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大切な日なのに……

真雪さんが俺の顔を覗き込む。 「志音から?……どうしたの?」 俺の携帯画面には、たったひと言『今日行けなくてゴメン』と書いてあるだけだった。 今日は志音にとっても大事な日じゃなかったのか? 俺は少なくともこの先の人生をかけたと言ってもいいくらいの大切な日だと思っていたけど? 「………… 」 なんだよこれ。 こんなたったひと言だけ。 「高坂さん? ……なんかごめんなさいね」 俺の顔色を見た真雪さんは、心配そうにそう言った。 いや、真雪さんが悪いんじゃない。 「すみませんでした。僕のために時間を作ってくださって、本当にありがとうございました……志音は、なんか急用だったみたいで……ごめんなさいって連絡が来ました……」 俺は申し訳なさと、悔しさ、それと悲しさで力が抜けてしまった。 「私は志音じゃなくてあなたに会いたくてここに来たんだから、気にしないでね。志音の事は任せます。今日は本当にありがとう」 真雪さんにそう言われ、俺は頭を下げた。 行けなくてゴメン……って事は、これ以上待ってもここには来ないって事だよな。 真雪さんと二人で食事を終えて、俺は自分の家に帰った。 真雪さんは凄くいい人だった。 俺の事も気に入ってくれたみたいだし。 とりあえずよかった…… 疲れがドッと出て、帰宅するなり俺はそのままベッドで寝てしまった。 何時間経ったのか…… すぐ横に人の気配がして、うすらぼんやりと目が覚めると綺麗な顔が俺の事を覗いてた。 「陸也さん? こんな格好で寝ちゃって……スーツ、シワになっちゃうよ」 志音が優しい笑顔で俺に言う。 「別にいい……」 俺は志音の言葉を無視して背中を向ける。 あぁそうか、合鍵で入ってきたのか。 今来たのかな?……って一体今何時だよ。 てかさ、言う事はそれだけか? そんなことを考えながら、俺は不貞腐れて眠りについた。 翌朝目覚めリビングへ行くと、志音はテレビを見ながらコーヒーを飲んでいた。 起きてきた俺に気が付き「おはよう……」と声をかけてきたけど、俺は何て言っていいのか返事に困り寝室へ引き返してしまった。 ……俺、嫌な感じだ。 とりあえずシワくちゃなスーツをその辺に脱ぎ捨て、またベッドへ潜り込んだ。 寝室のドアが開く気配がして志音が入ってきたのがわかる。 「……陸也さん」 俺の名前を呼び、ベッドの端に腰掛ける志音。 背中を向けてるからわからないけど、きっと志音は俺のことを見つめてる。 「陸也さん……怒ってる?」 「………… 」 「行けなくて、ごめんね。陸也さん……起きてるんでしょ?……ねぇ、顔見せてよ……」 なんだよ、泣きそうな声で言いやがって…… 「真雪さんが、志音のことよろしくだってさ」 俺は志音に背中を向けたままそう言った。 「陸也さん……ごめんね」 俺の背中に手を添え、志音が撫でた。

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