fujossyは18歳以上の方を対象とした、無料のBL作品投稿サイトです。
私は18歳以上です
三都幻妖夜話(3)神戸編 11-18 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
11-18 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
116 / 928
11-18 アキヒコ
寂
(
さび
)
しかったんや、俺は。お前に
振
(
ふ
)
られたと思って。 それに
悔
(
くや
)
しかった。もっと強い男に、強い
覡
(
げき
)
になって、お前を
後悔
(
こうかい
)
させてやりたい。あの時、
振
(
ふ
)
ってもうて
惜
(
お
)
しかったと、いつか
地団駄
(
じだんだ
)
踏
(
ふ
)
ませてやりたいと、そんな
餓鬼
(
がき
)
くさい
復讐心
(
ふくしゅうしん
)
もあったんやと思う。 それに
勝呂
(
すぐろ
)
や
水煙
(
すいえん
)
を、付き合わせていいかって。いいわけない。 そんなもんは
餓鬼
(
がき
)
の
我
(
わ
)
が
儘
(
まま
)
。それは分かるんやけどな、
秋津
(
あきつ
)
は
元来
(
がんらい
)
、
我
(
わ
)
が
儘
(
まま
)
で、ちょっと
餓鬼
(
がき
)
くさい
血筋
(
ちすじ
)
やねん。 うちの親みてみ、めちゃめちゃ
我
(
わ
)
が
儘
(
まま
)
やんか。
兄妹
(
きょうだい
)
やねんで。でも好きやからって、そんな
我
(
わ
)
が
儘
(
まま
)
世間
(
せけん
)
が許すか。でも知ったことやあらへん。 それで作った息子ほったらかして、ふたりでラブラブ、ハネムーンやで。
鮮
(
あざ
)
やかなまでに
自己中
(
じこちゅう
)
や。 俺はそのふたりから生まれた息子なんやで。
自己中
(
じこちゅう
)
でないわけない。
悪気
(
わるぎ
)
はないねん。やってもうただけ。やる前に、
一考
(
いっこう
)
できへん。全て手遅れ。それが俺のキャラやねん。 どうしようもない男やけどな、ほんまにもう、どうしようもないんやって。 治らへんねん、この病気だけは。
遺伝的
(
いでんてき
)
なもんなんやから。俺かて
悩
(
なや
)
んでんのや。
亨
(
とおる
)
はそんな俺の心をうっかり読んでもうたんか、ほんまにもうお前はどないしたろかという、
痛恨
(
つうこん
)
の顔をした。 あまりのムカつきと
悔
(
くや
)
しさに、指先まで
痺
(
しび
)
れたような顔やったけど、それでも
亨
(
とおる
)
は
我慢
(
がまん
)
をしてた。なんで
我慢
(
がまん
)
してんのか、俺にはよう分からんかった。 いつもなら怒るやんか、お前。もう殺さなあかんわって、
激怒
(
げきど
)
して言うてたやんか。 なんで急に、
我慢
(
がまん
)
することにしたんや。 「
我慢
(
がまん
)
せえ、
蛇
(
へび
)
。方法はある」 教えたくないという
気配
(
けはい
)
をむんむんさせつつ、
水煙
(
すいえん
)
が話した。 「抱かんでも、
式
(
しき
)
を
従
(
したが
)
えとく方法はある。それで
納得
(
なっとく
)
するかやけどな」
床暖
(
ゆかだん
)
でのぼせてんのか、
水煙
(
すいえん
)
は赤い、というか、白い顔をしてた。 ぺろりと
乾
(
かわ
)
いた
唇
(
くちびる
)
を
舐
(
な
)
めて
湿
(
しめ
)
らせ、
水煙
(
すいえん
)
はまた風呂に
浸
(
つ
)
かりたそうな目で、ヴィーナスの誕生みたいなバスタブを見た。 「なんやと。そんなもんあるんやったら、なんでさっさと言わへんかったんや」 「それは……俺にもいろいろ
都合
(
つごう
)
はあるから」 何となく
気恥
(
きは
)
ずかしそうに口元に触れ、
水煙
(
すいえん
)
は
珍
(
めずら
)
しく目を
逸
(
そ
)
らしてた。 「血をやればええねん。
覡
(
げき
)
の」 「
吸血
(
きゅうけつ
)
させろってことか?」
亨
(
とおる
)
はそれさえ
嫌
(
いや
)
そうに、
水煙
(
すいえん
)
に聞き返してた。 もう必死なんか、
水煙
(
すいえん
)
のほうを見ないようにすることも忘れ、床にごろごろしてる青い
裸体
(
らたい
)
をガン見していた。 「いや。そうやない。
勿論
(
もちろん
)
、それでもええけど。どっか切って出した血でもいい。それに、
式
(
しき
)
が皆お前みたいに、人の
精気
(
せいき
)
を吸わな死ぬような体質とは限らへん。俺なんかは別に平気やで、鉄やもん」 けろっとして、
水煙
(
すいえん
)
はそう自白した。 平気なん……? お前。 俺はてっきり、お前も
亨
(
とおる
)
とおんなじで、誰かの精気を吸わんかったら、いつか消えてまうんやと思うてた。 それで俺が欲しいんやって、
可哀想
(
かわいそう
)
やなあって、そう思って
悩
(
なや
)
んでたのに! そんな俺からも、
水煙
(
すいえん
)
は目をそらしてた。 「せやから、そういう、安定した性質のやつを探すか、植物系がええわ。トヨちゃんとこの
舞
(
まい
)
みたいにな。あいつは水やっときゃええんやから」 「水やっときゃええのに、あの女、アキちゃん
狙
(
ねら
)
いなんか!?」 亨は心底
呆
(
あき
)
れたという声やった。 「何を言うねん、お前かて、血吸やええだけやのに、毎晩ジュニアとやっとるやないか。もっと食えるんやったら食いたいんが人情やろが」
水煙
(
すいえん
)
は説教くさかったが、それは疑いようもない
外道
(
げどう
)
どもの本音に聞こえた。 ついさっき、
水煙
(
すいえん
)
に食いたいので食われてもうた俺としては、それを秘密にしておいてくれるのか、それが少々心配の
種
(
たね
)
やった。
水煙
(
すいえん
)
は俺に、血をくれと言えば済む話のはずやった。 血ぐらい、いつでも飲ませてやったで。指の先でもちょっと切って、流れ出てきたやつを
舐
(
な
)
めさせてやればええんやろ。そんなん、別に、ケチることない。 でもそんな話、されたことない。つまりこいつは、それやない別物のほうがええなあと、思ってたわけやろ。 つまりその……いつも
亨
(
とおる
)
が飲んでるアレか。
興味
(
きょうみ
)
あったんか、
水煙
(
すいえん
)
。 言うのが遅い。それとも、それって、俺の
自意識
(
じいしき
)
過剰
(
かじょう
)
な
妄想
(
もうそう
)
か。 「でもまあ、血が
無難
(
ぶなん
)
やわ。簡単やし、少しで
精
(
せい
)
もつく。いくらジュニアが好きモノでも、十人二十人相手に毎晩は無理や。それでも時々血をやるだけやったら、別に何でもないやろ」
献血
(
けんけつ
)
手帳作ろうか。好きモノ言うな。俺はぼんやりと心の中でだけ、そんなツッコミ入れていた。 そして思った。ほんなら、俺のおとんはなんで、
式神
(
しきがみ
)
とやってたん。 実はそれが好きやったってこと。それとも
献血
(
けんけつ
)
だけでは満足でけへんようなのを、いっぱい
飼
(
こ
)
うてたってことか。 それは
訊
(
たず
)
ねなくても、
水煙
(
すいえん
)
が
亨
(
とおる
)
に話していた事を聞けば分かった。 「アキちゃんも
他愛
(
たあい
)
もないのには、時々血をくれてやるだけで済ませてた。それでも神様級となると、心理面での信頼関係が重要になってくる。そのための方法は他にもあるやろけど、一番簡単なのは、寝ることや。せやからな、お前が絶対あかんて
頑張
(
がんば
)
ってる限りは、ジュニアはお前より強い
式
(
しき
)
は飼われへんのや。お前が強うなるしかない」 くどくど
響
(
ひび
)
く口調になって、
水煙
(
すいえん
)
はいかにも
嫌
(
いや
)
そうに
亨
(
とおる
)
に教えてやっていた。 「わかった。俺、
頑張
(
がんば
)
るわ」 決意を感じる言い方で、
亨
(
とおる
)
は
頷
(
うなず
)
いた。 「
頑張
(
がんば
)
るんか。
頑張
(
がんば
)
らんでええのに。どっか行けばええのに」 めちゃめちゃ正直に、
水煙
(
すいえん
)
は本音を
吐
(
は
)
いてた。
前へ
116 / 928
次へ
ともだちにシェアしよう!
ツイート
椎堂かおる
ログイン
しおり一覧