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何の涙?
俺はやっぱり黙っていられなくて、思い切って悠さんに聞いてみた。
「ねぇ悠さんって、陸也さんと……その……付き合ってた……って言うか、えっと…… 」
「なに? 志音大丈夫? しどろもどろだよ。俺と陸也の関係が気になるの?」
「………… 」
悠さんは顔色も変えずににこにこと俺に言う。
「何か言われた? 陸也に」
悠さんにそう言われた俺は頷き、正直に話をした。
「悠さんと……その、体の関係があった……って。本当?」
ふふっと悠さんは鼻で笑ってから、小さく溜息を吐く。
「陸也はなんでそんな事を言うんだろうな。アホなんかな?」
そう言って俺の頭を撫で回した。
俺が何も言えないでいると、そんな俺の方に身を乗り出しながら悠さんは「ごめんな」と謝った。
「うん、正直に言うよ。陸也の言ってる通りだ。俺とあいつはそういう関係だった……でも勘違いすんなよ? もうとっくの昔に終わってることだし、別に付き合ってたわけじゃない。恋人でもなんでもなかったんだから」
少し寂しそうにも見えてしまう、そんな笑顔を浮かべて俺にそう言う悠さん。
「ごめんな。ムカつくか?……そうだよな。嫌だよな……でも今はなんでもない、本当だ。腐れ縁でずっと一緒だったけど、それだけだ。単なる友達。陸也の大切な人は志音なんだぞ、な? わかってるよな?」
俺が黙っているからか、悠さんは弁解じみた感じに俺に話し続けた。
「悠さん……ごめんなさい。俺……俺……悠さんの気持ちわかってなくて」
涙が出そうになってしまってる俺を見て、悠さんはぽかんとしている。
「へ? なに? ……俺の気持ち? なんで志音が泣きそうになってんの?」
「だって……だってさ、悠さん……陸也さんの事が好きだったんじゃないの? それなのに……俺…… 」
「………… 」
悠さんが黙り込む。
しばらく黙って俺を見ていたけど、プッと吹いて笑い出した。
「俺が? 陸也の事を?……なんでそんな風に思う? 恋愛感情は無いよ。わかるだろ? 体だけだよ。単にそういう関係だったってだけ」
「悠さん……でも……俺 」
いや……
先生の事を見る、あの悠さんの顔が目に焼き付いている。
悠さんはずっと先生の事を思っていたはず……
涙が溢れた。
「悠さん…… 」
悠さんと目が合うと、悠さんの顔色が変わった。
「なぁ志音さ、仮に俺が陸也の事が好きだったらなんだって言うんだ? 今でも俺が陸也の事が吹っ切れなくて辛い思いをしてるって言ったら、志音は俺に何かしてくれんのか?……陸也を譲ってくれんのか? あぁ? 今お前が溢してる涙はなんなんだ? 俺への哀れみか? 志音はどうしたいんだよ。謝罪? 弁解? 俺に許して欲しいから泣いてんのか? ……それさ、俺をバカにしてんだろ」
「………… 」
悠さんの言葉に何も言えず、俺は首を振ることしか出来ない。
違う……!
バカになんかしてない!
ごめん悠さん……
涙が止まらない。
「ごめ……ん、悠さん……違う、ごめん……」
一気に俺にまくし立てた悠さんは、またいつもの優しい笑顔に戻った。
そして温かいおしぼりを俺の顔に押し付けた。
「ごめんごめん、言い過ぎたな。嘘だからな。違うぞ? さっきから言ってるけど陸也には友達以上の感情はないから! ちょっと意地悪言い過ぎたな。ごめん、志音泣くなって……でも本当、仮に俺が陸也の事が好きなら志音が俺に申し訳ないって思うのは違うからな、わかったろ? もしそう思うなら俺に対して失礼だからやめてくれ」
フワッと頭に手を置き、悠さんが俺を見つめる。
「志音が後ろめたく思う事なんか何もない……そもそもデリカシーなく、そんな事を言う陸也が一番悪いんだけど、志音がそんな気持ちでいたら陸也だって辛いだろう? ……な? だからもう泣かないで。ごめんね」
「悠さん……ごめん」
悠さんが先生の事が好きでもそうでなくても……俺はいつも通りでいいんだ。
ごめんね、悠さん。
傷付けて……ごめん。
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