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快人 7

誠は今日バイトでいないけど、それでも誠の家の方がゆっくり眠れるので、誠のアパートに帰ることにした。誠だってここに住んでいいって言ってくれてたし……。 家に帰り着くなりいつもの様に非通知から着信があった。もう来ないと思っていたのに。 「なんだよ!まだ懲りねえのか!?これ以上俺に関わるとお前のことセクハラ教師って言い触らしてやるからな!」 『何の事?』 「とぼけるなよ!あんなことしといて忘れたとは言わせねえぞ!お前佐野だろ!もうわかってんだよ!」 『何されたの?』 「てめぇ!人のこと犯そうとしてきやがった癖にすっとぼけやがって!」 『へぇ。佐野って教師に犯される所だったんだ。それは許せないな』 「だから、お前が佐野だろうが!」 『僕は佐野じゃない』 「嘘つけ!」 『本当だよ。だから残念だけど懲りてないし、セクハラ教師って言い触らされても痛くも痒くもないよ』 「え…そうなのか?」 『佐野には僕が報復してあげよう。それよりも快人。やっぱり君はそこに住んでるんだね?』 「何が悪い!」 『認めるのか。でも、まぁいい。そいつを好きじゃないっていう快人を信じてあげる。僕もそんなに暇じゃないから、そろそろ快人にこうして構うのも難しくなってきたんだよ』 「え…それって、もう電話しないってこと?」 『なんだ快人。寂しいのか?』 「んな訳ねえだろ!」 『くく…。そうだよ。電話しない。その代わり、僕と1回会ってよ』 「挑むところだ。お前俺の知り合いなんだろ?俺もお前が誰か気になる」 『そう。でも、会うだけじゃ駄目だよ。会って、一発ヤらせてくれたら、もう君に電話しない』 「はぁ!?そんなの嫌に決まってるだろ!」 『ふーん。じゃあこのまま毎日つけ回して電話かけてもいいんだ?』 「お前なんだそれ!どこのヤクザだよ!」 『はは。いい線行ってるよ快人。もう男に抱かれるのも慣れてるんだろ?1発で終われるならその方がいいじゃないか』 う…。そうなのだろうか。 確かに、会ってこいつの正体さえ判明すれば後はどうにでもできる。 この変態と1発……。 『悩んでるの?ヤらせてくれないなら、欲求不満でイライラするし、桐谷誠に嫌がらせしちゃおうかな』 「あいつは関係ねえだろ!」 『そう言えば決断しやすいかと思ってね。ヤらせてくれるんだろ?約束は明日だ。18時に大学側の駅の東口で待ち合わせ。僕から声をかけるから』 「ちょ、ちょっと待て!」 『何?往生際が悪いよ』 「その一発ってのは、普通の…なんだろうな?」 『ああ、普通のアナルセックスだよ。それとも、クスリとか鞭が欲しかった?』 「欲しくねえ!欲しくねえから聞いてんの!」 『道具もクスリも使わない。それでいい?』 「う……。絶対だぞ。それに、1発で終わりだからな。それで、もう付け回さないって約束しろ」 『ああ、約束するよ』 通話を終了して、本当にこれでよかったのだろうかと何度も反芻した。もっと他にやり方があったんじゃないかと。 でも、もう決めた以上は仕方ない。 それにしても明日か。気が重いな…。 「快人ーーー!」 キャンパス内の廊下で今夜会う約束をしていた川中さんに声をかけられた。丁度いい。 「川中さん、実は今日…」 「なんだよ快人。光希(みつき)って呼んでくれってば」 いつも通り激しいスキンシップの川中さんに抱き付かれる。 結構人通りが多いのに。 俺がゲイだと思われてる原因の残り半分がこの人のせいだ。 ああ視線が痛い。さっさと用事を済ませよう。 「光希さん、今日予定ができちゃったんです。光希さんとの約束、明日でもいいですか?」 「えっ…。まじすげーショック…。めちゃくちゃ楽しみにしてたのに…」 川中さんは捨てられた犬みたいな顔でこっちを見てくる。 「ごめんなさい。ちょっとずらせない約束なんです」 「正一?それとも憲太?」 「どっちも違います」 正一(まさかず)は楢橋さんで、憲太(けんた)は守山さんだ。 この3人が俺が手玉に取っている「M」だ。4年生で名前か名字に「M」がつくのはこの3人だけだ。どうやら噂ではもっと沢山の男と寝ていると思われているが、寝ているのは正真正銘この3人だけだ。他の4年生から誘いをかけられる事もあるが、「M」意外と寝るつもりはない。 「えー!じゃあ、他のオトコ?酷いなぁ、快人…」 川中…光希さんは、年上なのに年上じゃないみたいで、3人の中では一番気を遣わなくて済む人物だ。 「本当にごめんなさい。明日ちゃんと埋め合わせしますから…」 「埋め合わせ」が想像できるように耳元で囁いてみたら、光希さんは少し赤くなってニコニコ嬉しそうに笑った。 「絶対だかんな!」 そう言って去っていく光希さんを見送って俺も玄関へと急いだ。 約束の時間が迫っていた。 変態は一体誰なんだろう。 早く知りたい様なそうでない様な…。 そして、1発ヤル…と考えると嫌だし、緊張する。 いくら毎日の様にヤってて身体は慣らされていたとしても、初めての相手とヤるのはやっぱり怖い。相手に変な性癖があるのがわかっているから尚更だ。 嫌だな…。そればっかり考えながら駅まで歩いた。

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