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三都幻妖夜話(3)神戸編 4-3 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
4-3 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
33 / 928
4-3 トオル
振
(
ふ
)
り向きもせん首筋は若くて、
白肌
(
しろはだ
)
がまぶしい。 そこに
結
(
ゆ
)
い上げた
夜会巻
(
やかいま
)
きの
後
(
おく
)
れ
毛
(
げ
)
が
散
(
ち
)
ってて、
徒
(
あだ
)
っぽい。 とても、おかんの
幼馴染
(
おさななじ
)
みには見えへん。だって、おかんが幼かったんて、何十年前やねん。後ろ姿だけやけど、この人、どう見ても四十前やで。 アキちゃんの家系って、みんなものすごい長生きなんとちゃうかって、俺はふと思った。 それとも、おかんと、この人だけが異常なん? 「なんで
黙
(
だま
)
っとるんどす。
挨拶
(
あいさつ
)
ぐらいしおし」 こっちを向きもせんと、
蔦子
(
つたこ
)
さんはアキちゃんを
叱
(
しか
)
った。 アキちゃんはそれに、何やねんこの女っていう顔はしたけど、それでも
血縁
(
けつえん
)
を考えたんか、
渋々
(
しぶしぶ
)
の顔で
床
(
ゆか
)
に正座した。
水煙
(
すいえん
)
を
脇
(
わき
)
に置いて、いかにも
躾
(
しつけ
)
の行き届いた子って感じで、ぜんぜん見てへん
蔦子
(
つたこ
)
さんに頭を下げた。 「はじめまして。
暁彦
(
あきひこ
)
です。いつも母がお世話になってます」 「あんたもお世話になるえ」 ものすごイケズな声で言い、
蔦子
(
つたこ
)
さんはちらりと初めて
振
(
ふ
)
り向いた。 体をひねって色っぽく、アキちゃんを流し見た
蔦子
(
つたこ
)
さんは、口元に目立つ泣きぼくろがある、
垂
(
た
)
れ目のオバチャンやった。
類推
(
るいすい
)
される年齢から考えたら、
驚異的
(
きょういてき
)
に若い。 せやけど、おかんに
比
(
くら
)
べると、ちょっとばかし
薹
(
とう
)
が立ってた。 さっきは見た目、四十手前と思ったけど、もうちょっといってるかな。そんな感じ。せやけど、その
寄
(
よ
)
る
年波
(
としなみ
)
が、ええ感じのする人やった。 「まあまあ……」 シマシマの
袖
(
そで
)
で、赤い
唇
(
くちびる
)
を
隠
(
かく
)
して、
蔦子
(
つたこ
)
さんはアキちゃんをじろじろ上から下まで
眺
(
なが
)
めてきた。 「そっくりやないの、アキちゃんに。トヨちゃんの話、ほんまやったんやわ。そやから
何遍
(
なんべん
)
写真送れて言うても、送ってこなかったんやね。
根性悪
(
こんじょうわる
)
やわ、昔から……」 チッみたいな顔をして、
蔦子
(
つたこ
)
さんは
恨
(
うら
)
めしそうに言うた。 アキちゃんはそれに、むっとしたリアクションやった。 ここでもいきなり、おとんの話や。
機嫌
(
きげん
)
がよかろうはずもない。 「知ってるか。ウチはな、ほんまやったら、アキちゃんのお
嫁
(
よめ
)
さんになるはずやったんえ。そやのに
戦
(
いくさ
)
で死んでしまいはって。他のと
添
(
そ
)
う気はおへんて
意地
(
いじ
)
はって、いかず
後家
(
ごけ
)
になってもうたんえ」 アキちゃんはそれに、ノーリアクションやった。 そんなん言われても、俺かてノーリアクションやわ。だってなんて言うの。 「結婚……してはるんですよね?」 しばらくの
沈黙
(
ちんもく
)
のあと、アキちゃんは
耐
(
た
)
えられんようになったんか、
絞
(
しぼ
)
り出すような声でそう
訊
(
き
)
いた。 「してますえ。しょうがないやないの。
跡取
(
あとと
)
りが
要
(
い
)
るんやから。アキちゃん死んだて
諦
(
あきら
)
めて、若いツバメと結婚したんや」 まるで、アキちゃんが悪いみたいに、
蔦子
(
つたこ
)
さんはガオーッて
吠
(
ほ
)
えてた。 それにアキちゃんは、ううっていう
汗脂
(
あぶらあせ
)
の顔やった。 だってこのオバチャン、何となくやけど、おかんに似てる。おとんにも似てる。それが
秋津家
(
あきつけ
)
の
血筋
(
ちすじ
)
を
汲
(
く
)
むってことなんかもしれへんけど、アキちゃんにはそれがキツかったみたいやで。自分も同じ顔やのにな。 「ツバメって……人間ですか」 そんなこんなでテンパってたんか。アキちゃんはまた、ブッ飛んだことを言うてた。
真面目
(
まじめ
)
に
訊
(
き
)
いてんのやから
恥
(
は
)
ずかしいわ。なんでも
恥
(
は
)
ずかしい
奴
(
やつ
)
のくせに、自分のこの
天然
(
てんねん
)
ボケは
恥
(
は
)
ずかしないんか、アキちゃん。 「人間どす! ツバメと結婚できるわけおへん。あんたはアホなんか」
蔦子
(
つたこ
)
さんはブチブチ来てた。この人、なんとなく、
嵐山
(
あらしやま
)
のおかんよりも、アキちゃんのおかんみたいやないか。すぐ怒るし、ギャースって言うしやな、けっこう似てるで、キレ芸派なんかな。 「
式神
(
しきがみ
)
のことかと思うたんです」 アキちゃんは今さら自分が痛くなってきたんか、正座した
膝
(
ひざ
)
を
掴
(
つか
)
んでへこたれていた。 俺もなんとなく、すみません、うちの
相方
(
あいかた
)
がこんなでと、うなだれて座ってた。俺ら最高に
格好
(
かっこう
)
悪くないか、今。 「
式
(
しき
)
と結婚するアホがどこにいてますのん。人間の女を
孕
(
はら
)
ませられるほどの力のあるのは
滅多
(
めった
)
におりまへん。神様並みに力があれば別やけど、あいにくそんなの
手駒
(
てごま
)
にいてへん」 ぷんぷん言うてる
蔦子
(
つたこ
)
さんの横で、ふっふっふと面白そうに、
虎
(
とら
)
の
信太
(
しんた
)
が笑って言った。 「あかんなあ。みんな種無しばっかりやねん」 「気にすることおへん。
式
(
しき
)
と人とは
相容
(
あいい
)
れんもんどす。そんな
半神半人
(
はんしんはんじん
)
が、ぼろぼろ生まれてしもたら、えらいことやないの。この世の
秩序
(
ちつじょ
)
が
乱
(
みだ
)
れてしまうわ」
嘆
(
なげ
)
かわしそうに言う
蔦子
(
つたこ
)
さんの話に、俺はちょっとギクッとしてた。 やっぱり、できへんのや。子供。女に
変転
(
へんてん
)
して、アキちゃんとやっても、子供できるわけやないんや。 おかんは絶対、それを
狙
(
ねら
)
ってると思うたんやけど。それは俺の
勘違
(
かんちが
)
いやったんか。 あの人、俺の顔見るたび言うで。
亨
(
とおる
)
ちゃん、いつになったら女になるんや。いつになったらなるんやって、まるで俺がいつか
性転換
(
せいてんかん
)
するのが当然みたいな言い
様
(
よう
)
なんやで。 ならへん。俺は。 とりあえず、やり方は分かったけど、トミ子とフュージョンしたあとに、いつのまにか女の体になってた時から、いっぺんも
試
(
ため
)
してない。 あれは事故で、実はもうでけへんのかもしれんけど、
試
(
ため
)
そうという気はしてない。 だって、アキちゃんが
嫌
(
いや
)
がってたもん。今のままの俺のほうがいいって、言うてたやんか。どっちでもええんやったら、俺は今のままがええわ。
慣
(
な
)
れてるんやもん。 それに、子供できへんのやったら、男でも女でもおんなじやんか。アホくさ。
悩
(
なや
)
んで
損
(
そん
)
した。 そう
毒
(
どく
)
づいてから、俺は気づいた。けっこう自分が
悩
(
なや
)
んでたっぽいことを。
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椎堂かおる
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