物……オムライス。好きな女性のタイプは、家庭的で優しい人。
白々しすぎて笑っちゃう。
本当にこれ、この通りに答えなきゃいけないのかな? 俺と全然違うんだけど……勘弁してほしい。
事務所に入ると、そこはなんだかいつもと様子が違っていた。小綺麗に片付いていて、飾ってある観葉植物も少し増えてる。
「おはようございます」
真雪さんに声をかけると、少しイラついた感じで早く着替えろと急かされた。
用意されていたジーンズを履き、少し大人びたジャケットを羽織って真雪さんのもとに急ぐ。
「どうしたの? なんか部屋、凄い綺麗じゃね?」
俺がそう言うと、ムッとした顔をする真雪さん。
「どうしたの? じゃないわよ。志音のためでしょうが。あなたが散々外でのロケや取材が嫌だ嫌だ言ってるから、ここでの撮影にしてもらったんでしょ! ぼけっとしてないでちゃんとやりなさいよ?」
「はい、すみません」
俺が素直に謝ると、フッと呆れたように真雪さんは笑い、俺の肩を叩いた。
「イラついててごめんね。今日はよろしくね。渡しておいたインタビュー内容の答えもあの通りじゃなくてもいいから。志音の好きに答えて……まあ、当たり障りないことを……って事は言わなくてもわかってるわよね? 渡しておいたやつは、参考程度に」
「うん……」
しばらくして数人の取材クルーが到着し、俺へのインタビューが始まった。
事前に聞いていた内容通りの質問。
お決まりの営業スマイルを浮かべて俺は楽しげにそれに答える。
朝の番組でなんとなく見かけたことのある、名前は知らないそのレポーターに少し歩いてポーズをとれと言われ、俺は何となく注文通りに気取って歩いてやった。
背が高いだの色が白いだの、細いのにマッチョだのと散々言われ、挙句に腹も撫でられた。
「………… 」
は? 何勝手に体触ってんの? このオバさん……って思ってたら奥で鋭い瞳で俺を威嚇している真雪さんに気がつき、慌てて俺は笑顔を作る。
そしてまた質問に話が戻った。好きなタイプを聞かれ、付き合ってる子はいるのかと聞かれた。
公衆の面前で恋人の有無なんて、そんなこと言えるわけねぇじゃんか。
でも、先生はきっとこの番組見るだろうな……
また嫌な思いさせちゃうんだろうな。で、俺も愛想尽かされるんじゃないかってまた不安になるんだろうな。
そんな事が頭を過ぎり、少し辛かった。
「好きなタイプ? これと言ってとくに無いけど、好きになったら俺、一途ですよ。大事にしたいし、大事にされたい……」
俺はカメラの向こうに居る先生を思い、そう答えた。
本当は大切な恋人がいますって言いたかったんだけど、そこはごめんね、先生──
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