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快人 2

仕事場に向かう車の中で、兄ちゃんがどうしてそこで働かなければならなくなったのかを聞いた。 その話は驚くことばかりで、俺は目が点になっていたと思う。 聡司さんはヤクザで違法ドラッグを売人に売っているそうだ。兄ちゃんが聡司さんを危ない人と言っていたのはそういう事だったのか。 聡司さんが扱っているクスリの中でものすごくレアで高価な物を兄ちゃんがくすねて、上の人を怒らせてしまったとかそんな内容だった。 それがその世界でどれだけいけない事なのかとか、俺にはよく分からないけど、聡司さんの口振りでは、すごく悪い事みたいだった。 兄ちゃんがそんなことするなんて…。でも、確かに兄ちゃんが少しおかしい事はこれまでに何回もあった。 あれは、クスリを使っていたからだったのかな…。 ともかく、俺はその罪が赦されるまでは働かなきゃいけないらしい。 これから行く店も、実質聡司さんの所属する事務所がやっていて、聡司さんが経営を任されているらしいけど、表向きは雇われ店長とかがいて、普通の店を装っているという。 裏社会という奴に、足を踏み入れる事になるのか…。 車を降りて連れて来られたのは、裏通りの更に裏みたいな所にある雑居ビルだった。 ビルの前の狭くてあまり綺麗じゃない道路を浮浪者みたいなおじさんが足を引き摺りながら歩いている。 その1階が目的地らしく、看板には「Gray」とだけ書かれていて、何の店なのか一見分からない。 腕を引かれて入った中はかなり暗めの照明で、奥のカウンターに男が一人立っていた。 「あ…ご苦労さんです」 「この子、今日からね」 「すごい…。どこでこんな子…」 「外とデートはなし。店内だけだけど、待機はしない。送迎は僕がするから、予約が入ったら僕に連絡して。部屋借りるよ」 聡司さんは男にそれだけ告げて、また俺の腕を引いて店を出て、今度は裏のマンションの一室に連れていかれた。 そこはワンルームタイプで、ダブルベッドがでーんと置いてあった。 「もう分かってると思うけど、ここで客を喜ばせるのが仕事。今から紹介用の写真撮るから」 ベッドの上でグラビアアイドルみたいな変なポーズを取らされて、何枚か写真を撮られた。 「源氏名は…今快人は月岡奏人だから、月人でいい?」 「……何でもいいです」 聡司さんが俺のプロフィールなのだろうか。熱心にペンを動かしている。 俺は、ベッドに腰掛けたままその様子をぼーっと見ていた。 別に逃避してるつもりはないけど、今のこの状況は全然現実感を伴っていなくて、悲観も恐怖もなく、聡司さんが時々してくる質問に淡々と答えた。 「とりあえず、3000万円貯めてくれ。上には、その金を持って交渉に行くから」 聡司さんが呆然としてる俺の肩を叩いた。 「3000万…?」 「そう。目標がある方が頑張れるだろ?」 3000万円なんて、俺にとっては途方もないくらい大きな金額だ。 一体何年かかるんだろう…。 でも、やるしかないんだよな。 そう思ったとき、聡司さんの携帯が鳴った。 「…もうついたの?で、誰?…あぁ、紺野さんね。…分かった。じゃこの部屋で待たせてるから、案内して」 携帯を切った聡司さんがニヤと笑った。 「快人、早速お客がついたよ。まだ写真しか送ってなかったのにね。僕は外で待ってるから、90分頑張って。あ、本名は教えちゃ駄目だよ。これからここではお前は月人だからね」 お客…。俺、本当に金で買われちゃったんだ…。 「大丈夫。常連の優しい紳士だから」 ポンポンと俺の膝を叩いて、聡司さんは部屋を出た。 聡司さんが出ていってから程無くして現れたおじさんは、聡司さんの言う通り、優しそうで、金持ちそうなおじさんだった。 紺野さんというそのおじさんは、すぐに俺の隣に腰掛けた。 「君凄く可愛いね。写真よりいい子って、珍しいよ。名前は?」 「…月人です」 「月人か。いい名前だね。今日初めてなんだって?」 「はい…」 「男性経験はあるの?」 う…。恥ずかしい。でも正直に控えめに頷いたら、肩に腕が回ってきた。身体が緊張で固くなる。 「そう。じゃあゲイなんだ?」 紺野さんの方を見れなくて、ふるふる首を振ったら、じゃあバイ?と聞かれた。 分からない。分からないけど、男と寝れて、誠の事だって気に入っているのだから、バイと言うのだろうか。 「そう緊張しないで」 黙り込んだ俺の肩を擦って、紺野さんがクスクス笑った。 駄目だ。俺、こんなんじゃ駄目だ。 この人は、この時間にお金を払っているのに、気を遣わせてどうする。 俺は買われたんだから、ちゃんとしなきゃ。 「ごめんなさい、慣れなくて。あの…いつもどんな感じですか?俺、判らないから……教えて欲しいです」 ぎゅっと膝の上の拳を握って、びっくりするくらい近くに来ていた紺野さんを見上げたら、チュッと唇にキスをされた。 「ごめんね、あんまり可愛いから」 たぶん驚いて間抜け顔の俺に、紺野さんが笑いかけた。 「大丈夫。いつもこんな感じだよ。少し話をして、気分が乗ってきたら、えっちな事をする。月人の気分はどう?そう言う俺はもう月人を抱きたいんだけどさ」 正直ついさっき聡司さんに抱かれたばかりだし、全然したくない。けれど、そう言う訳にもいかない。 「はい…俺も……」 答えたら、紺野さんの顔が俺の耳元まで来て、義務感に駆られてそっちに顔を向けたら深くキスをされた。 ちゃんとしなきゃ…ちゃんとしなきゃ…。 そう言い聞かせて応えたら、覆い被さって来て、キスしながらベッドに仰向けに倒れた。 両手を指を絡めるみたいにそれぞれ合わせられて、濃厚な口づけは続いた。 「服を脱いで…」 そう言われたから、身体を起こして上に着ていたカットソーを脱いだら、乳首を舐められた…というか吸われた。 元々そこは開発されていたので、快感が突き抜けて身体も吐息も熱くなる。 乳首を吸われながら下も脱ぐ様言われて、たどたどしくベルトを外して下着ごとズボンを下ろした。 相手はかっちり服を着ているのに、俺だけ素っ裸というのはすごく滑稽だけど、客と買われる側なんだから文句は言えない。 「ひゃっ…」 「もうおっきくしてる。悪い子」 下を握られて、上下に扱かれて、俺は身体を悶えさせた。 「気持ちいい?」 「はい、気持ちいいです……」 しごかれるリズムとか力加減がちょうどよくて心地よくて、俺は思わず目を瞑った。 「可愛いね、月人」 「んっ……」 温かく濡れた感触に目を開いて頭を上げると、紺野さんが俺の股の間に顔を埋めていた。 これ、ヤバイ……。 強く吸われているわけでも激しく頭を上下させてるわけでもないのに、ねっとりと舌が絡み付き、口の中の柔らかな粘膜に包まれているような感触に思わず腰が引けそうになるほど気持ちいい。 「あ……こんの、さん……っ」 ヤバイヤバイ早すぎるけど出ちゃう。お客さんの口の中に発射とかだめだろ。 「こんの、さん……だめ、でちゃう……っ」 そう言ってるのに、紺野さんは全然離れてくれなくて、結局我慢しきれなくなって……。 「あっ……」 ………出ちゃった。 「月人……」 射精の余韻に浸ってぐったりしている内に、気がついたら紺野さんが顔を上げていて、目を細めて俺を見ていた………てか、喋ったってことは、口の中、カラ……。 「わーごめんなさい!」 「何も気にする事はないよ。俺はそういうことをしに来たんだし」 「で、でも、俺ひとりでいっちゃって……。そ、それに口の中に……」 わーまじで恥ずかしい。初対面のかなり年上の紳士、しかもこんな俺にお金払ってるお客さんの口の中でいっちゃうなんて……。 恥ずかしくて顔が熱くなって、ばたぱた手で仰ぐ。 「月人は本当に可愛い……」 「……あの、今度は俺が……」 紺野さんは全然怒ってないみたいだけど、紺野さんは射精したくてここに来てるんだから。ちゃんといかせてあげないと……。 紺野さんのかっちり着こんだズボンの上から股間を撫でたら、そこは既に結構硬くなっていた。 「月人も舐めてくれるの?」 「はい」 コクコク頷くと、紺野さんがクスッと笑って「じゃあお願いしようかな」ってズボンを下げた。 「ん……はむ……」 そう言えばシャワーとか浴びなかったけど、まあ紺野さんは清潔そうだからいっか。 ………それでも、ここはやっぱ排泄もするとこだし、蒸れやすい。いくら綺麗にしてても、汗の臭いとかが凝縮する場所で、紺野さんのそこも、例に漏れず多少蒸れててムッとする臭いがしてたし、ちょっとしょっぱい味もした。けど、これが俺の仕事だって言い聞かせる。 正直、抵抗が全くないと言えば嘘になる。男の股間を舐める行為に欲情するかと言えば全くそうではないし、そもそも男の裸体にだってそうだ。これが巨乳の可愛い女の子の乳首とかアソコだったら、それだけで最高にコーフンすんだけどな……。 けど、今の俺はこれが仕事。こうして金を稼がなきゃいけない。何度も何度も言い聞かせて、紺野さんがしてくれたみたいにできるだけ丁寧に肉棒を舐めていく。そうだ、これはただの肉棒だ。もう味はしないし、臭いは慣れたし。

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