145 / 165
携帯電話
志音が母親兼事務所社長の真雪さんを紹介してくれると言ってから二週間……
やっと都合がつき、会ってくれることになった。
真雪さんの方も早く俺に会って挨拶をしたいと思っていてくれたみたいで、それを聞いてガチガチになる胸の緊張が少しだけほぐれた気がした。
「で、いつ? どこで会うの? 何時頃?」
今日志音は俺のマンションに来ている。
ソファに座り、俺の肩に頭を乗っけて全身で寄りかかり寛いでる志音に向かって俺は聞いた。
「え? えっと今度の土曜日ね……確か夜七時に……駅前のとこにあるホテル、何つったっけ? そこのホテルのレストランを予約してあるって言ってた」
……なんだよ、大事なことだろ? なんでそんなに適当なんだよ?
興味なさそうな志音がそう答えながら、相変わらず同じ姿勢で俺に寄りかかり携帯を弄っている。
……てかさ、さっきから何そんなにポチポチ携帯弄ってんだよ。
志音にしてはちょっと珍しい光景だった。
俺は首を志音の方に向けて、手元の携帯を覗き込む。
メールしてんのかな……と思った途端に、サッと画面を消して携帯をポケットにしまってしまった。
え?
何今の……
もしかして隠された?
気のせいかな?
「ねぇ、さっきから何携帯弄ってたの? 俺と一緒の時に珍しいよね、そういうの……」
「へ? 別にいつもと一緒だろ?」
ひとことポツリとそう言うと、志音は立ち上がり冷蔵庫に向かった。
「陸也さ〜ん、これもらっていい? 俺、喉乾いた」
何かよくわからないけど違和感を感じる。いつもと一緒と言うけれど、俺には一緒だとは思えなかった。
「あ、どうぞ……」
さっと隠された携帯の画面。何が書いてあるのかはわからなかったけど、たしかに志音は誰かにメッセージを打っていた。
「志音、こっちおいで」
キッチンに立つ志音に向かって両手を出すと、照れ臭そうにこっちに来る。ソファに座る俺の膝の上にドスンと跨って座り、にこにこ笑う志音が可愛い。
「なぁに? 陸也さん……なんか言いたそうな顔して」
上目遣いで俺を見た志音を無視して俺は志音のポケットに手を突っ込んだ。
「? なに? え? なんだよ携帯! ちょっ、取んなよ!」
慌てて志音が俺から携帯を取り上げた。
「だって、なんかコソコソ嫌な感じ! 見せろよ。さっき何メールしてたの?」
「はぁ? 女かよ! 普通に携帯覗かれたら隠すだろうが! なんでいちいち陸也さんにメールの内容見せなきゃなんねぇの? ……プライバシー侵害!」
確かにその通りだけど……
「だよな。ごめん……でも今まで俺と一緒の時にあんなに携帯弄ってる事なかっただろ?」
「あ……ごめんね、そうだよね。ちょっと緊急な用件だったから……返信してたの。これからは気をつけるね。だからもう携帯覗こうとしないでよね」
そう言って志音は俺の額にキスをした。
……緊急ってなんだろう。仕事の事かな?
友達かな?
少し気になったけど、志音が俺の膝に乗ったまま顔中にキスをしてくるもんだから、もうそんな事はどうでもよくなった。
ともだちにシェアしよう!