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三都幻妖夜話(3)神戸編 10-8 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
10-8 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
96 / 928
10-8 トオル
藤堂
(
とうどう
)
さんに血を吸われても、俺には苦痛が
勝
(
か
)
っていた。 永遠に生きる体になっても、俺はもう、あんたとは一緒に生きられへん。 ひとりで化けモンになって、永遠に生きるつもりか、
藤堂
(
とうどう
)
さん。そんなことして、幸せなんか。 俺はあんたも愛してた。アキちゃんと出会うまでの間の、もうずっと過去のことやけど、今でもそのことを、忘れてはいない。 幸せになってほしかったんや。一緒に幸せになりたかった。 それが無理なら、あんただけでも、って、そこまで思えるほどには、俺は愛ってやつの
真髄
(
しんずい
)
を、理解できてなかったけど、それでも好きやったで。 一人で不幸にならんといてくれ。普通に死んで、生まれ変わって、また幸せな人間に、なればええやん。そうするにはもう、手遅れなんか、
藤堂
(
とうどう
)
さん。 夢中で血を吸う化け物を、俺は必死で引き
剥
(
は
)
がしてた。 首から血を
滴
(
したた
)
らせる
牙
(
きば
)
が抜け、真っ赤に
染
(
そ
)
まった舌の男が、
懐
(
なつ
)
かしいような、見知らぬような
悪魔
(
サタン
)
の顔で、俺を見つめた。 はあはあ
喘
(
あえ
)
ぐ息やった。
上手
(
うま
)
くいくのか心配で、俺はじっと
藤堂
(
とうどう
)
さんだったものの顔を見つめた。その
頬
(
ほほ
)
を両手で包んで、作り
替
(
か
)
えられる痛みに
苦悶
(
くもん
)
する顔を、じっと見上げた。
変成
(
へんせい
)
は、
急激
(
きゅうげき
)
に進んでいるように見えた。
頑張
(
がんば
)
れ
藤堂
(
とうどう
)
さん。負けたら化けモンになってまうんやで。
脂汗
(
あぶらあせ
)
の浮く
額
(
ひたい
)
を、自分の
額
(
ひたい
)
に押しつけさせて、俺は
藤堂
(
とうどう
)
さんを抱いてやってた。
獣
(
けもの
)
じみた
呻
(
うめ
)
き声がして、体が小さく
暴
(
あば
)
れてる。それでも、ぎゅっと強く抱いててやると、
悶
(
もだ
)
えるような
震
(
ふる
)
えは、だんだんと
治
(
おさ
)
まった。 やがて、暗く長い水路を一息に泳ぎ切ってきたような、はあはあ
悶
(
もだ
)
える息をして、
藤堂
(
とうどう
)
さんは俺に抱かれてた肩口から、目を見開いた顔を上げた。 その目が、じわりと浮かぶような金色に変わり、それがいくらか溶け残ったような銀色の
輪郭
(
りんかく
)
をしていた。 それでももう、化けモンみたいな顔ではなかった。元の通りか、それ以上に男前やったわ。 さすがは俺が、アキちゃんの前に
惚
(
ほ
)
れてた男。 ついついそう思えて、俺は自分を
罵
(
ののし
)
る笑みで、まだ体の上でぐったりしてる
藤堂
(
とうどう
)
さんを見上げた。汗の
雫
(
しずく
)
が、ぽたぽたと
幾
(
いく
)
つか、降りかかってきた。 「
根性
(
こんじょう
)
あるやん、
藤堂
(
とうどう
)
さん。どうやら化けモンならずに済んだようやな」 「これが化けモンやのうて、なんなんや。
悪魔
(
サタン
)
そのものやないか」 疲れたっていう笑みで、
藤堂
(
とうどう
)
さんは俺を見つめ返してきた。 ええ男や。ひとりで生きていくのは
勿体
(
もったい
)
ないな。 「そうやな。確かに
悪魔
(
サタン
)
そのものやけど、前よりさらにイケてるで」 汗で
濡
(
ぬ
)
れた乱れ髪を
撫
(
な
)
でつけてやって、俺はそう
褒
(
ほ
)
めた。 「そんなら俺と
縒
(
よ
)
りを戻すか?」 「いやぁ、
生憎
(
あいにく
)
やけど、それをやるには、俺はアキちゃんが好きすぎる。ごめんやで、
藤堂
(
とうどう
)
さん」 首を
振
(
ふ
)
って、俺が断ると、
藤堂
(
とうどう
)
さんは俺が憎そうに笑った。 「お前はほんまに、
鬼畜
(
きちく
)
みたいや」 愛しげにそう言うて、藤堂さんは、うっとりと首をそらせた。 新しくなった体のことが、まあまあ気に入ったらしかった。 「それなら、しゃあない。新しい恋でも探そうか……」 そうや、
藤堂
(
とうどう
)
さん。
挫折
(
ざせつ
)
したまま
枯
(
か
)
れたらあかん。 もう
藤堂
(
とうどう
)
さんではないんや。なんやっけ。
中西
(
なかにし
)
さん? しっくりけえへんなあ。
藤堂
(
とうどう
)
さんでええやん。そっちで
慣
(
な
)
れてるんやから。 さあもう、俺に乗っかってる必要ないやろって、俺は言おうとした。いつまで足割っとんねん。
未練
(
みれん
)
がましいのはモテへんで。 そうやなあって、そんな大人の別れで終わり、みたいなオチのつもりが、
間
(
ま
)
の悪い子もおるわ。だいたい、いっつもそうやねん。うちのツレ。 俺がどんだけ、助けてアキちゃんて思ったか。そん時にはチラとも登場せんかったくせに、今さら来たで。しかも
美形
(
びけい
)
神父のオマケ付き。 ばあんてドアが開いた。 「
亨
(
とおる
)
!」 助けに来たんか、殺しに来たんか、
謎
(
なぞ
)
なご登場やった。 アキちゃんは抜き身の
水煙
(
すいえん
)
を
構
(
かま
)
えてた。そうやって飛び込んできたアキちゃんがまず見たものは、乱れた
風体
(
ふうてい
)
で、ソファに
組
(
く
)
み
敷
(
し
)
いた俺に乗っかっている
藤堂
(
とうどう
)
さんやったやろ。 「なにやっとんねん、お前!」 俺は
被害者
(
ひがいしゃ
)
やのに。
可哀想
(
かわいそう
)
に、
亨
(
とおる
)
ちゃん
乱暴
(
らんぼう
)
されたんやで。 それでもアキちゃんは、俺に
怒鳴
(
どな
)
ってた。 「
訳
(
わけ
)
ありや……アキちゃん、キレる前に話聞いてくれ」 もう別れたし。
交渉
(
こうしょう
)
成立してると思うし。それに血吸われただけやで。 それって浮気したうちに入るんやろか。その前にキスもされたけど、アキちゃん、それは見てへんやん? 「お前はもう、殺さなあかん……」 キレそうやっていう、
酩酊
(
めいてい
)
したような顔をして、アキちゃんは戸口で剣を構えて、
苦悶
(
くもん
)
していた。
水煙
(
すいえん
)
はやる気まんまんなんか、むらむらと白く煙るほどの
靄
(
もや
)
を発してた。 俺を
斬
(
き
)
ろうっていうんで、
悦
(
よろこ
)
んでるんやろ。やっぱり、ええ
根性
(
こんじょう
)
しとるわ
水煙
(
すいえん
)
。 「殺したいんやったら、殺してもええよ。でも話聞いて」 「聞いてどうする……言い訳なんか……。なんで俺に、こんなことさせるんや」 アキちゃんは上段に剣を構えたまま、数秒耐えた。それでも耐えきれへんかったんやろ。一声もなく、
鮮
(
あざ
)
やかに
斬
(
き
)
り込んできて、風を
薙
(
な
)
ぐ音を立て、
水煙
(
すいえん
)
を
振
(
ふ
)
るった。
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椎堂かおる
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