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三都幻妖夜話(3)神戸編 9-9 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
9-9 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
87 / 928
9-9 アキヒコ
神楽
(
かぐら
)
神父はその女の人に
憑
(
つ
)
いていた
悪霊
(
あくりょう
)
を
聖水
(
せいすい
)
浴びせて
燻
(
いぶ
)
りだし、いと高き神の
御名
(
みな
)
において、出て行けと命じた。 神父の力は
悪霊
(
あくりょう
)
を
凌
(
しの
)
いでて、そいつは
畏
(
おそ
)
れ、苦痛の声をあげて、すごすご
地獄
(
じごく
)
へと去った。
骸骨
(
がいこつ
)
やったらしい。スケルトン。 ずっと昔に、すでに死んだけど、行き場を見つけられずに迷ってて、生きてる女の肉体を、乗っ取ろうとした。 その話を聞いて、俺は複雑な気分やった。俺が
亨
(
とおる
)
の前に付き
合
(
お
)
うてたやつも、そんな感じやったで。 せやけど苦痛の声をあげて
地獄
(
じごく
)
に落ちはせえへんかった。そうやと思いたい。 どんな女か俺はいまいち分かってなかったんかもしれへんけど、でも、いい
娘
(
こ
)
やったで。それが
地獄
(
じごく
)
に
堕
(
お
)
ちたとは、思いたくない。 なんでこの人は、
悪魔
(
サタン
)
を憎んでるんやろ。 確かに世の中には、どうしようもないような鬼も
居
(
お
)
るやろ。泣いて
斬
(
き
)
るしかないような、そんな悲しい話もあるわ。 せやけど、そいつにも何か、理由はあったんやないかって、
神楽
(
かぐら
)
さんは考えへんのやろか。 俺はどうもこの人の、人物が分からない。 そんな人を信用して、仕事を
請
(
う
)
けてええもんやろか。 第一、
請
(
う
)
けたところで俺に、
勤
(
つと
)
まるような仕事やないような気がする。どえらい大仕事やで。もしも失敗してもうたら、神戸はどうなってしまうんや。 もっと力もあって、経験もあるような別の人に、
頼
(
たの
)
みはったほうがええんやないかって、俺は一応、
辞退
(
じたい
)
はしたんやで。 なんせこっちは学生の身で、それっぽい事件に立ち会ったのは、例の大阪の事件ひとつきりなんやから、未経験も未経験。中一の
竜太郎
(
りゅうたろう
)
のほうが、まだましなんちゃうかと、本気で思うくらいや。 けどな、予言やというねん。予言やで? ヴァチカンには、ずっと先の未来までの予言の書みたいなのが、
秘蔵
(
ひぞう
)
されてるんやって。その内容は
極秘
(
ごくひ
)
で、
教皇
(
きょうこう
)
しか知らんらしい。 そこに今回の神戸の
厄災
(
やくさい
)
も、予言されていた。そしてそれを解決できるのが、俺なんやって。 なんや知らんうちに俺もヴァチカン
進出
(
デビュー
)
しとったらしいわ。
勘弁
(
かんべん
)
してくれやで。 それでも、とにかくそうやから、俺にはこの仕事を
請
(
う
)
ける義務がある。予言は必ず実現する。あなたが断れば、救われるはずだった神戸の運命も、悪い方向へ変わるだろうと、
神楽
(
かぐら
)
さんは
脅
(
おど
)
しめいた口調やった。 それはおかしい。
厄災
(
やくさい
)
が解決つくって予言されてるんやったら、俺やのうても解決できるんやないか。俺が断ったらアウトやなんて、もしもそうやと仮定したら、その予言は外れるということやろ? 必ず実現するはずの予言が、外れるやなんて、
矛盾
(
むじゅん
)
してへんか?
神楽
(
かぐら
)
さんはそのツッコミにも、
難
(
なん
)
なく答えた。
厄災
(
やくさい
)
が解決できなかった場合は、予言の書の内容も書き
換
(
か
)
わるのだろうと。 つまり、
厄災
(
やくさい
)
が発生すると知らせる予言の書がある世界へと、この世が移り変わる。 俺の返答いかんによって、
時空
(
じくう
)
がずれるかネジレるか、そういう事が起きると言うてんのやで、
神楽
(
かぐら
)
さん。 ちょっとな、ちょっと、SF小説とか読み過ぎちゃいます? 冗談ですよね、って、俺がそんな半笑いの気持ちで
居
(
お
)
るのに、
神楽
(
かぐら
)
さんは
大真面目
(
おおまじめ
)
やった。そういうことは、起こりえますと、
真顔
(
まがお
)
で言うた。 神は、
万物
(
ばんぶつ
)
の
創造主
(
そうぞうしゅ
)
で、この宇宙と時間をも、
創造
(
そうぞう
)
なさったお方です。ですから、
時空
(
じくう
)
を
超越
(
ちょうえつ
)
した存在なのです、と。 来たで、来た。宇宙系。「スター・トレック」の中の人みたい。本気で言うてる。目がマジやったもん。 実際、それは冗談やのうて、
真面目
(
まじめ
)
な話やった。神父さんたちの中には、物理学者もいてはって、神とは何か、宇宙とはなにか、神学と科学を
絡
(
から
)
めて研究してはる人もいてるらしい。 神の
創
(
つく
)
り
給
(
たま
)
いしこの世のことを
探求
(
たんきゅう
)
し、
解明
(
かいめい
)
すんのも、なんと神父さんたちの仕事のうちのひとつやった。 ある人は教会で信者のおばあさんの
世間話
(
せけんばなし
)
を聞いてやり、ある人は
悪魔祓
(
あくまばら
)
いをし、またある人は
時空
(
じくう
)
とは何かを
探求
(
たんきゅう
)
している。 それぞれにとって、もっとも自分に
適
(
てき
)
したところで
奉仕
(
ほうし
)
する。それが神父の道らしい。 悪魔と戦うのに
適
(
てき
)
してた男は、仲間の神父が
解明
(
かいめい
)
している
時空
(
じくう
)
の
件
(
けん
)
について、疑いがないふうやった。 幸せやな、
神楽
(
かぐら
)
さん。思わへんのや、なにそれ、アホかみたいな事は。 受け入れられるんや、自分から見て、はぁ? みたいな、普通ではない話でも。 思えば
神楽
(
かぐら
)
さんはこの
初対面
(
しょたいめん
)
の頃から、
素直
(
すなお
)
でなんでも受け入れられる
素養
(
そよう
)
を、思いっきり
示
(
しめ
)
してたんかもしれへんわ。 それは子供のころの自分が、
聖霊
(
せいれい
)
が見えるという話を、家族に
嘘
(
うそ
)
やと思われて、受け入れてもらえへんかった
辛
(
つら
)
さの
反動
(
はんどう
)
なんかもしれへんかった。 自分には、ありえへんと思えることでも、それを信じることが、人を信じることやというのが、
神楽
(
かぐら
)
さんの
方針
(
ほうしん
)
やった。 それで俺の言う、
亨
(
とおる
)
は
悪魔
(
サタン
)
やのうて、
式神
(
しきがみ
)
やからという話も、
神楽
(
かぐら
)
さんにとっては
訳
(
わけ
)
の分からん
異教徒
(
いきょうと
)
のほざく話やのに、なんとか受け入れようと
藻掻
(
もが
)
いてた。 そのせいで、何とも言えずつらく、神父としての自分の世界観と、
得体
(
えたい
)
の知れん
日ノ本
(
ひのもと
)
の、
得体
(
えたい
)
の知れん世界観との
板挟
(
いたばさ
)
みになってもうて、
神楽
(
かぐら
)
さんは苦しんでいた。
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椎堂かおる
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