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快人 3

「月人、もういいよ」 紺野さんの肉棒は、結構ガッチガチになってきたから、いけてるんじゃねーのって思ってた矢先に止められた。 「……ごめんなさい、下手くそでしたか……?」 しまったと思いながら聞いたら、紺野さんは一瞬目を丸くして、けどすぐににっこり微笑んで首をふった。 「違うよ、月人は上手。けど、口でいくのは勿体ないと思ったから」 「あ……」 ……そうか、最後までやんのか。お金を払ってる紺野さんには、どこでいきたいかを選ぶ権利があるんだ。とーぜんだよな。 「月人、客をとるのは初めてなんだもんね。大丈夫、優しくするよ……」 後ろにパタリと倒される。足を、開かされる。 「あ……イっ……」 紺野さんは、優しくするって言った割に、ローションだけ垂らした後ろに慣らすこともせずにペニスを突き立てた。当然、痛い。 「ごめんね……我慢、できなくて……」 眉間にシワを寄せた紺野さんは確かに余裕がなさそうだ。言葉とは裏腹にグイグイ腰を進めてくる。舐めてるときも思ったけど、結構大きい。 ヒ、ヒ、フーじゃないけど、その勢いで無心になってそこの力を抜くことだけを考えていると、やがて紺野さんがピストンし始めて、そしたら痛いだけじゃない確かな快感が生じた。 暫し、その快感に身も心も委ねる。 「う……っ」 俺がまたイって、それから少し遅れて紺野さんもイった。 「月人、最高だったよ。こんなに興奮したのは久々だ」 「そう……」 今日一日で何回出したかなって感じだし、もうぐったりで、俺は身体を起こす事も出来ない。ただ愛想笑いを溢すだけ。 紺野さんはササッと精液をティッシュで拭うと、俺に合わせて隣に寝そべってくれた。 ……お掃除フェラしろとか言う様な人じゃなくてよかった。 「月人のアナルは柔らかいのに締まりがいいね。まるで吸い付いてくるようだったよ」 紺野さんは満足そうだ。 下の感触のことをこうして批評されたのは初めてで、俺って確かに商品なんだなぁと思わされる。けど、具合がいいって事は売り物としての価値は高いって事だから……ここは褒められたって思うことにしよう……。 「ありがとう。紺野さんも、おっきいね」 客に対してタメ語。けど、セックスしたよしみだ。その直後のピロートークで変によそよそしく敬語を使うよりも、こうしてちょっと壁を乗り越えて甘える方が紺野さんは喜ぶんじゃないかなってなんとなく思った。 「月人を満足させられたんならよかった」 「うん、気持ちよかった」 俺の勘は当たっていたみたいで、紺野さんは眉を下げてニコニコ恵比寿顔ってやつだ。 「また指名してもいい?」 「俺でよければ…」 眠いなぁ。疲れた。これから毎日こんなことすんのか。一日一人ならまだいいけど、何人も取らされたりすんのかな……。 ……そんな事を考えながらちょっと上の空で答えると、紺野さんがクスクス笑った。 「月人は自分から売り込んでこないんだ。他の子達はみんな固定客作るのに必死だよ?」 あ、そっか。 この店で働く男達は、きっとみんな多少の訳ありだ。そうじゃなきゃこんなことしない。俺だってそう。やりたい仕事じゃないけど、ここで金を稼がなければいけないんだから、お客さんについて貰わなきゃ困る。 「次もお願いします」 「はは……まだ押しが弱いなぁ」 「……指名してください」 これ以上なんと言えばいいんだろう。紺野さんはまだクスクス笑っている。 「そうじゃなくて、生でさせてくれたり、丁寧にお掃除フェラしてくれたり……中には連絡先をくれる子もいる。そういう、特別っぽいことをみんなしてくれるんだ」 「え…」 それは、俺にもそういう事しろってこと……? 「でも俺ね、あんまり必死になられると、そんなに稼ぎたいんだって冷めちゃうんだよね。だから、月人はそのままでいいよ。その見た目なら余裕があって当然だ。きっと何も特別な事をしなくても固定客は沢山つくよ。性格も可愛いし、具合も感度もいいし……ね」 耳のあたりに口付けされて、ぞわっと身体が震えた。 「これまでいつも違う子を指名してたけど、これからは月人だけにしようかな…」 「あ、ありがと……」 耳の軟骨を唇で挟んだりしながら喋られるものだから、くすぐったさで肩に力が入る。 「まだもう少し時間あるけど、月人が辛そうだから、こうしてようね」 首の後ろに腕が回って、ごろんと紺野さんの方に身体を倒された。 首の後ろの腕にぎゅっと引き寄せられて、俺はうつ伏せみたいになって頭と半身が胸の上に乗っている。 トン…トン…とゆったりした心臓の音が心地よくて、悪くない体勢だった。 まだやろうと思えばもう1回くらいできるだけ時間はあるのに、俺が疲れきっているのを知ってこうしてくれたんだ。 紺野さんは俺から見たらおじさんだけど、身体は引き締まっているし、清潔で嫌な臭いもほぼないし、あの悪夢の様なおっさんとは雲泥の差だ。 同じおじさんカテゴリーに入れるのは失礼だな。お兄さんという事にしようかな。 「そういえば、月人は幾つなの?」 「ええと……22です」 本当は19だけど、俺は今兄ちゃんだから。 「へえ。大学生?」 「大学はもう卒業しました」 「じゃあ、これが本職?」 「う…そうですね」 受け入れがたいけどそうだ。他に何もしてないし、大学にももう行けない。 「じゃあ今度デートに誘おうかな」 「え?」 「プライベートでじゃないから安心して。お店のデートコース。ボーイさんと食事したり、映画見たり。えっちだけじゃなくて、そういう事も出来るんだよ」 「そうなんですね。でも…」 確か聡司さんがお店の人に言ってた。デートと外は駄目だって。 「俺そういうの禁止されてると思います」 「珍しいね。ベッドはいいのにデートは駄目なんだ。あんまり可愛くて浚われそうだからかな?」 「そうじゃないと思うけど……」 きっと聡司さんは俺が逃げ出すのを危惧してるんだ。 俺は兄ちゃんを犠牲にして逃げ出したりなんか絶対しないのに。 * 「それじゃ、また近いうち」 紺野さんは俺を胸に抱いて髪を撫でたり、額にキスをしたり、性的な事をあんまり感じさせないスキンシップを沢山して、シャワーを浴びた後も最後までずっとニコニコしていた。 紺野さんが帰って入れ替わりの様に部屋に来た聡司さんに、今日は初めてだからもういいよと車に乗せられる。 もう本当に肉体的にも精神的にもヘトヘトだったから、車に乗り込んですぐにうとうとして、あっという間に夢の世界へと落ちていった。

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