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約束の時間

約束の土曜日、志音の親代わりという真雪さんに会うため俺は滅多に着ないスーツを着て髪を整える。 少しでも相手に安心してもらえるように…… 俺は志音より随分と歳上だから、真面目に考えてる事をきちんと伝えないといけない。 俺は真剣に志音との事を考えてる。 快く認めて貰いたかった。 ……緊張。 志音は今日は用事があるとかで、後から来る予定だった。 ホテルのラウンジで志音と落ち合ってから上階のレストランへ向かう。 そう言っていたのに…… 待ち合わせの時間が過ぎても志音は来なかった。 どうしたのかな?……なんだよ、遅刻か? いつも時間にはしっかりしている志音なのに、こんな時に限って連絡もつかないなんて気持ちばかり焦ってしまう。 レストランの予約の時間も迫ってきて、いい加減本気で焦る。 これ以上は待ってられないからしょうがないと、意を決して俺は一人で向かおうと席を立つ。 ふと側にいた派手な雰囲気の女と目が合った。女はにっこりと俺に微笑むと、気さくな感じに声をかけてきて少し驚いてしまった。 「あなた、高坂さん?」 「……はい、どちら様で?」 不躾な感じでちょっとムッとしてそう聞いてしまったけど、すぐに後悔した。 「あら、突然ごめんなさいね。私、結城真雪と申します。いつも志音がお世話になりまして……」 は! マジかよ! いきなり…… 「あ! すみません……わからなくて」 真雪さんは焦りまくる俺を見て笑い「そろそろ時間よね? 行きましょ」と言って歩き出した。 エレベーターの中で、真雪さんに志音は一緒じゃないのかと聞かれ、俺は頷く。 「さっきの場所で落ち合ってから上に行くつもりだったんですが、なぜか来なくって……連絡も取れないから困ってたんですよ」 「あら、連絡もなしに珍しいわね。志音ああ見えて真面目なのよ」 少し真雪さんも心配そうにしていたけど「まあそのうち来るでしょう」と笑い、レストランに入った。 俺たちは奥の個室に案内され、もう一人は後から来る旨を伝えて席につく。 見れば見るほど綺麗な人だ。 見た目も派手で華がある。さすがモデル事務所の社長ってだけあるな。 なんて、思わず見惚れていると真雪さんに話しかけられた。 「志音が言ってた通りの人で驚いたわ。すぐに高坂さんだってわかりました」 「言ってた通りって…… 」 「あぁ、高坂さんはいい男だからすぐにわかるよって志音が」 一気に顔に熱が集まる。 あいつ何てことを…… 「いやそんな事ないです。志音ってばそんなふざけたこと言ってたのか。恥ずかしいな…… 」 俺が顔を赤くして恐縮していると、それを見て真雪さんは豪快に笑った。

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