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三都幻妖夜話(3)神戸編 11-16 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
11-16 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
114 / 928
11-16 アキヒコ
果
(
は
)
たしてそれは、ほんまのことやろか。
亨
(
とおる
)
は俺に、
嘘
(
うそ
)
はつかれへんのやから、きっと本当のことやろ。 でも、それは
果
(
は
)
たして、
浮気
(
うわき
)
ではないと言えるのか。 いや、正直言うたら、
微妙
(
びみょう
)
なとこやけど、血を吸うのがまずいんやったら、俺もまずい。戻ってきた
亨
(
とおる
)
を目の前にして、俺はものすごい
打算
(
ださん
)
に入ってた。 お前、もしかして、戻ってくる気か、俺のところに。 と、いうことは、俺はお前と別れなあかん
訳
(
わけ
)
やない。
続投
(
ぞくとう
)
。 そういうことなんやったら、俺は
未
(
いま
)
だに、
浮気
(
うわき
)
したらまずいんやないか。
不実
(
ふじつ
)
や言うて、お前に怒られる
羽目
(
はめ
)
に。 と、いうことは、あれはまずかった。俺はさっき、ここに来る途中の
廊下
(
ろうか
)
で、突然現れた
勝呂
(
すぐろ
)
に
口説
(
くど
)
かれ、めちゃめちゃ血を吸うてきた。 それだけでは
飽
(
あ
)
きたらず、お前は俺の
式
(
しき
)
になれみたいな事まで、言うてもうたような気がします。 あれは
夢
(
ゆめ
)
やったんかなあ。どうやろ。
夢
(
ゆめ
)
? もちろん現実やった。 あいつ一体、突然なにしに来たんや。用もないのに俺の弱った
隙
(
すき
)
に付け込むみたいに現れて、
狙
(
ねら
)
いどおりに一口
噛
(
か
)
んでいきよった。 いや、
噛
(
か
)
んだのは俺のほうやけど。
堕
(
お
)
とされたんは俺のほうやないか。とうとうやってもうたな、みたいな話やないのか。 「血吸うただけ……?」 俺はそんな
諸々
(
もろもろ
)
のことを
含
(
ふく
)
めて、思わず口に出していた。
亨
(
とおる
)
はそれが質問やと思ったらしく、うんうんと深く
頷
(
うなず
)
いた。 「そうや。せやからな、アキちゃんが
誤解
(
ごかい
)
してるような、
脱
(
ぬ
)
いで
暴
(
あば
)
れるような事は何も無しやったんやで」 「それは
浮気
(
うわき
)
に
該当
(
がいとう
)
しないと、お前は言うんか。血吸うただけで、服も
脱
(
ぬ
)
いでへんから、それでええやん、みたいな話か。ほんまにそう思うんか」 俺は
念押
(
ねんお
)
しをした。
亨
(
とおる
)
はちょっと、気まずそうな顔やった。 「そう思うかどうかは……アキちゃんが決めて」 「思う」 俺は
即決
(
そっけつ
)
した。もうそれしかない。 だって、きっと、
隠
(
かく
)
し通すってことはできへん。俺はそういうの苦手やし、それに、俺が
黙
(
だま
)
ってたかて、
水煙
(
すいえん
)
が
暴露
(
ばくろ
)
する。そんな予感がするわ。 それより最悪なことはない。俺が
秘密
(
ひみつ
)
にしてて、それを別の口から
暴露
(
ばくろ
)
されるなんてことは。 「ほんまに? 許してくれんの? 俺はまたここに、
居
(
お
)
ってもええか……アキちゃんのとこに」
亨
(
とおる
)
は
切
(
せつ
)
なそうに、俺に
確
(
たし
)
かめた。 ごめん、そんな
不純
(
ふじゅん
)
な
動機
(
どうき
)
付
(
づ
)
けで。 でももし本当に、お前が俺のとこに戻ってきてくれるんやったら、俺は幸せ。でも情けない。 「どしたんや、アキちゃん。悲しそうな顔して」 自分も泣きそうな顔をして、
亨
(
とおる
)
は俺に
訊
(
き
)
いた。その聞き慣れた
懐
(
なつ
)
かしい
響
(
ひび
)
きに、俺はくらっと来た。
惚
(
ほ
)
れそう。というか、元々ベタ
惚
(
ぼ
)
れ。そんな
己
(
おのれ
)
が
自覚
(
じかく
)
されてきて、俺も泣きそうやった。 「なんで戻ってくんねん。あっちのほうがええんやないか。大人やし、
余裕
(
よゆう
)
たっぷりやしな。俺のどこがええねん。
単
(
たん
)
に俺がお前の
覡
(
げき
)
やから、他にどうしようもなくて戻ってくるんやないか」 「いや、そんなことない。
嘘
(
うそ
)
やと思うんやったら、さっき
水煙
(
すいえん
)
様の言うてた方法で、俺への支配を
解
(
と
)
いてみたら?」 優しい苦笑で、
亨
(
とおる
)
は俺を
誘
(
さそ
)
ってた。 これは
罠
(
わな
)
やないかと、俺は思った。こいつは俺と切れたくて、そんなことを言うてるんや。
縄
(
なわ
)
を
解
(
と
)
いたら、あっと言う間に飛び去っていくに決まってる。 でも、それを
誘
(
さそ
)
うということは、やっぱりお前は俺を捨てたんか。そう思うとめちゃくちゃ
惨
(
みじ
)
めやったんやけどな、でも、それと気づかずに、
意地
(
いじ
)
でもお前を
縛
(
しば
)
り付けといたるわって、そんな自分も情けなかった。 せめて最後くらいは、ええ
格好
(
かっこう
)
しよかって、思ったんやろな。 俺は
元来
(
がんらい
)
、ええ
格好
(
かっこう
)
してまう
性分
(
しょうぶん
)
やから。逃げていきたいんやったら、逃げていけばええよって、そんな
潔
(
いさぎよ
)
いふりをして、ほんまのところは逃げんといてくれと思ってた。 「わかった。
亨
(
とおる
)
、お前はもう俺の
式
(
しき
)
やない。もう自由やからな、行きたいところへ行け。あの支配人のとこへでも、他のどこへでも、行きたいところへ行ったらええわ」 俺は今、自殺してると、言いながら俺は思った。 それで何か変わったか。変わったような気がする。 俺が
亨
(
とおる
)
を
縛
(
しば
)
っていた何かが、ふっと
解
(
ほど
)
けて、
手応
(
てごた
)
えがなくなった。そんな不安な
感触
(
かんしょく
)
があった。 何もない無限の宇宙に、
命綱
(
いのちづな
)
もなしで、たったひとりで放り出されてもうたような感じ。
亨
(
とおる
)
もそれを、感じたんやろか。にっこりと
満面
(
まんめん
)
の
笑
(
え
)
みやった。 やっぱりお前は、
嫌
(
いや
)
やったんやな。自分を
縛
(
しば
)
り付けてる、俺のことが。 その笑顔にものすごく胸が痛んで、腹立たしいような、
亨
(
とおる
)
に済まないような、そんな気分に俺はなってた。 「どこへでも行け」
蚊
(
か
)
の鳴くような小声で、俺は捨て
台詞
(
ぜりふ
)
を
吐
(
は
)
いていた。それが俺の子供なところやねん。何も言わずに送り出してやれば
格好
(
かっこう
)
ええのに。どうしてもそれが無理。 「ほな行こか。確かこの近所にな、めちゃめちゃ
美味
(
うま
)
いインド料理屋あんで。アキちゃん、一緒に行って。目から火が出るような、
辛
(
から
)
いカレー食おう」 にこにこしながら、腹減ったような顔で、
亨
(
とおる
)
は俺を気軽に
誘
(
さそ
)
った。いつもと全然変わらへん、
涎
(
よだれ
)
出そうみたいな
可愛
(
かわい
)
い顔して。
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椎堂かおる
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