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鈍感バカ

先生から不意打ちであんな事を聞かされ、てっきり二人は過去に付き合っていて愛し合っていたのかと思った。 愛し合っていた過去があって、それでも今もいい関係が続いているのかと思った。 でも先生は俺と付き合う時、好きになった人とちゃんと付き合った事がないとも言っていた。 自分が好きになって付き合うのは俺が初めてだってこと── 悠さんと先生が喋っているのを最初に見た時、二人の雰囲気がとても親密で、悠さんが先生を見る目に不安を感じたのを覚えてる。 それは今もたまに感じる。 悠さんは先生の事が好きなんだ……きっと愛おしく思ってる。 あんなにわかりやすいのに、先生と悠さんは何年一緒にいたの? 愛してはいないけど、体だけの関係だったの? 先生、鈍感すぎる…… 俺の思っている事がもし本当なら、とても残酷な事だと思った。 悠さんはどんな気持ちで俺の事を応援してくれてたんだろうか。どんな気持ちで先生を祝福してくれてたのだろうか…… ……胸が詰まる思いだった。 先生を追い返してから、俺は全然眠れなかった。 いくら考えたって、俺は先生の事を愛してるのに変わりないし、もし悠さんが今でも先生の事を好きだったとしても譲るわけにはいかない。 ……こんな事、知りたくなかった。 先生のバカ! 次の日学校に行っても、どうしても悶々としてしまって竜太君に心配されてしまった。いつものように保健室に行けというセリフを散々聞かされ、それから逃れるように屋上へ行った。 屋上にはサボってる修斗さんと周さんがいて、周さんはチラッと俺を見るだけで寝てしまった。 「どうしたの? 今日は保健室じゃないんだね。喧嘩でもしたの?」 修斗さんが俺に聞く。 「喧嘩って……なんで俺が保健の先生と喧嘩しなきゃいけないんですか?」 修斗さんはこないだのことで俺と先生が何かあるってきっと気付いてる。でもはっきりとは聞いてこないから、俺も本当のことは言ってない。 「そうだね、そんなツンツンしないでよ。ごめんね……でもさ、志音くんほんとどうしたの? 寝不足? 顔色変だよ。イライラしてるし怖い怖い」 修斗さんが心配そうに顔を寄せて俺の顔を覗き込む。 「ああはい……昨夜はちょっと眠れなくって」 「えー? 寝不足はお肌に悪いよ。モデルさんなんだから気をつけないとね」 そんな事いわれなくも分かってるし。 しばらく俺は屋上で過ごし、保健室に行くこともなく授業にちゃんと出てから下校した。

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