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電話と約束
あれから数日──
学校が終わり、今日は仕事もないから俺は真っ直ぐ家に帰った。
部屋の掃除をして、のんびりとソファに横になり雑誌を読む。
今頃先生は何してるのかな。
この時間じゃ、まだ仕事中かな?
そんな事を考えていたら、電話が鳴った。
電話の相手が先生かと思って、ウキウキしながら画面を見ると違う相手でちょっとがっかり。
でもなんだろう……?
「もしもし、どうしたの? メールじゃなくて電話珍しいね」
俺に電話をかけてきたのは仁奈だった。
『この前はごめんね。志音の彼氏さんにも迷惑かけちゃったんじゃない? あれから話せてなかったし大丈夫だったかな? って思って……』
「ああうん。ちょっとタイミングが悪くてさ、俺じゃなくて他の人から話が伝わっちゃって……傷つけちゃった。あ、でも信じてもらえてるから大丈夫だよ、何も問題ないから心配しないで」
俺らのことで仁奈が負い目を感じてしまうのも嫌だったから一応正直に話した。
『やだぁ! そうだよねごめんね! ……本当に迷惑かけちゃって申し訳ない。ごめんなさい。でね、その事でお詫びしたいから今度食事でも奢らせてよ。もちろん彼氏さんも一緒に』
「え? いいよ、わざわざ……」
ちょっと面倒くさいかなぁ、なんて思ってしまって俺はやんわりと断ろうと思った。
『うんん、奢らせて! じゃないと私の気が済まないから!』
ビシッと仁奈に言われてしまい、俺は思わずオッケーしてしまった。先生どう思うかな……でもそこまで言われちゃしょうがないよね。
『外だとあれだから、私の部屋でね。彼氏さんの都合聞いてまた連絡して。じゃ、またね!』
元気よく電話を切られ、しばらく俺は呆然としてしまった。
凄い勢いだったな……
でも元気そうでよかった。
とりあえず先生に話しておかなきゃ。
そう思った途端に玄関のチャイムが鳴って先生が入ってきて驚いた。
「お邪魔するよ……あれ? 志音お帰りなさいって言ってよ」
靴を脱ぎながら顔にかかる髪をかきあげ、俺を見て拗ねた顔をする。
「あ、ごめんね。陸也さん、来てくれたんだ。お帰りなさい」
俺は嬉しくて先生に抱きついた。
先生は、そんな俺の顎を持って軽くチュッとキスをする。これ、いつもドキドキしちゃうけど好きなんだよね。
先生かっこいいんだもん。
「お疲れ様。陸也さんに会いたかったから嬉しい。冷蔵庫にビール冷えてるよ 」
先生にくっつきながらリビングに移動して冷えたビールを出してあげた。先生は嬉しそうにそれを受け取りゴクッと飲むと、俺の肩を抱き寄せる。
「志音、あのね……俺らの事修斗くんにバレちゃった。でもあの子はこういうのを面白がって言い回るような子じゃないから大丈夫だよ」
ちょっと猫撫で声でワザとらしく、言い訳めいた感じで先生が話しだす。わざわざ言われなくても、修斗さんならとっくにわかってたんじゃないかな? と思って、俺は今更動揺することもなく「ふうん……」と頷いた。
「あれ? あんまり驚かないね。焦らない?」
少し不思議そうな顔で先生は俺に聞く。
「だってさ、俺が襲われた時修斗さんが助けてくれたでしょ? 多分その時くらいからもうわかってたんじゃないかな。あの人勘がよさそうじゃん? もしかしたらもっと前から知ってたかもだし。でもなんで? 確信つかれるような事でも言われた?」
先生は困った顔をしてしばらく黙ってから俺から目をそらして話し出した。
「いやさ……こないだの保健室の……放課後で人がいなかったけど、修斗くんが廊下を通りかかった時に……ちょっとエッチな声が聞こえちゃったみたいなんだよね。あはは……前から薄々志音かな? とは思ってたみたいなんだけどさ、今日保健室に修斗くん来て、志音にあんな可愛い声学校で出させちゃだめじゃんって笑われちゃった。あ、でも俺は否定も肯定もしてないぞ。一応な、あれは志音だって認めてはいないから」
……は?
「なにそれ! 待って! 笑い事じゃないじゃん! すげぇ恥ずかしいんだけど! 信じらんない! もう! だから保健室では嫌だって…… 」
「いや、あれは志音が悪いでしょ、煽るんだもの! 我慢すんの無理無理!俺頑張ったんだぞ? でもしたくなっちゃった……なんて言われたら無理だろ。俺のせいじゃない」
腹も立つけどこればっかりは言い返せなかった。
でもあの保健室の時から今まで何度か修斗さんとお昼一緒に食べたけど、とくに何も言われなかったな……
「……修斗さんっていい人だね」
先生はキョトンとしてから俺を見て「だな!」と言ってゲラゲラ笑った。
「あ、そうだ。仁奈がね、陸也さんにお詫びしたいって。仁奈の家で飯食わせるってさ。いつが暇?」
俺は仁奈との電話を思い出し、唐突に先生に聞いた。
「はぁ? 仁奈って、あの仁奈? 俺に詫び?」
ゲラゲラ笑ってたのに急に目を丸くして驚く先生に、俺が可笑しくて笑いが止まらなくなってしまった。
「そうそう、あの仁奈。俺と熱愛のね……迷惑かけて申し訳なかったって言って是非ご馳走させてって」
「……そっか。別に俺、関係ないのにな。わざわざ俺にまで気を使ってくれてんだ」
「関係なくないだろ! 」
何で関係ないとか言ってんの? あんなに傷付いた顔してたくせに……俺のせいでこんな目にあったのに。
「あ、志音怒った。可愛い」
ムッとしてたら、横に座る先生にギュッと抱きつかれた。
「もう……可愛い可愛い言うなよ」
「いや、志音はね、俺の前ではめちゃくちゃ可愛いんだぞ。すげぇカッコいいのにな、俺の前だけ可愛いなんて最高だな」
なんだか嬉しそうな先生は、俺の手首を捕まえ押し倒しながらキスをしてきた。
もう……
急に強引にされると抵抗できないんだよ。
俺はドキドキしながら、先生のされるがまま目を閉じ唇を許した。
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