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快人 4

誠とは学年もクラスも一緒だけど、選考している科目が違うので、朝学校に行く時間も違う。 昨夜遅く帰ってきたらしい誠は今日は1講目はないらしく、まだスヤスヤと眠っている。 誠のアパートは大学の目と鼻の先にあって、信号がなければ1分くらいで校門まで着けると思う。 「よぉ快人!」 誠のアパートの前で信号待ちをしてたら、楢橋さんに肩を抱かれた。 「今日の約束忘れてないよな?」 「忘れてませんよ」 「ならいいけど。そういや快人、今このアパートから出てこなかったか?」 「い、いや?気のせいですよ」 誠の家に居候しているのは、なんとなく黙っていた。俺の相手は4年だけだから、変な風に誤解されてサークル内で誠の風当たりが強くなっては申し訳ない。 「そうかー?もうこれ以上オトコ増やすなよ」 「もう増やしませんよ…たぶん」 「たぶんってなんだよ、たぶんって。んっとに悪い子だよお前は」 そう言いながらも楢橋さんはニコニコ上機嫌だ。楢橋さんみたいなタイプは普通にモテるから、こういう自分の思い通りに行かないタイプが新鮮で面白いんだろう。 ザ・オスって感じだから、難しい狩り程燃える…みたいな? もし楢橋さんがターゲットだった場合は、楢橋さんだけに絞らないで少しフラフラしてるくらいの方が夢中になってくれるのかもしれない。 「それそれ」 「はい?」 「快人のその、なんか企んでるみたいな冷たい表情ゾクゾクすんぜ。冷たくて、小悪魔っぽくてさ」 チュッと頬にキスを落とされる。 俺が大学でゲイ認定されているのは、半分くらいはこの人のせいだ。 学内随一のモテ男の楢橋さんは只でさえ目立つのに、男の俺と学校だろうと路上だろうと気にせずこういう行動をとる。 俺は、関係ない人にそういう性癖だと思われるのは嫌だけど、そんな素振りも見せずに楢橋さんの好きな俺を演じる。 口の端っこだけで笑って、目線だけ隣の楢橋さんに向けた。 楢橋さんは満足そうに笑っている。 「じゃ、今日俺午後ないから、マンションで待ってるな」 学部の違う楢橋さんと別れて校舎に入るとすぐにクラスメイトが寄ってきて、一緒に統計学の教室まで歩く。 その間にもどんどん人数は増えて、口々にダリーとかねみーとか言ってる。 みんな今風の軽いノリの大学生で、コンパやクラブに勤しむ普通の男子だ。と思う。 この中にあの変態がいるなんて考えられないけど、残念ながら今の所それ以外も考えられない。 一体どいつが変態なんだ…といつも一緒にいる奴らを一人一人思い起こしてみるけど、怪しいと思える奴が一人もいない。 「朝島。昼休みに研究室に来なさい」 考え事に集中して全然講義を聞いていないのがバレたのか、講義の最後に講師に名指しされた。しかも呼び出しかよ。 昼休み、嫌なことはさっさと済ませようと思い、さっそく講師の佐野の研究室に向かった。 研究室のある階には講堂や教室がないので廊下はシンと静まり返っている。 一番奥に佐野先生の部屋があって、ノックするとすぐに応答があった。 「失礼します。朝島です」 中に入ると、沢山の本が積まれた机の奥に佐野が座っていた。 「朝島、何で呼ばれたかわかってる?」 眼鏡をクイッと神経質そうにあげながら佐野が言う。 「ええと…授業態度、ですか?」 「授業態度?まぁそれもそうだけど、この間出して貰ったレポートだよ。君は全然授業を理解してない様だ」 う…確かに、忙しくて提出期限ギリギリにすごく適当にやった自覚はある。 「すいません」 「このままじゃ単位はあげられない。けど、朝島、お前単位ギリギリしか講義を取ってないそうじゃないか」 「う……」 元々はちゃんと勉強したくて大学進学を決めたけど、兄ちゃんの事を知ってからは、そんな自分の事よりも兄ちゃんの為の復讐を優先したかった。 でも、留年なんてしたら、父ちゃんに顔向けできねえよ…。 「単位があげられないのは可哀想だから、救済措置を考えてあげたよ」 「え?なんですか?」 単位をくれるならなんだってする。 レポートのやり直しだってなんだって。 「今日から毎日昼休みはここに来なさい。僕が特別講義をしてあげるから」 うう…。これまた面倒くさい…。 でも、単位の為だ。 それに、1対1で講義を受けられるなんて贅沢なのかも? 「よろしくお願いします!」 「よし。じゃあ早速始めるよ。座って」 学生がゼミの時に使うテーブルに座ると、隣の席に佐野先生が座った。 「Excel開いて。この問題の特性値を出してみて」 机の上のノートパソコンを使って数字を打ち込んでいく。こんな初級の問題は余裕だ。 「なんだ、やればできるんじゃないか。じゃあ、基準値も出してね。………あぁ、そこはこうした方がいい」 な、なんだ…? 先生いつの間にかすげー近いし、俺のマウスを握る右手の上に手が重ねられてるんですけど…。 「せ、先生?」 「んーどうした?集中しろよ」 手は離れて行ったけど、そんな側でじっと見られてたら気が散るって! 吐息までかかるんですけど! あぁ、もう! ともかく早く終わらせようと思って、出された問題を次々に解いた。 そうして、変な距離のままかなりの問題数をこなして、ようやく昼休みが終わった。 「明日はもう少し難しい問題を用意しておくよ」 げっそりしながらその言葉を聞いて、更にげっそりして次の講義に向かった。 * * * 楢橋さんのマンションのチャイムを鳴らしたら、ドアが開くなり腕を引かれて、玄関で抱きすくめられた。 「あー快人が足りなかった」 「先週会ったのに?」 「毎日でもこうしてーよ。俺だけのにしたい」 とか言っておきながら、俺が本当に楢橋さんだけに夢中になったら飽きる癖に。 「でも楢橋さん彼女いるじゃないですか」 「快人が俺だけのになれば、すぐ全員と別れるぜ。本気なのはお前だけだよ」 「……って、みんなに言ってるんだ?」 「おいおい、参ったな。お前が一番だって。来いよ。ベッドで証明してやる」 ベッドまで腕を引かれて行くと、すぐに唇が塞がれて倒された。 「好きだぜ快人」 楢橋さんは、兄ちゃんをやったんだろうか。 サークルの中心人物だし、やっぱり参加したのかな…。 怪しまれない様に楢橋さんのキスや愛撫に応えながら、いつもいつも頭の中はこのことばかり考えている。 「快人、今日ちょっときついな。力抜いて」 元々尻の穴なんて、入れるための器官じゃないから、1日使わないだけでも固く閉じてしまう。 「う……いって…」 ギチギチと狭い所を広げられて、切れるんじゃないかとちょっと怖いくらいだ。 楢橋さんは俺の顔色を見て動きを止めてくれた。 はぁーと深く息を吐いたら少し楽になって、そう思ったらまた楢橋さんがゆっくり腰を進めてきた。 太い所はもう入っていたから、そんなに痛くなかったけど、奥の方を突かれるのはあんまり得意じゃない。全然遠い筈なのに、胃が持ち上げられて中身が出そうな感じがするから。 「まだ奥だめ?」 「う…ん、なんか、おえって…」 「じゃあやっぱりここ責めるか」 「あっあ…ん、だめっ…」 楢橋さんが挿入する角度を変えていい所に当たるようにした。 「だめじゃなくて、いい、だろ?」 「だ、め…つよいっ」 「すげーいい顔してる癖に?」 「や、見るなよっ」 「激しいの、好きだろ?」 楢橋さんは基本的にSだ。本気で嫌がることはしないけど、こうやって軽く虐めるやり方が好きみたいだ。 何度か体位を変えられてリズミカルに責められたら絶頂感がやってきた。 「俺、も…だめ…」 「快人その顔すげーエロい…」 もう出したい。自分の手をいつもみたいに前に持っていったら、楢橋さんにやんわり掴まれた。 「快人、そろそろトコロテンしてみよ」 「むりっ、できないよ…」 「できるって。ちょっと俺一回イかして。中出ししていい?」 「だめって言っても、出す、くせにっ」 「よくわかってるじゃん」 ドクドクと楢橋さんが動いて中が熱くなった。 「はぁ、はぁ……あっ…」 乱れた息が落ち着く間もなくまた楢橋さんが腰を打ち付けてきたから、堪らなくなって…… 「ダメだよ」 前を触ろうとした手をまたとられてしまう。 「やだ、じゃあ触ってっ」 楢橋さんの手を握り返して自身に導く。もういきたい。 「快人、いちいち可愛すぎ。断れないじゃん」 楢橋さんに突かれながら前も扱いて貰って、暫くは最高の快楽に身を任せた。

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