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快人 6

人気のない研究室に続く階段を重い足取りで上る。 今日は午前中講義がないので午後からだけど、昼休みに佐野先生の所に行かなければならないので少し早めに出なければならなかった。 昼食に誠がサンドイッチを作ってくれたので、昨日よりも調子はいい。 研究室のドアをノックして返事を聞いて中に入る。 「朝島、待ってたよ」 「お願いします」 昨日と同じ席につくよう指示されたので、パソコンを起動した。 「今日はこれね」 「う…こんなにですか?」 「早く始めないと終わらないよ」 確かに。終わらなくてこの時間が伸びるのも、単位をあげないとか言われるのもごめんだ。 先生は今日もまた隣に座って近かったけど、無視無視と言い聞かせてせっせと表を作ったり、グラフを作ったりした。 「朝島…」 先生はなんか鼻息荒いし、更に近寄ってきた。 人間にはパーソナルスペースというものがあるんだと言うことを小一時間程説教してやりたい。これだから理系は変人って言われるんだ。 「快人…」 「先生、マウスが動かせません」 突然名前呼びになったし、また俺の右手に手が重なってるし。 「焦らさないでくれ…。分かってるんだろ?」 「はい?」 「僕もね、君みたいな可愛い男の子が好きなんだよ」 「うわっ、ちょっと、何すんだよ!」 先生に…佐野に頬ずりされて慌てて席を立った。 「君も僕と同じで男が好きなんだろ?」 「好きじゃねえし!」 「誤魔化さなくていい。君のサークル内での事は知ってるよ。……単位、欲しくないの?」 「お前!…卑怯だぞ!」 「先生って呼びなさい。僕ともいいことしよう?単位もあげるし、気持ちいいし、いいことずくしだよ?」 佐野がずいずいと迫ってくるので、後ずさる。俺って、単位の為なら何だってする色情狂とでも思われてんのか? 「ね?愛し合おう?」 目前まで迫ってきた佐野にそう言われて、ピンときた。 こいつ…! 「お前だったのか!」 「ん?何が?」 デレデレとだらしない顔の佐野が言う。とぼけるなよこの変態! 「お前だろ!?毎日電話かけてきて、つけ回して、盗撮して、脅迫してるのは!」 こいつなら、居眠りしてたのも、レポートがギリギリだったのも知ってるじゃないか。それに、しゃべり方がなんとなく似てる気もする。 「何の事?快人、そんなことされてるの?」 「とぼけんじゃねえ!お前しか考えらんねえんだよ!」 「よしよし、分かった分かった。その相手には僕が言って聞かせてあげるからね。まずは僕に快人を味見させて」 「無理無理!もう単位なんかいらねえよ!」 迫ってくる佐野の手を避けてドアに飛び付いた。ノブを回して押してみたけど、全然開かない。引いても駄目で、いつの間にか鍵をかけられていたらしい。 「逃がさないよ」 後ろから佐野に羽交い締めにされて抱き抱えられた。 瞬時に手と足が動きそうになったけど、一応教師だしなと思って躊躇してしまったのが…間違いだったらしい。 そのまま奥のソファにボスンと下ろされて、間髪入れずにマウントポジションを取られてしまう。 これはまずい。 俺は体格が小さいから、こうして力で押さえつけられるのと、狭い場所は苦手だ。 「快人…。キミはこれまでで一番の極上の獲物だよ」 これまでで…って、こいつ絶対初犯じゃねえな。 「素直に身を任せる気になった?大丈夫だよ、きっと君も気に入るから」 大人しくなった俺の服に手をかけて肌蹴られる。 首筋に唇を這わせられて、それがどんどん下に降りてきた。乳首を舐められてゾクッとしたけど、佐野が腰を上げて下にずれたチャンスは見逃さなかった。 「うっっっ!!」 全く油断していたらしい佐野の急所に思いっきり膝蹴りをお見舞いして、そこを押さえて丸まる佐野の下から難なく脱出した。 肌蹴られた服を軽く直して佐野を見下ろすと、まだ佐野は痛みに悶えていた。 「おい、これに懲りたらもう二度と俺に電話かけてくんな!付きまとうな!盗撮すんな!わかったな!?」 佐野は尚も苦しみながら「僕じゃない」と小さな声で言っていたけど、無視して部屋を後にした。 昔から小柄なせいで女に間違われるのか痴漢されたりすることが多かった。 だから、父ちゃんに頼んで護身格闘技というのを習いに行った事がある。 俺以外の生徒が女ばかりで、なんか恥ずかしくなってすぐ辞めたけど、人間の急所や攻撃するときの力の入れ方は教えてもらった。後は独学で自分の体格でも効果的に相手から逃れる方法を勉強して、幸いな事に本当によく痴漢に遭遇したので実践訓練も豊富に出来て、今では簡単にはやり込められない自信はある。 それにしてもあの変態野郎が教師だったなんて、驚きだ。 でも、もうこれであいつに悩まされる事もない。 単位は確実に落としただろうけど……。 父ちゃんになんて言おう…。 はぁーとため息をつきながら午後からの講義を大人しく受けた。 *** 「快人どうした?ため息なんかついて」 今夜の約束相手副部長の守山さんの膝の間にすっぽり入ってテレビを見ていた時に、ふと留年のことが頭を過った。 「俺たぶん単位足りなくて留年なんです…」 「え?何落としたの?」 「統計学です」 「誰の?」 「佐野の」 「佐野が単位やらないなんて珍しいな。特に快人みたいのは、モロあいつの好みだろ?」 「え…?って、あいつのそーいうのって、有名なんですか?」 「うん。結構可愛いのは喰われてるぜ。快人もその内お誘いくるんじゃない?」 「…いや、無理です。そのお誘い蹴っちゃったんで…」 ああ…。やっぱ一回くらい割りきってやっておくべきだったのか…? いやいやいや、でもあいつはあの変態だぞ。あいつの好きにさせたらその末路はドMで媚薬漬けのセックス中毒だ。それがいつものあいつの小説の中の俺の姿だ。 「なに?あいつ、快人の好みじゃなかった?」 守山さんが腰に腕を回してきて、ぎゅっと抱いた。 「好み以前に生理的に無理です」 「へえ。じゃあ、俺は快人の好みなんだ」 「え?あ、はい。まあ…」 断じて男なんて好みじゃないが、そう言える筈もなく適当に誤魔化したら、守山さんの手が服の下に入ってきた。 「佐野に少しは触られた?」 「ちょっと、舐められました」 「どこを?」 「首…とか、乳首とか…っ」 守山さんが後ろから首筋をツツ…と舐めて、両手の指で左右の乳首を弾かれる。 「はい。ここ持っててね。触りにくいから」 守山さんにシャツの裾をたくしあげられて、自分の手で上げておくように言われ、その通りに首の下辺りで裾を握った。 守山さんは従順なタイプが好みだから、言われたことは極力その通りにする。 繊細そうな見た目に、俺と同じくらい体の線も細いのに、楢橋さん以上のドSだと思う。 守山さんの女性みたいな綺麗な指に摘ままれてツンと尖った乳首は、自分の身体なのにすごく卑猥に思える。自分で自分のシャツをたくしあげて、明るい照明の下でこんなことをされているという状況にも無意識に煽られてしまう。 守山さんは首筋に舌を這わせながら乳首だけを執拗に責め続けた。 卑猥な自分と守山さんの綺麗な手に視角からすごくエッチな気持ちにさせられて、下は痛いくらい張りつめている。 守山さんの右手がジーンズの上から俺の中心を撫でてクスリと笑った。 「もうこんなにしちゃって、悪い子だね」 ジーンズの上からの刺激がもどかしいと思っていたら、ジーンズと下着を中途半端に…殆どモノを出すためだけという感じに下げられて、直接そこを握られた。 「あれ?なんか濡れてるよ」 「やっ…言わない、で…」 「だってほら。エッチな音がする」 守山さんが手を上下させる度にニチニチと卑猥な音がして、もう赤面するしかない。 「快人、耳まで真っ赤。可愛い。顔が見たいな」 同じテレビの方向を向いていた身体を反転されて、ニコニコ楽しそうに笑う守山さんと向かい合った。 「うん、やっぱり快人は可愛い。一回イかせてあげる」 顔をじっと見られながら守山さんにそこを扱かれて、恥ずかしくて堪らないのに物凄く気持ちいい。 「あっ…や…ッも……出るっ」 腰が勝手に前に突き出て、パタパタと白い物が零れて守山さんの手と俺の腹を汚した。 * 「1年長く大学に通えると思えばいいじゃないか」 「いや、でもやっぱ学費が…」 「なーんだ、そんな事気にしてるの?」 守山さんからしたら、学費1年分なんて大した額ではないのかもしれない。 今二人で裸で寝そべっている所もクイーンサイズのベッドだし、大学生の一人暮しにしては広すぎて豪華すぎる部屋だ。 一体どこの御曹司なんだか…。 「俺が払ってあげようか?」 「はい?」 「だから、1年分の学費。それなら心配いらない?」 「いや、いやいや、そんなことして貰わなくて大丈夫です!」 「遠慮しなくていいよ。交換条件だから。そのかわり1年間は俺と一緒に住んでもらうの。…うん、それいいな」 「遠慮しときます…」 守山さんはなんかエロすぎる。1年も一緒にいたらあの変態じゃないけど自然とドMにされてしまう気がする。 「気が変わったらいつでも言って。俺は大歓迎だから」 チュッと守山さんに軽いキスをされて頭を撫でられる。 いつも以上に甘やかされているのがくすぐったい。 シャワーを浴びておいでと言われて、広いバスルームで身体を流した。 守山さんはドSだけど、悪い人間じゃない。さっきだって落ち込んでる俺を元気付けようとしてあんなことを言ったんだろうと思う。 こんな人が、輪姦なんて仕組むだろうか。でも、そんな事を言っていたら正直誰も該当者はいない。 俺には見せない別の顔を持っている人物がいるのだろうか…。

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