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三都幻妖夜話(3)神戸編 10-3 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
10-3 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
91 / 928
10-3 トオル
並
(
なら
)
んで立つと、アキちゃんのほうが
上背
(
うわぜい
)
があった。 神父は少々
小柄
(
こがら
)
なほうみたいやったし、アキちゃんは日本人離れした長身やからな。その身長の釣り合い具合からして、二人は嫌な感じにお似合いやった。 俺も、もうちょっと身長伸ばそうかな。アキちゃんと並んだ時に、
若干
(
じゃっかん
)
やけど、ちっちゃすぎへんかと、急に心配になってきた。 胸に
縋
(
すが
)
り付くにはいいんやけどな、並んだ時にオマケみたいに見えへんやろか。 どっちのほうが、アキちゃん好みなんやろかと、ぼやっと考えているうちに、神父の言う、取材なるものが終わったらしかった。 オープンテラスの真ん中の席で、オーナーらしい
背広
(
せびろ
)
の男と差し向かいで、いかにも神戸の女って感じのマリンルックで巻き髪の女が、にこやかに布張りのノートにメモをとり、それを閉じて立ち上がった。 カメラマンらしい若い男が、それにくっついていて、辺りの風景や、取材を受けてる男の写真を撮っている。 最後に自分に向けてシャッターを切ろうとするカメラマンを、このホテルのオーナーらしい、背広の背を見せてる男は、軽く手をあげて
制
(
せい
)
して、にこやかなような声で言うた。 「申し訳ないですが、写真は出さないでいただけないでしょうか。そういう方針ですので」 やんわりとした口調やったけど、それはやけに、きっぱりとした命令のようやった。 カメラマンの男は、一瞬
戸惑
(
とまど
)
い顔やったけど、すみませんと言うてカメラを降ろした。 挨拶をして別れた雑誌社の二人は、オーナーを待っていた俺ら三人をガン見しながら通り過ぎ、テーブルの脚にけつまずいたりしていた。 たぶん
異様
(
いよう
)
やったんやろ。 そらそうや。神父も美形なら、俺もぞっとするよな
美貌
(
びぼう
)
やし、アキちゃんかてかなりの男前なんや。 それに見覚えもあったんかもしれへん。アキちゃん、
狂犬病
(
きょうけんびょう
)
騒
(
さわ
)
ぎでは、ずいぶんメディアに顔が売れてもうたからな。 せやけどこの際、そんなことはどうでもよかった。何の害もない。 俺はオープンテラスの真ん中で、立ち上がってこっちを見ている背広の男に目が
釘付
(
くぎづ
)
けになっていた。 趣味のいい、
濃紺
(
のうこん
)
のスーツで、赤いポケットチーフが
覗
(
のぞ
)
いてて、それが
気障
(
きざ
)
やねんけど、めちゃめちゃよう
似合
(
にあ
)
ってたわ。 「こんにちは、
中西
(
なかにし
)
さん。お話ししていた
本間
(
ほんま
)
さんです」 神父は相手をすでに知っているふうな態度で、親しげにアキちゃんを紹介した。 背広の男は気さくな笑みで歩み寄ってきて、アキちゃんに
握手
(
あくしゅ
)
を求めた。
艶
(
つや
)
のある黒髪が色っぽいような、四十代ぐらいの男に見えた。まさに
男盛
(
おとこざか
)
りというやつか。 アキちゃんは一応の社会的スマイルを見せ、お世話になりますと
挨拶
(
あいさつ
)
をして、背広の男の
握手
(
あくしゅ
)
に
応
(
こた
)
えた。 二人の手が
触
(
ふ
)
れあうのを、俺はなんとなく
呆然
(
ぼうぜん
)
と見ていた。 そんな俺を、向こうもじっと見てたわ。じいっと見てた。
初対面
(
しょたいめん
)
というには、長く見過ぎやった。 そんなに見るなと、俺は思った。その視線に、なんとなく、
鋭
(
するど
)
い苦痛を
覚
(
おぼ
)
えて。
藤堂
(
とうどう
)
さんやった。
藤堂
(
とうどう
)
さん。 俺がアキちゃんの前に、取り
憑
(
つ
)
いてた男。 なんで名前違うんやろかって、俺はくらくらそれを考えてた。 それに、俺の知ってる姿と違う。
藤堂
(
とうどう
)
さんはもっと
老
(
ふ
)
けてた。髪も
白髪
(
しらが
)
交じりやった。 それは
染
(
そ
)
めれば済む話かもしれへんけど、それでも顔までは若返らんやろ。 以前はどことなく、疲れた
死相
(
しそう
)
のあった顔には、今は
得体
(
えたい
)
の知れん
生気
(
せいき
)
がみなぎってた。 まさかなと、俺は思った。
藤堂
(
とうどう
)
さんは死にかけていた。こんなに元気なはずはない。
癌
(
がん
)
やったんや。それもほとんど
末期
(
まっき
)
の。 俺の力で生きながらえてたけど、去年のクリスマス・イブに俺に捨てられ、もう死んだんやと思ってた。生きてるわけない。 せやけど、どう見ても
藤堂
(
とうどう
)
さんやった。着てるもんの趣味も、何も気づいてないアキちゃんと、にこやかに
世間話
(
せけんばなし
)
してる話し口調も、このホテルの内装の趣味も、全部そのまんま、
藤堂
(
とうどう
)
さんの好みそのもの。
既視感
(
デジャヴュ
)
を感じるのも当然やった。俺は
藤堂
(
とうどう
)
さんが
支配人
(
しはいにん
)
をやっていた京都のホテルの、この趣味とそっくりそのまんまのインペリアル・スイートで、しばらく
飼
(
か
)
われてたんや。アキちゃんと出会うまでの、半年か、一年近く。 逃げたいと、俺は思ったけど、この場を立ち去る理由がなかった。 「支配人室でお話ししましょうか。ここはもう
日射
(
ひざ
)
しが暑うなりすぎます」 ロビーに戻る方向を手のひらで示して、
藤堂
(
とうどう
)
さんはアキちゃんに
促
(
うなが
)
した。 アメリカと、ヨーロッパで
修行
(
しゅぎょう
)
したんやという、
筋金入
(
すじがねい
)
りのホテルマンの動きで、
一分
(
いちぶ
)
の
隙
(
すき
)
もない
接客
(
せっきゃく
)
やけど、にこやかな目の奥で、
藤堂
(
とうどう
)
さんがアキちゃんを
値踏
(
ねぶ
)
みしてるのが俺には分かった。 アキちゃんのこと、
恨
(
うら
)
んでるんか、
藤堂
(
とうどう
)
さん。 この子はなんも悪くないんやで。 一緒にいてくれ言われて、俺がふらっとついて行ってもうただけ。なんも知らんかったんやで、アキちゃんは。俺に飼い主がいるやなんて、想像もせんかったような
初心
(
うぶ
)
な子なんや。 ほっといてくれ。
頼
(
たの
)
むから、アキちゃんに何も言わんといてくれ。
謝
(
あやま
)
れ言うなら俺が
謝
(
あやま
)
るやんか。
済
(
す
)
まんかったと思うてる。ほんまやで。
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椎堂かおる
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