7 / 46
快人 3
あれから兄ちゃんは昼寝をしなかったから、兄ちゃんの部屋で勉強を教えてもらったり雑談したりして過ごした。
吉田さんに呼ばれて夕飯に下りた時には聡司さんはもういなくて、いつも通り広いテーブルで兄ちゃんと2人で食事した。
夕飯後も暫く話をしていたので、居候している誠の家に着いたのは23時頃だった。
ドアを潜るとポストに茶封筒が突っ込まれているのを発見した。
嫌な予感を覚えながらポストから抜いて中を確認したら、案の定俺の写真だった。
写真を取り出した拍子にペロンと白い紙が床に落ちたから拾ってみたら、大きく「殺」と書かれていて、さすがに驚いて取り落としてしまう。
RRRRR…
同時に携帯が着信を知らせていて、このタイミングはもしやと思ったら案の定非通知だ。
『おかえり快人』
いつもの、よくテレビでモザイクのかかった人がインタビューに答える時の気持ち悪い声だ。
「おかえりってなんだよ!てめ、監視してんじゃねえ!」
『快人が悪いんだよ。最近よくその家にいるよね。ねぇ、もしかしてそこに住んでるの?』
「す、住んでねえ!」
『じゃあそいつの事好きなの?』
「ちげえよ!」
『よかった。快人が僕以外を好きなら、快人のこと殺したくなっちゃうから』
「ってめ……そういうこと言うか?てか、お前誰だよ?俺の名前知ってるってことは、俺の知り合いなんだろ?」
誠に会話しちゃ駄目だと言われたのに、しっかり会話しちゃってる。
でも、やっばり黙って聞いてなんかいられない。
『快人の事はよーく知ってるよ。殺したいほど愛してる。快人も、僕を愛するべきだ』
「俺はお前の顔も知らないのにそんなことできる訳ねえだろ!」
『そう。快人は相手の見た目を気にするんだ。大丈夫僕はきっと快人のお眼鏡に叶うよ。でも一応聞いておこうかな。快人の好みのタイプはどんなの?』
俺の好みのタイプだと?
そんなの、決まってる。
「俺が好きなのは巨乳で清楚なお姉さんタイプだ!」
どうだ参ったか!
俺がお前を好きになる可能性なんて万に一つもねえ!
『巨乳?快人、無理するなよ。君は男が好きだろ…あぁ、大きいのが好きって言いたいんだね。大丈夫。僕はナニも立派だから』
「はあぁああ!?」
男と寝てるのは兄ちゃんの為であって、好きでやってるんじゃねぇ!俺は断じてお姉さんが好きだ!
『僕の大きいので快人のかわいい尻穴をなぶってあげたいな。その内僕に跪いて足を舐めながらねだるようになるよ。入れて下さいご主人様って…』
「誰がご主人様だ!」
次々と爆弾を投下してくるので、もうどれに突っ込めばいいのやら。
『そうして快人は、僕のペニスを美味しそうに飲み込むと、満足そうに言うんだ。激しく突いてくださいご主人様、って……』
「うえー」
しかも、また妄想の世界に入って行ったし。
この、俺とこいつが主人公らしい話を聞いてると具合悪くなるから、ぶっちして携帯の電源を落とした。
「はぁ……」
どっと疲れて携帯をテーブルに置いた時に、端っこに銀色のチェーンが丸まっているのに気づいた。誠のネックレスだ。
忘れていったんだ。
チェーンを摘んで持ち上げると、調度目の高さで「M」のモチーフがぶらぶら揺れている。
サークルに入って自己紹介の時に誠の首にかかったこれを見た時はすごく驚いた。早くも対象を見つけたと思ったら、そいつは俺と同じ1年生だった。兄ちゃんを知る筈がない。
だから、単なる偶然で、誠は関係ないって思ってた。俺のターゲットのMは4年生だったから。
でも、クラスの誰かから誠の出身校を聞いたら、兄ちゃんと同じ高校であることがわかって、被ってないとは言え完全に白じゃないかもと思い始めた。
兄ちゃんが年下に無理矢理サークルに連れていかれるとは思えなかったけど、誠は体格がいいし堂々としているから、大学に潜入する事も、兄ちゃんよりも年上を装う事も、やればできたのかもしれない。サークル内の誰かと結託して、兄ちゃんを陥れたのかもしれない…そこまで考えた。
でも、いざ誠と接触してみると、エサには簡単に食い付いたものの、それ以上俺をどうこうしようとはしなかった。これまで寝た誰よりも初で、直感でこいつは違うと思った。
それでも、一応もう少し誠を知っておく必要があると思って、変態をだしに居候を願い出てみた。悩まされていたのも、毎日特定の誰かと寝るのが嫌なのも本当だったから、俺にとっては一石二鳥だったのだ。
誠は案の定いい奴で、知れば知るほどこいつは関係ないと思うだけだった。
本当は兄ちゃんに誠の事を聞けばよかったけど、俺は誠が首謀者という可能性を排除したいのかもしれない。疑うことすら申し訳ない…みたいな。
もう変態に居場所もバレたし、誠は疑いようもないくらい真っ白だし、誠の家にいる必要もなくなってしまったし、いちゃいけないと思う。
けど……なんとなく残念だと思うのはどうしてかな…。
ともだちにシェアしよう!