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恋愛相談
俺がそこまで話をすると、真雪さんは怪訝な顔をした。
「なによ恋愛相談って……何でわざわざ志音に? そういうのって女友達にすればいいじゃないの」
真雪さんは少し憤慨して僕に言う。確かにそうなんだけどさ。
「俺も最初はそう思ったよ。でも……彼女の場合、ちょっと特殊……と言うか、女友達には、うん……相談出来ないかな」
俺が言葉に詰まっていると、勘のいい真雪さんはすぐにわかってくれた。
「……もしかして、相手も女の子?」
俺は頷く。
真雪さんは俯いて額に手をやり溜息を吐いた。
「仁奈は志音の事は知ってたのね? それであなたに相談?」
「うん、最初の香水の撮影の時に何となくわかったって言ってた。しばらくメッセージの交換とかしてたら突然 ' 志音ってゲイでしょ? ' なんて聞かれて驚いたんだよ……俺、そんなにわかりやすいかな」
真雪さんはクスっと笑う。そして「そんな事ないわよ」と言ってくれた。
「ずっとね、好きな子がいたんだって。幼い頃から一緒に芸能活動をしていて、相手の子は今はそんなにテレビに出ることはなくなったけど、仁奈の事ずっと支えてくれてたみたい。友達としてね……でも仁奈って今凄く忙しいだろ? なんか参っちゃってるみたいで……メールの内容も電話の会話もちょっとずつおかしくなってったんだよね」
はじめは自分の気持ちをどうすれば相手に伝えられるのかって事を言っていたのに、そのうち「何もかも全部ぶちまけて芸能界なんてやめてやる!」とか、思考が乱暴になってるって思って心配だったんだ。言葉だけじゃない。電話をしながら一人酒を飲み、メソメソと泣き続けたり……
「それで土曜日の電話で初めて相手の人が同じ女の子だって打ち明けられて、俺には同性の恋人が出来てるのに自分は相手に気持ちを打ち明ける勇気も出ないって……もうこのままなら死んだほうがマシだって言い出してさ。電話で宥めてたけど、どんどん酷くなっちゃって、挙げ句の果てには ここから飛び降りて死んでやる! なんて言う始末……」
黙って聞いていた真雪さんが口を挟んだ。
「そんなのほっときゃよかったのに」
確かにそうだけどさ……
「俺もそう思ったんだけど。今まで誰にも相談できないでいて、やっと悩みをぶつけられる相手ができたんだよ? 溜まってたものが溢れすぎてどうしようもなくなっちゃったのかなって思ったら、心配になっちゃって……俺には仁奈をほっとく事は出来なかったんだ」
「……志音らしいわね」
真雪さんが半笑いで溜息を吐く。
「とりあえず、会いに行くから! 会って話全部聞いてやるから待ってろって言ったら少し落ち着いてくれたから、言われるままに待ち合わせして仁奈のマンションに行ったんだ 。まさか撮られてるとは思わなくて。ごめんなさい」
真雪さんは体を乗り出して俺の顔をジッと見つめた。
いつも思うんだけど、真面目な顔をして静かに怒る真雪さんは迫力満点……
思わず尻込みしてビビってしまう。
「で?……あなたは仁奈とどういう関係なの?」
「はぁ? どういうって、ただの友達にきまってんだろ? 他になにがあるんだよ! さっきまでの話聞いてた?」
わかりきったことを聞かれ、少しカチンときてしまった。
それでも真雪さんに睨まれ、俺はまた黙り込む。
「わかったわ……友達ね。向こうも志音とはただの友達、仲の良い友達って事にしてほしいって言ってるから。交際はどちらの事務所も全否定! 何かあってもあなたは余計な事は発言しないように。わかったわね」
「……はい。わかりました。ご迷惑おかけします」
真雪さんは俺の顔を見てふふっと笑い「素直でよろしい!」と言って、俺の頭をクシャクシャっと撫でた。
「今日はもう帰っていいけど、ほんと余計な事は言わないようにね。あと! 高坂さんにちゃんと説明するのよ」
そうだよ……
何よりもまず先に、ちゃんと先生に説明しなくちゃ。
そう思っていたのに、家に帰ってからもなかなか先生に話すことが出来ずに、何もしないまま次の日になってしまっていた。
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