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快人 14

飲みサークルの活動は、部長や副部長の思い付きで招集がかかる。 今日は金曜日で楢橋さんと会う約束だったが、飲んでからマンションに行こうと言われた。 たまに飲んでストレス発散するのは嫌いじゃないから、特に文句はない。寧ろ、楢橋さんはたまに飲み過ぎてセックスせずに寝てしまう事もあるので、そうなったら楽だなと期待してたりする。 「グラス空いてますよ」 誰かが注文した赤ワインを楢橋さんのグラスに注ぐ。楢橋さんは顔色はあんまり変わらないタイプだけど、大分出来上がってきている。 それを証拠に身体を俺にぐったりと凭れかけてきた。 「快人、容赦ねえなぁ、お前」 少し呂律の回らない口調だけど、なんか嬉しそうにしている。 「快人も飲めよ」 「飲んでますよ」 「お前可愛い顔して、かわいくねえよなぁ。全然顔色変えねぇんだから」 「そうですか?でも酔ってますよ」 俺は結構…いやかなりお酒には強い。一気とかされたら多少くるが、自分のペースで飲める分には、楢橋さん逹と同じ量を飲んでもぐでんぐでんになったことはない。いつもほろ酔いだ。 「楢橋、快人に寄りかかり過ぎだ離れろ。快人、このワインどう?俺のお勧めなんだけど」 他のテーブルを回っていた守山さんがワイングラス片手に帰ってきて、楢橋さんを押し退けて隣に座った。 楢橋さんが何か文句を言っているけど、綺麗に無視して優雅に足を組んでいる。 「お、美味しい、と思います」 俺はザルだけど正直高いお酒の味はよく分からない。安いチューハイでも発泡酒でも、なんでも美味しく飲めるクチだ。 「そうだろ。最近はイタリアのワインもなかなか美味くなったからね……」 守山さんがワインのウンチクを語っているけれど、葡萄の品種とか、熟成がどうのとか、よくわからない。ともかく、結構な値段のするワインということは分かった。俺も楢橋さんもゴクゴク飲んでたけど大丈夫か? 「快人もワインを覚えると飲むのが楽しくなるぜ。今度ヨーロッパに連れていってやろうか?」 「ヨーロッパかぁ…」 行ったことないし、行ってみたい気はする。 「快人!ダメだよ、行っちゃ。守山んと旅行なんかしたら、妊娠しちゃうから」 これまた帰ってきた光希さんが耳ざとく話を聞き付けて反対隣に座りながら言った。 「是非妊娠させたい所だ」 「えー。俺は快人の子供は見たいけど、快人とられるの嫌だからいらないかな」 「それも一理あるな。でも、そうなれば快人の男は俺だけになるだろ」 「子供が息子だったらどうすんだよ!」 「…確かに。妊娠させるのはやめよう」 「いやいや、てか俺男ですから。どんだけやられても妊娠は出来ません」 二人とも意外と酔ってるのか?なんだこの話題は。 「う…快人……」 「憲太もか…。俺も、今のは股間に来たぜ」 二人とも前屈みで下腹部を押さえている。 俺も男だ。そういう体勢になりたいときの状況は分かるけど、何で今そうなる? 「快人…この小悪魔め。やっぱり俺は不可能を可能にするくらいシテ、種付けしてやりてえよ…」 「み、右に同じ」 「快人、明日は覚えてろ。思わず排卵してしまうくらい熱いのをくれてやる」 「俺だって!明後日は、いつも以上に濃いのを何発もやってやる!」 やはり相当酔っているらしい二人は、自分達の発言にまた興奮したらしく、いっそう前のめりになっていて、苦笑するしかない。 守山さんに追いやられた楢橋さんはテーブルに凭れて寝ている様だし、夜も更けてきた。そろそろお開きだろう。 「そういや、うちのサークルは夏休み旅行とかしないの?」 回復したらしい光希さんが守山さんに訊ねる。 「しねえよそんなの。仲よしサッカーサークルじゃあるまいし」 「そーなんだよ!サッカーの小畑がさ、メンバー皆で沖縄行くって。俺も快人と沖縄の海を泳ぎてえよー」 沖縄は、確かに俺も行きたい。でもこのサークルじゃあ無理だろうな。ってか、サッカーサークルって、そんなに団結してるんだ…。 「うちのサークルを見ろ。ただの酒好きが集まって飲んでるだけの、何のまとまりも目標もないサークルだぞ。サッカーの連中みたいに仲よしこよしになれる訳ねえだろ。てか、飲みサークルがこの人数一致団結したら、悪い事しか起こらないだろ」 守山さんが酔ってる割に冷静な事を言った。 確かに、このサークルは纏まりがないけど、でも纏まりがない所がいい所だ。酒の席で気が大きくなって、しかも大人数で纏まってたら、それこそ喧嘩とかレイプとか乱交とかが横行しそうだ。 今のメンバーやサークルの雰囲気を見てると、輪姦なんて起こりそうもないといつも思っていたのは、いい意味で纏まってないからだ。 去年まではこうじゃなかったのかな。でも、1年で雰囲気がガラリと変わったりする物だろうか。 程なくして、守山さんの号令で会はお開きになった。 「楢橋さーん。起きてください」 テーブルに突っ伏した楢橋さんの肩を揺する。 そうしている時に、今日は来ていないと思っていた誠と目が合った。きっと死角の席で飲んでいたのだろう。 誠は何も言わなかったけど、じっとこっちを見ていて、少し気まずい。 そう思っている内に誠は隣の友人に声を掛けられて帰っていった。 あの日以降、お泊まりはせずにちゃんと帰っていたけど、今夜は誠のアパートに帰れるかな。もうこんな時間だから、泊まらないと楢橋さんは納得してくれない気がする。 「快人、そんな酔っぱらい放っておいて、今夜も家に来いよ」 「憲太ズル!俺の所に来いよ快人!」 「う…うう、お前ら、好き勝手な事、言いやがって…」 楢橋さんが頭を押さえながら身体を起こして俺の手を取った。 「起きやがった。どーせ部屋に着いても寝るだけだろ、お前」 「んな訳、ねぇだろ。俺を誰だと思ってんだ」 「えーと、ヤリチン正一ちゃんだっけ?」 「うるせーアホ川中!快人が誤解するだろ!」 「誤解ねえ?」 「あーもう、うるせえ!帰るぞ快人」 急に立ち上がった楢橋さんに手を引かれて店を出た。 足取りも確りしてて、楢橋さんもしかして酔いが冷めちゃった? 途中でタクシーを拾って楢橋さんのマンションに到着して、部屋に入るとすぐにキスされた。 楢橋さんはいつも情熱的だ。アルコールの臭いはするけど、舌も唇も意思的に動いていて、酔いはすっかり冷めた様だ。 楢橋さんの首に手を回したら、口づけはもっと深くなって、俺の気持ちも盛り上げられた。お酒のせいもあるのかもしれない。 女は好きな相手じゃないと寝れないとかなんとか言うけど、その分には俺は男でよかったと思う。好きでない相手とも、割り切ってセックスができるから。 楢橋さんの手がベルトに伸びて、するりとそれを外される。 まだここ玄関なのに、ここでやる気? あっという間に俺は全裸にされて、楢橋さんも全部脱いだ。 「綺麗だ」 楢橋さんの手の平で産毛を撫でるみたいにそっと上半身を撫でられた。 楢橋さんも、たぶん他の二人も、普通に女が好きな筈なのに、男の俺の身体をこんな風に触るのはどんな気分なんだろう。 「っ…楢橋さん…」 楢橋さんが俺の前に跪いて、俺の物をくわえた。 楢橋さんはそれを俺にさせたがるけど、あまり自分からしようとはしなかったのに。 楢橋さんの頭が動く度に快感が突き抜ける。 何かにすがりたくて、楢橋さんの髪に指を絡ませた。 「……ちょっ、楢橋さん…も、離して」 「いいよ。このままイけよ…」 我慢できなくて楢橋さんの口の中に放つと、楢橋さんはそれを自分の手の平に出した。 「ローション代わり」 「ここでするの?」 「おう」 俺は後ろを向かされて、壁に手を付き尻をやや突き出す姿勢をとらされた。 そして、後ろに自分の出した物を塗られた。 「快人。俺、本気でお前が好きだぜ」 入り口を指で広げながら楢橋さんが言う。 「ありがと…」 惚れさせておくことが俺の目的なのだから、喜ばなきゃいけない。なのに、気持ちは複雑で、少なくとも俺は心から喜んではいない。これは罪悪感なんだろうか。楢橋さんが、兄ちゃんを輪姦した主犯かもしれないのに。 「そろそろいいか?入れるぜ」 「うん」 でも、もしも楢橋さんは何も関係がなかったとしたら?俺に出来ることは、今だけでも満足して貰うことだけだ。例え心が伴っていなくても、いいセックスが出来れば、その思い出は決して悪い物にはならないだろうから。 「ん…はぁ…」 「入ったぜ。快人、好きだ」 「あっ…あ…楢橋さんっ…」 「好きだよ、快人」 楢橋さんは、俺が何も答えないのに、何度も好きだと言った。俺の復讐の決意も使命も何もかもが揺らぎそうなくらい甘い響きで、思わず絆されそうになってしまう。 人間、簡単に悪魔にはなれない物だ。 やるべきことは明確なのに、自分の感情が邪魔をする。 結局玄関で一回した後ベッドでもう一度した。終始甘々だった楢橋さんに帰るとは言い出せなくてそのまま泊まった。 もう朝方だ。明日が大学休みとはいえ、誠だってきっともう寝てる筈。 そんな言い訳を自分自身に言い聞かせながら楢橋さんの胸に抱かれて眠った。

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