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3-1 アキヒコ
「京阪神 霊能者 振興会 ?」
運転しながら俺が訊 ねると、亨 は首をすくめて頷 いた。
どうも怒ったような声で訊 いてた。
なんやそれ、アホみたいな集団やと、情 けなくて涙出そう。
しかもそのアホ集団に、身に覚えのないまま自分が参加したことにされてるというんやから、もうどうしようもない。
自分のせいやないのに、亨 は助手席 で携帯持ったまま、俺に叱 られたみたいな顔をしてた。
「なんやねん、それ。もう一回読め、亨 。途中から気が遠くなってしもて、今イチ聞いてへんかった」
どっかに車停 めようかとイライラ悩 みながら、俺は亨 に頼 んだ。
頼 んだって言わへんか、こういうの。
ほんなら命令した、や。命令したんかもしれへん。どっちでもいいやんか、それは。
とにかく亨 はおとなしく、受信されてたメールの文面 をもう一度読み返した。
「京阪神 霊能者 振興会 より、ご参加ありがとうございます。
本会 は京阪神 在住 の、もしくは主 に京阪神を活動地とされている、霊能者の方々によって構成されている互助会 です。
いわゆる自称 霊能者のたぐいの、実際には霊能力 を持たない方の入会はお断りしておりますので、極 めて充実 した活動内容を保証いたします。
つきましては入会金として十万円以上のお心付 けを頂戴 したく、下記の振り込み先にご入金願います」
俺は二回目も、途中からちょっぴり気が遠くなってた。
たぶんキレそうやねん。頭に血がのぼってきて、ブチッみたいな。
それを堪 えて頭がくらくらする。ふらあって目眩 がして、思わず目を閉じそうになるけど、それはヤバい。運転中運転中。
やっぱりどこかに車停 めたほうがいい。このままやと事故ってまう。
そう思って俺は、見慣 れぬ街の見慣 れぬ道に、車を停 められる場所はないか探し、しばらく走った路肩 に停 めた。
エンジン止めようかと思ったけど、暑いしやめた。
そんな地球に厳 しい俺に、カーステのラジオは地球を大切にしようという環境CMを呼びかけてた。
なにがクーラーの設定温度を下げましょうやねん。それが極 めて重要というのは頭で分かるが、今はまず自分の脳みその温度を下げることが重要や。
マジでキレそう。ここまで怒ったことって、最近無かった。ほんまにヤバい。
ついさっき道場で、師範 にめちゃめちゃイケズされた時にだって、ここまで怒ってへんかった。ちょっとムカッときた程度やったで、あれは。
「振 り込 め詐欺 やろ」
俺はなんとかそう結論 をつけた。
亨 はそれを、じとっとした反論したそうな横目 で見てきた。
「誰がこんなピンポイントなスパムを送れるっていうんや……」
そういえば誰なんやろうって、俺はやっとそれに気がついた。
「差出人 は誰になってるんや?」
「せやから、霊振会 やんか。メールアドレスも、ウェルカム、あっとまーく、れいしんかいドットJPやで」
俺はその話にもなぜかキレそうになった。それで慌 ててハンドルに突 っ伏 してた。
なんでそんなアホみたいな会 が存在すんねん。しかもドメインまで取ってる。
誰でもドメインとれる世の中って、実はまずいんとちゃうか。そんな怪 しい団体にまで、インターネットは両手を拡 げて待ってるんか。
なんでもありやな、インターネット。表現の自由を与えすぎ。
俺がそんなこと思う間にも、携帯はまた亨 の手の中で、メールの着信音 を鳴らした。
それを開くために操作 してる気配 がしてから、亨 はぽつりと言うた。
「アキちゃん、メルマガ来たわ。霊振会 から」
メルマガまで発行してる。
「霊振会 通信 Vol.138」
そんなにバックナンバーあるんか。
「よ、読む? 読んでいい?」
ちょっと読みたそうな顔で、亨はおずおず訊 いてきた。俺はそれを、思わずじろりと睨 み付けてた。
「読みたきゃ読め。俺の携帯で、そのアホみたいなメルマガを、読みたいんやったら読め」
「えっ。読みたいやろ、アキちゃんも。気になるやん、どんな内容なんか」
ごめんなごめんなと言いながら、亨 は気まずい顔して、携帯を操作 した。メルマガを開いたらしかった。そして目を眇 めて、それを読んでた。
亨 の目はいい。せやからそんな顔するのは、内容がすごかったからやろ。
「うおー……なんやこれ……京阪神 の霊能者 の皆様のステキな活動記録やで」
読もか、って、亨 は俺に訊 いた。
読むな。知りたない、そんなもん。
俺は、霊能者 や、ないから。ええか。ここ重要やから、もういっぺん言うけどな、俺は、霊能者 では、ありません。
絵描 きや。画学生 やねん。
実家 は確 かにアレやけど。俺はそれを継 いだらしいけどやな。とにかく霊能者 なんて得体 の知れんモンやないから。そんなもんになった覚 えない。
なんでそういうことになるねん。これでも一応、普通でまともを心がけて生きてきた俺やのに。履歴書 の職歴欄 に、『霊能者 』と書けというんか。そんなん、激 しく普通でないわ。
思えば確 かに、昔から、普通でないような面 はあった。
おとんがいないという点で、まずちょっと他人と違う不自然な子として小学校時代がスタートし、その他にもいろいろあった。
目には見えないお友達がいるとか。学校の一階にあるトイレにいくと、なぜか決まって一番窓側の個室から、おいでおいでって声がして、怖すぎて行けないとか。
そういうのから始まって、ふざけて俺を生徒会に推 した奴が、原因不明の水ぶくれのできる病気で一ヶ月も学校を休んだり。
それでも俺はできるかぎり、目立 たぬように生きてきた。注目されたらバレるから。俺がまともでないことが。
大学に入ってからや、その運気 が本格的に傾 いてきたのは。
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