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三都幻妖夜話(3)神戸編 9-3 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
9-3 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
81 / 928
9-3 アキヒコ
亨
(
とおる
)
はその血によって、自分の持っている性質も、俺にばっちり
移
(
うつ
)
してくれてた。
貪欲
(
どんよく
)
、
残忍
(
ざんにん
)
、
多情
(
たじょう
)
に
我
(
わ
)
が
儘
(
まま
)
、そして血を吸う性質と、
不死
(
ふし
)
の肉体を。 「大丈夫なんか、
亨
(
とおる
)
。その……どっこも、何ともないか」
恐
(
おそ
)
る
恐
(
おそ
)
る、俺は
訊
(
たず
)
ねた。
亨
(
とおる
)
はぴんぴんしていた。見かけはそうやった。 でもさっきは、すごい顔色してたで。どう見ても死体のようやった。 もともと白いこいつの顔が、ほんまに血の気のない、
蝋細工
(
ろうざいく
)
みたいな真っ白で、金色の目が暗く
爛々
(
らんらん
)
としてた。 それが今はもう、いつも通りの
綺麗
(
きれい
)
な顔で、にこにこしてる。 さっきまであんなに怒ってたのに、今はけろっと
頬染
(
ほほそ
)
めて、俺だけが
頼
(
たよ
)
りみたいな
可愛
(
かわい
)
い顔して、キスを
強請
(
ねだ
)
るようなうるっと
濡
(
ぬ
)
れた
薄茶
(
うすちゃ
)
の目で見つめ、俺にべったり抱きついていた。 「何ともないよ。もう
再生
(
さいせい
)
してん。気合い入れたら、ざっとこんなもん」 俺の首にさらにぎゅうっと抱きついてきて、
亨
(
とおる
)
は
耳打
(
みみう
)
ちする声になった。 「
凄
(
すご
)
いやろ。アキちゃんもやで。やろうと思えば、もっと
凄
(
すご
)
い
究極
(
きゅうきょく
)
プレイもやれそうなあ」 ありえへん。その方面には俺は、行きたくないわ。 それでも
亨
(
とおる
)
は、ねっとり
淫靡
(
いんび
)
に
唇
(
くちびる
)
を寄せてきて、俺の耳にキスをした。 ああもうあかんわ、って、俺はやっと
自覚
(
じかく
)
した。俺はもう、ほんまに人でなしなんや。 そのうち俺まで
亨
(
とおる
)
みたいな、
悪趣味
(
あくしゅみ
)
な
変態
(
へんたい
)
のエロエロ妖怪に
堕落
(
だらく
)
するんや。 そしてそれを、何とも思わへんようになる。 自分も
悪魔
(
サタン
)
やのに、なんで皆そう思うんやろ、俺はイイ子やのにって、そんな
無自覚
(
むじかく
)
な
恥知
(
はじし
)
らずになるんや。 もう、なってんのかもしれへんわ。 なってたらどうしよう。 「今すぐ
離
(
はな
)
れなさい」 きっぱり命じるような声で、それでも何となく
焦
(
あせ
)
ったふうに、
神楽
(
かぐら
)
神父が俺に
忠告
(
ちゅうこく
)
した。 それともそれは、
亨
(
とおる
)
に言うてんのかもしれへんかった。
悪魔
(
サタン
)
よ
去
(
さ
)
れって、そんな口調やった。
亨
(
とおる
)
はむっとしたように、俺の耳に
唇
(
くちびる
)
を寄せたまま、
神楽
(
かぐら
)
神父を
睨
(
にら
)
んだ。 「なんで
離
(
はな
)
れなあかんのや。アキちゃんは俺のもんやねん。
美形
(
びけい
)
神父やからって
偉
(
えら
)
そうに、俺らのラブラブの
邪魔
(
じゃま
)
せんといてくれ」
亨
(
とおる
)
に言われた話の意味を、理解したくないという
衝撃
(
しょうげき
)
の顔で、
神楽
(
かぐら
)
神父は俺と
亨
(
とおる
)
を
素早
(
すばや
)
く
見比
(
みくら
)
べた。 「ラブラブ?」 およそ口にした
例
(
ため
)
しが無さそうなその言葉を、明らかに
異物感
(
いぶつかん
)
ありありの口調で、
神楽
(
かぐら
)
神父は
繰
(
く
)
り返してた。
亨
(
とおる
)
はそれに何も答えへんかった。俺かて何も言い
様
(
よう
)
がない。
海道家
(
かいどうけ
)
の自由な人々に、なにか意見があるはずもなく、みんな、それが何、ていう顔で
黙
(
だま
)
っているばかりや。 「それは……
許
(
ゆる
)
されていません」 青い顔して、
神楽
(
かぐら
)
神父は言うた。 誰に言ってんのか、すでにもう、よう分からへん。
呟
(
つぶや
)
くような言い方やった。 「神は
同性愛
(
どうせいあい
)
を禁じています。聖書に、
明確
(
めいかく
)
な
記述
(
きじゅつ
)
があります」 「知らんやん、そんな神」
亨
(
とおる
)
は
素早
(
すばや
)
く
一蹴
(
いっしゅう
)
していた。 そんな神、おるんやと、俺は内心青ざめた。 わざわざ書いて、
禁
(
きん
)
じなあかんような世界があるんや。
詳
(
くわ
)
しく知らんけど、神社の神さんが、男どうしでやったらあかんでって言うてたという話は聞かん。 そんなこと、どうでもええんやろ、
秋津島
(
あきつしま
)
の神様にとっては。 ちゃんとお
祀
(
まつ
)
りして、
敬意
(
けいい
)
を
払
(
はら
)
う
限
(
かぎ
)
りは、いちいち人間のやることに口出ししはらへんのや。 「
本間
(
ほんま
)
さん……」
呆然
(
ぼうぜん
)
と
漂
(
ただよ
)
うような口調で、
神楽
(
かぐら
)
神父は俺の名を呼んだ。 はい、すいませんて、俺は思わず
謝
(
あやま
)
りそうになった。 なんで俺がこの人にゴメンナサイて言わなあかんねん。 でも言わなあかんような、
責
(
せ
)
められてる
気配
(
けはい
)
がむんむんしてた。 「心配いりません。私がこの
悪魔
(
サタン
)
を追い
祓
(
はら
)
います。必ず助かりますから、
諦
(
あきら
)
めないでください」 もう
諦
(
あきら
)
めてる。ていうか、追い
祓
(
はら
)
わんといてください。俺のツレやねん。 俺はたぶん、こいつが
居
(
お
)
らんと生きていかれへんねん。すんません、
惚気
(
のろけ
)
ですけど、でも残念ながら事実やねん。 こいつがちょっと浮気したかもみたいな話を聞くだけで、一瞬でテンパってもうて、頭の
芯
(
しん
)
からブチキレてる。それだけでももう、お前は終わってるわって感じやないか。 終了してる。全ての
過程
(
かてい
)
が。俺と
亨
(
とおる
)
はもう、とっくの昔に、
序盤
(
じょばん
)
の
過程
(
かてい
)
を終了してる。もしも結婚できるんやったら、すでにゴールインしてる。 だって俺は、こいつの他の誰かと人生をシェアするつもりがないんやもん。 キリスト教風に言うんやったら、死が二人を
分
(
わ
)
かつまでやで、お
互
(
たが
)
いを愛して守ることを
誓
(
ちか
)
ってる
間柄
(
あいだがら
)
やねん。 しかも死は二人を
分
(
わ
)
かつことがない。だって
不死
(
ふし
)
なんやから。 死んでも全然平気みたいやったで、さっきの
亨
(
とおる
)
見てたら。
見事
(
みごと
)
に
蘇
(
よみがえ
)
りまくりやもん。 言葉に出して
誓
(
ちか
)
ったことはないけど、少なくとも俺は、そのつもり。 せやのになんで、こいつの首
絞
(
し
)
めたりしたんや。 急にその
後悔
(
こうかい
)
が
激
(
はげ
)
しく
脳天
(
のうてん
)
に来て、俺はぐったりと
項垂
(
うなだ
)
れた。 「もうあかんわ、俺は。ほんまにどうしようもない。俺が悪かった。許してくれ、
亨
(
とおる
)
」 ぐんにゃりしたまま
平
(
ひら
)
に
謝
(
あやま
)
ると、
亨
(
とおる
)
は、えっ、なんやっていう、きょとんとした顔をした。 「何の話?」 「何の話って、さっきお前の首
絞
(
し
)
めたやんか……」 「ああ、あれか。もうええわ。ちょっと苦しかったけど、でも、アキちゃんそれぐらい怒ってたんやろ。俺のこと、それぐらい好きやってことやろ。殺したいほど愛してんのやろ?」 えっ。まあ。そうなん?
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椎堂かおる
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