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誠 3

次に予約が取れたのは2週間後だった。 快人に会えない2週間、俺は自分のしてしまったことと、言ってしまった事を思い出しては強い後悔にのたうち回った。 ともかく謝りたいと思って、快人の携帯に電話をしたけど、番号が変わっていた。 快人が住んでいたマンションも訪ねたけど、引っ越した様で誰も住んでいなかった。 ようやく快人に会える今日、花屋に寄って、謝罪を伝える花束を作って貰った。 淡いオレンジ色のバラがメインのその花束は、明るくて美しい快人によく似合うと思った。 花なんて男の快人が貰って喜ぶとも思えなかったけど、他に誠意を伝える方法が浮かばなかった。 大きな花束を持って、マンションの玄関前で少し逡巡した。緊張で手にはじっとり汗をかいている。 その汗をズボンで拭って、心を決めてチャイムを押した。 中からはこの前みたく元気な返事は聞こえなかったけど、同じくらいすぐにドアは開いた。 「こんにちは」 少し控えめだったけど、それでもニッコリと笑った快人がドアを大きく開けた。 「どーぞ」 中に入る様手振りされて、玄関を潜る。 「快人、この前は、俺…」 「この間はごめんな。誠全然楽しめなかったよな」 俺が謝る前にケロッとした快人にそう言われて慌てた。 「いや、楽しむとか、そういうつもりじゃなかったのに、話がしたくて来たのに、俺快人にすげえ酷い事ばっかり言って、酷い事たくさんして、ごめん!本当にごめん!」 頭を深く下げて、花束を差し出した。 俺の罪はこんなんで赦されるものじゃなくて、本当は土下座でもするべきだったかもしれない。 「これ、俺に?」 その声に恐る恐る頭を上げると、快人は差し出された花束を興味深げに眺めていた。 「うん…。謝るのに、こんな事しか浮かばなくて…」 「そっか。ありがとな。花って、高いだろ?ごめんな、気ぃ遣わせて」 そう言って快人はあっさりと花を受け取った。 「俺の謝罪、受け取ってくれるのか…?」 「何言ってんだ、そもそも謝罪なんていらねえよ。そうしなきゃなんないのは俺の方だ。誠、俺指名するのにかなりボラれたんだろ?それなのにちゃんと出来なくて、本当ごめんな」 「快人…」 「今日はちゃんとサービスするからさ…」 サラッとした快人の手に腕を取られて、室内へと導かれる。 快人は部屋に入ってすぐの簡易テーブルの上に花束を置くと、ボサッと俺をベッドに座らせた。 そして、俺の足を跨いで膝立ちになった快人にキスをされた。 この前は俺からの一方的なキスしかしなかったから、快人とちゃんとキスをするのは2年以上ぶりだ。 好きで好きで焦がれ続けた快人にリードされる口付けについ翻弄されそうになったが、流されてはダメだと快人の肩を押した。 「快人、俺今日は謝る為に来たんだ」 「でも、もうそれは終わっただろ?楽しもうぜ」 快人が妖艶に笑ってまた唇を近づけたから、俺はまた慌てて快人の肩を押した。 「快人、俺のしたことも言った事も、そんな簡単に赦せることじゃないことは分かってる。俺、何度だってここに通って、快人に誠意を見せようって、そう思ってるから…」 「だから、そんなのいらねえって。ってか、あれか?誠もう俺の事好きじゃないから、男なんか抱きたくない?」 「そんな、そんなんじゃないよ」 「じゃあ、いいだろ。やろうぜ」 次の快人の口付けを拒むことは出来なかった。 快人のことをもう好きじゃないとか思われるのは嫌だったし、拒み続けるのも快人に失礼な気がしたからだ。 だから、快人に誘われるままに身体を重ねた。 快人はこの前とは違ってちゃんと感じて、反応して、声も出して、射精もした。 俺には快人がよく分からない。 今日の快人は、俺のよく知ってる快人の様でもあるし、俺を振る直前の快人の様でもあった。 前回会ったときは、完全に俺の知っている快人だった様に思う。激情に捕らわれていたあの時の俺には見えなくなっていたが、純粋で綺麗で可愛い、俺が好きになった快人だった。それなのに、俺はあんなことをして快人を踏みにじった。 なんであんな快人を憎いなんて思ってしまったんだろう。俺は自分の理想が裏切られて一人でキレて、快人にその気持ちを押し付けてただけだ。なんて独りよがりだったんだ。 「はぁ……誠、気持ちよかったよ」 まだ息の上がってる快人がニッコリ笑ってそう言った。 「快人、ごめん。こういうつもりじゃなかったのに、また抱いちまった」 「何で謝るんだ?それ以外でこんなとこ来んなよ」 「快人…。俺、本当にごめんな。ごめん…」 「だから、謝るなって。謝る必要ねえし」 「快人……」 快人は笑顔だけど、俺を赦してくれてる訳じゃないと思った。 あんな事したのに、何でもないことで済まされるなんて、そんなの―――。 「快人、俺また来ていいか…?」 「無理すんなよ。ここ、結構高いんだろ?」 「無理なんかしてない。俺は快人と話がしたいんだ。また一から快人を知りたい。……快人はもう俺に愛想尽かしてるだろうけど、しつこくてごめんな」 「別に……」 「え?」 「別にそんな風に媚びてくれなくても、ここに来ればヤらせてやるよ。俺はインランだから、誰だろうと喜んで受け入れるぜ」 快人は笑ってそう言ってのけた。 俺は、俺のしたことは、快人に笑顔でそれを言わせる程に惨い事で、快人をそこまで貶めたのだ。 「そんな事言うなよ…」 快人にそう言わせてるのは完全に俺なのに、自分勝手な俺は今度はそれを否定した。 「でも、事実だからさ」 あっけなくそう言う快人の笑顔は今の俺にとっては一番無情だった。 俺は快人に、「酷い、最低だ」と罵られ、怒られるのを期待していた。でも、快人にとって俺は怒る価値もないんだ。どーでもいいと割り切られ、謝罪を受け取ってすら貰えないのだから、赦される筈がない。俺は完全に快人に愛想を尽かされたのだ。 俺は取り返しのつかないことをした。 自分のしたことがどんなに非道な事か、分かっていたつもりだった。 でも、どこかで俺は赦して貰えると甘く考えていたのかもしれない。 快人の笑顔は柔らかくて穏やかなのに、俺にとっては凍える程に冷たく感じた。

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