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仕事の後で
学校の後、雑誌の撮影を終えて事務所へ帰る。
ちょっと久しぶりな敦がソファに座って俺に手を振っている。
「志音……今日顔色よくないよ。大丈夫? たまには飯でも食いに行くか?」
「……ん、いいや。俺帰る」
「なんだよ! 志音の事待ってたんだぜ俺。飯くらい付き合えって」
敦も俺の事を気にかけてそう言ってくれてるんだとわかるんだけど……
今日は放っておいてほしかった。
「いいよ、俺お家に帰るし」
もう一度敦に断りを入れると首根っこをつかまえられ、強引に外へ連れて行かれてしまった。
「だーーめ! 今日は俺とご飯!」
もうこれ以上断っても無駄だとわかったので、大人しく敦について行くことにした。こんなに強引に誘うなら始めっからそう言ってくれよ。一々聞かなくたっていいいだろ……
「今日はさ、兄さん奢ってやるから。なんかわかんねえけど好きなもん食べて元気出せ」
「ありがと、敦…… 」
小さな声で礼を言うと、頭をクシャっと撫でられた。
「俺はな、志音のことが大好きだから元気ないなってすぐわかっちまうんだよ。だから構いたくなるの。許してね」
歩きながら敦は俺の顔も見ずにそう言ってスタスタと先を歩く。
そして「好きなもん食え」と言って敦が連れてきてくれたところはファミレスだった。
店内奥のテーブルに案内される。
「ねえ、俺が元気ないって心配してくれて……連れてきてくれたのがここ? 奢ってくれるって、ファミレスかよ」
思わず笑って敦に言った。
「だってさ、ファミレスならなんでもあるだろ? 好きなもの選び放題だし。それにさ、ガヤガヤうるさいくらいが気が紛れていいんじゃね?」
……確かに敦の言う通り、騒がしいくらいが丁度よかった。
「でもさ、こないだみたいな高級そうなイタリアンとかかなって……」
「なに? 期待した? あの時は下心あったからああいう店をチョイスしたの。今は下心ないからファミレスで十分でしょ 」
なんだよそれ。
「極端だな!……まぁいいや。敦いつもありがとうね。ホッとするよ。ほんと、ありがとう」
やっぱり敦と一緒にいてよかった。
一人で部屋にいたらまた悶々として眠れなかったかもしれない。
敦は俺に何かを聞いてくるわけでもなく、 ペラペラと自分の仕事の話を俺に聞かせた。
食欲は無かったけど適当に頼んだ和食のセットをお腹に入れて、俺はただ敦のお喋りに付き合う。敦もパスタを食べ終えると、後は二人でコーヒーを飲みながらボンヤリと過ごした。
帰り際、少し真面目な顔をして「何か悩み事ならいつでも聞くし、助けてやれることならなんでもするよ。遠慮しなくていいんだからな」と言って敦は帰って行った。
みんな優しくて、涙が出そうだ。
俺はこのまま家には戻らず、悠さんの店に向かった──
悠さんはいつもと変わらず、店に入った俺を見るなり笑顔で迎えてくれた。
「志音いらっしゃい。仕事帰りかな?」
なんとなく気まずく感じながら、俺は悠さんに頷いて返事をする。
まぁ、気まずく感じるのは俺だけなんだけど……そんな俺の心情をすぐに察した様子の悠さんが、軽い感じで俺に聞いた。
「なんだ? 志音も浮かない顔して、イケメン台無しよ」
……志音、も?
ああ、先生も来たのかな?
ここに来て先生も浮かない顔して悠さんに心配されたのかな。
先生は悠さんに話したんだろうか?
でも悠さんの顔を見る限り、いつもと変わらない。
「ねぇ、陸也さんもここに来たの?」
俺は悠さんに聞いてみた。悠さんはキョトンとした顔をして「そりゃ常連なんだし来るだろ」と言って笑った。
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