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三都幻妖夜話(3)神戸編 6-5 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
6-5 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
50 / 928
6-5 トオル
蔦子
(
つたこ
)
さんは
真顔
(
まがお
)
でその質問を受けたが、しばらく答える
気配
(
けはい
)
はなかった。 「なんでもよろし。勝手に人の未来を
視
(
み
)
るもんやおへん。さっさと水族館でもどこでも行ってきなはれ。あんたはほんまに困った子ぉやわ」 ため息ついてる
蔦子
(
つたこ
)
さんは、なんや
随分
(
ずいぶん
)
と
気弱
(
きよわ
)
そうやった。 育児ノイローゼか、おばちゃま。まるで悩んでるみたいに見えるで。 実はまったく、そのものズバリで、
蔦子
(
つたこ
)
さんは悩んでた。うちの子の手に負えなさに困ってて、どうしてええかわからへん。誰に相談したらええんやろって弱気になって、
嵐山
(
あらしやま
)
のアキちゃんのおかんに相談してた。そして、おかん二人の
愚痴
(
ぐち
)
大会や。 うちの息子、悪い子ぉやねん。どないしたらええんやろ。 うちもそうやねん。ほんまにもう困ってしもて。 ああどうしよう。どうしようって、そんなおばちゃま達やねん。 「お父ちゃん帰ってきはったら
叱
(
しか
)
ってもらいますえ」 それが決め台詞みたいなノリで、
蔦子
(
つたこ
)
さんは
竜太郎
(
りゅうたろう
)
を
叱
(
しか
)
った。せやけどそんなん全く何の効果もなかった。 「
当分
(
とうぶん
)
帰ってけえへんわ。お父ちゃん、今、アフリカの奥地やで。
途上国
(
とじょうこく
)
開発支援
(
かいはつしえん
)
で
風水
(
ふうすい
)
見る言うて、行ったわええけど、土地の
精霊
(
せいれい
)
にえらい目に
遭
(
あ
)
わされてる。
竜
(
りゅう
)
、どないしたらええやろって、昨日、手紙来てたで」 集めたカードを切りながら、中一は余裕しゃくしゃくやった。
蔦子
(
つたこ
)
さんはそれに、ぎょっとしてた。 「手紙なんか、いつの間に来たんや。なんで教えてくれへんかったの」 「
僕宛
(
ぼくあて
)
やったもん。返事ももう飛ばしといたわ。北北西に
活路
(
かつろ
)
ありやって」 「そんなん、うちが占います!」 若干キレぎみで、
蔦子
(
つたこ
)
さんは息子に
怒鳴
(
どな
)
ってた。 なんやねん、おばちゃま。アキちゃんのおとんに
未練
(
みれん
)
ありありかと思うてたら、実は若いツバメとラブラブなんか。ほっぺた赤いで。ええトシして。 「ええからええから。僕のほうが
精度
(
せいど
)
高いから。お母ちゃんは休んどいて。僕が
面倒
(
めんどう
)
見たるから」 にこにこ
頷
(
うなず
)
いて、
生意気
(
なまいき
)
パワー全開で言い、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
はカードを元のポケットに
仕舞
(
しま
)
った。 どうも常に持ち歩いてるらしい。もしかしたら、こいつにとっては、このカードが
必須
(
ひっす
)
アイテムで、これが無かったら未来予知できへんのかもしれん。
嵐山
(
あらしやま
)
のおかんが、
踊
(
おど
)
らへんかったら能力を
発揮
(
はっき
)
できへんみたいにさ。
霊能者
(
れいのうしゃ
)
の皆さんにも、それぞれ個々人の
癖
(
くせ
)
や習慣があるらしい。
儀式
(
ぎしき
)
というか、持っている力を
発揮
(
はっき
)
しやすい方法論みたいなもんが。 せやけど、俺が知る限り、アキちゃんにはそれがない。
儀式
(
ぎしき
)
めいたもんは何も。ただ願ったり祈ったりするだけで、能力が
発揮
(
はっき
)
されてる。 それって実は、なにげに
凄
(
すご
)
いことなんとちがうんか。 それとも、何か自分独自の
儀式
(
ぎしき
)
を見つけられれば、もっとエグいことできる奴なんやろか。 トレーニングしだいで、まだまだ
化
(
ば
)
ける。アキちゃんはそんな感じの
逸材
(
いつざい
)
やった。 見たとこ、
海道
(
かいどう
)
竜太郎
(
りゅうたろう
)
の能力は、すでに
激
(
はげ
)
しく
開花
(
かいか
)
していて、十三歳にして完成されてる感のある能力者やった。 それはこいつが、
乳飲
(
ちの
)
み
子
(
ご
)
のころからこんな環境で育ち、自分の能力を何の疑問もなく伸ばしてきたからやろう。 それに対してアキちゃんはといえば、長年のぼんくら時代を
経
(
へ
)
て、
本腰
(
ほんごし
)
入れてからまだ一年
経
(
た
)
ってない。トシは食ってるけども、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
のほうが先輩やねん。 「アキ
兄
(
にい
)
、ヘタレなんやろ。知りたいことあったら僕が教えたるから、なんでも
訊
(
き
)
いてええよ」 にこにこして、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
はアキちゃんに言うた。 アキちゃんはそれを、ものすご大人しく聞いていた。 瞬間的にキレすぎて言葉もないのか。いつ爆発するのか。 俺はそれにビビりながら
隣
(
となり
)
でガタガタ震えそうになってたんやけど、実はそうではなかったんや。 「手紙……」 アキちゃんは真剣としか思えへん声で、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
に答えた。 「手紙、どうやって出すんか、知らんのやけど。教えてくれ」 アキちゃん、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は中一なんやで。
恥
(
は
)
ずかしないんか。そんな
真面目
(
まじめ
)
にご指導ご
鞭撻
(
べんたつ
)
を
乞
(
こ
)
うたりして。
面子
(
めんつ
)
はないんか、年長者としての。 それに。それによくも、俺というものがあると知りながら、この
餓鬼
(
がき
)
は。ちょっとおかしいんやないか。 おかしい
奴
(
やつ
)
らと生活してるから、お前までおかしいんや。絶対おかしい。人との距離の取り方が。 それとも、それは、
秋津
(
あきつ
)
家の皆さんの悪い血のせいなんか。顔はぜんぜん似てへんこいつにも、結局その血は流れてるということか。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
はいかにも
隙
(
すき
)
アリみたいな瞬間をとらえて、アキちゃんと腕を組んだ。 お前、中一なんやろ。それはちょっと、
微妙
(
びみょう
)
やないか。なんでそんなベタベタしたいねん。全身からどろっと甘く、僕、
寂
(
さび
)
しいねんみたいな空気出すのやめろ。 「教えたるわ! その代わり宿題の絵描くの手伝ってほしい。アキ
兄
(
にい
)
も一緒に
須磨
(
すま
)
の水族館行こ。今日やのうてもええんや」 あからさまに水族館デートをねだるちびっ子の口調は、どう聞いても
媚
(
こ
)
び
媚
(
こ
)
びやねんけど、それは俺が
邪
(
よこしま
)
な
蛇
(
へび
)
やからそう聞こえただけなんか? 誰が行くか。水族館なんか。アキちゃん
暇
(
ひま
)
やないんや。 それに水族館デートなんか、俺でもまだしてもろたことないわ。
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椎堂かおる
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