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三都幻妖夜話(3)神戸編 13-3 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
13-3 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
131 / 928
13-3 アキヒコ
神楽
(
かぐら
)
さんが一歩
遅
(
おそ
)
かったのは、出がけに
引
(
ひ
)
き
留
(
と
)
められたからやった。 血を吸う
外道
(
げどう
)
が、もう一度キスをと
誘
(
さそ
)
い、それを神父は
拒
(
こば
)
めへんかった。その長い足止めのせいで、
餅
(
もち
)
が帰る前に
捕
(
つか
)
まえられへんかったという事らしい。 それは良かったと、感想を
述
(
の
)
べるべきかもしれへん。今や血を吸う
外道
(
げどう
)
のご
同類
(
どうるい
)
として、幸せに暮らしている俺としてはな。 せやけど
神楽
(
かぐら
)
さんにとっては、そんな簡単な話ではない。
餅
(
もち
)
は帰った、もうおらん。
頼
(
たよ
)
って
縋
(
すが
)
り付こうという気でおるのに、ちょうどいい相手がおらへんわと、
動転
(
どうてん
)
した頭で
困
(
こま
)
りに
困
(
こま
)
って、はっと目についたのが、フロントの美人のお姉さんが、つい今し方、
餅
(
もち
)
から
預
(
あず
)
かったばかりでその場にあった、俺の忘れ物の
鞘
(
さや
)
やった。 それはきらきら
輝
(
かが
)
いて美しく、神聖なもんやと
神楽
(
かぐら
)
さんの目には
映
(
うつ
)
ったらしいわ。 そらそうやろな。
水煙
(
すいえん
)
の
鞘
(
さや
)
やから、神のものであることは事実やわ。 ただし
神楽
(
かぐら
)
さんが好きな神さんとは、またちょっと違うで。
水煙
(
すいえん
)
は、
神威
(
しんい
)
はあるけど、
神楽
(
かぐら
)
さんが期待するような
神聖
(
しんせい
)
さはないやつやで。 キスしたら、気持ちようなって、いってまうような
奴
(
やつ
)
なんやで。 それがまた俺には何とも
堪
(
たま
)
らず
可愛
(
かわい
)
い
奴
(
やつ
)
なんやけど、でも
神楽
(
かぐら
)
さんにはそうやないでしょ。 しかしそんなこと、分かるわけもない。そうや、
本間
(
ほんま
)
さんが
居
(
お
)
るやんかと、
神楽
(
かぐら
)
さんは考えたらしいわ。 なんで俺。 つまり
神楽
(
かぐら
)
さんは誰でもいい状態やった。とりあえず目についた
奴
(
やつ
)
に
縋
(
すが
)
り付こうという、そういう感じやった。 そういう人やってん。気が弱いというかやな、何かに
頼
(
たよ
)
りたい。
跪
(
ひざまず
)
いて
祈
(
いの
)
りたい。
素直
(
すなお
)
に言うこときいていたい。 お前は
可愛
(
かわい
)
いイイ子やなあって、
褒
(
ほ
)
められたい。 それで安心してたいと、そういう
性分
(
しょうぶん
)
の人やってん。 つけ込みやすい人なんやわ。 それをかつては
悪魔
(
サタン
)
につけ込まれ、その後はヴァチカンの神やら、神の代理人やらに
誑
(
たら
)
し込まれてた。 そして三段オチの最後には、血を吸う
外道
(
げどう
)
に
誑
(
たぶら
)
かされようとしていた。 あかん、それは
背徳
(
はいとく
)
と、
抗
(
あらが
)
ってはみせるものの、助けてくれと
頼
(
たよ
)
った相手が俺というんでは、もう終わったようなもんや。 だって
神楽
(
かぐら
)
さんはその時すでに知ってたはずやで。俺かて
悪魔
(
サタン
)
に
取
(
と
)
り
憑
(
つ
)
かれてる。 それから
救
(
すく
)
ってくれるっていう話やったんやないんですか。
神楽
(
かぐら
)
さんが。 少なくとも
海道家
(
かいどうけ
)
の
居間
(
いま
)
では、そう言うてたで、あんた。
淫行
(
いんこう
)
に
誘
(
さそ
)
う悪い
蛇
(
へび
)
から、俺を助けてくれるって。 「相談て、なんですやろか」
鋏
(
はさみ
)
と
薔薇
(
ばら
)
を持って突っ立っている、
顔面
(
がんめん
)
蒼白
(
そうはく
)
の
神楽
(
かぐら
)
さんと向き合って、俺は最高に気まずく
訊
(
たず
)
ねた。
神楽
(
かぐら
)
さんはどこ見てんのか
定
(
さだ
)
かでないような青い目で、俺を見つめていた。食い入るような
視線
(
しせん
)
やったわ。 「あなたの
蛇
(
へび
)
は、血を吸いますか」
単刀
(
たんとう
)
直入
(
ちょくにゅう
)
やったな。 俺は一瞬
悩
(
なや
)
んだ。この質問には、答える
義務
(
ぎむ
)
があるのかと。 この時には俺はまだ、
神楽
(
かぐら
)
さんは
真面目
(
まじめ
)
な神父さんやと信じてたもんやから、また俺に、
亨
(
とおる
)
と切れろみたいな話をするんかと、
煙
(
けむ
)
たい気まずさやったんや。 せっかくのご親切やけど、俺にはそんな気はない。死んでも離せへん。
亨
(
とおる
)
が俺を捨てるというんでなければ、俺は
亨
(
とおる
)
と別れたりはしない。 昨日今日会ったばかりのあんたが、何を言おうが関係あらへん。俺は悪いことしてるわけやない、好きな相手と抱き
合
(
お
)
うてるだけ。 愛してるねん、ほっといてくれって、そういう
覚悟
(
かくご
)
で受けて立ってた。 「吸いますけど、時々ですよ。それで別に、死ぬ訳やないし。特に
支障
(
ししょう
)
もないです」 自分も
外道
(
げどう
)
になってまうだけ。 それは
敢
(
あ
)
えて言わずにおいた。 でも、ほんまにそれだけやで。ちょっとエロなってきて、自分も血吸いたくなって、
怪我
(
けが
)
してもすぐ治ってもうたり、
舐
(
な
)
めただけで人の
怪我
(
けが
)
治せたり、少しキレやすくなったかな、キレたとき普通やないかなみたいな気はちょっとするけども、それはキレへんようにすればええだけなんやし。 他はまあ、バレへんかったらええんやないですかって、俺は頭の中でそういう
処理
(
しょり
)
をしていた。 だっていくらエロくても平気やん。
亨
(
とおる
)
はさらにエロエロなんやから。むしろ喜ぶくらいやで。
水煙
(
すいえん
)
には好きモノ呼ばわりされるけど。 正直ちょっと傷ついた。でもその傷で死ぬわけやない。
凹
(
へこ
)
んでまうだけ。 「
支障
(
ししょう
)
、ないんですか」 必死の
形相
(
ぎょうそう
)
で
確
(
たし
)
かめてくる
神楽
(
かぐら
)
さんに、俺は
頷
(
うなず
)
きながら、何か変やなと思った。
神楽
(
かぐら
)
さんは、いつもと違う。なにが違うんやろと俺は
悩
(
なや
)
み、その次の
台詞
(
せりふ
)
を聞いて、
訳
(
わけ
)
を理解した。
神楽
(
かぐら
)
さんは早口に、俺にこう言うた。 「支障、ないって、それはちょっと、変やないですか。だって血を吸う
悪魔
(
サタン
)
なんですよ。奴らは仲間にしようとして血を吸うとうのやないですか。なんともないんですか、
本間
(
ほんま
)
さん。なんで平気なんや」 教えてくれって、
叫
(
さけ
)
ぶのを
堪
(
こら
)
えたような押し殺した早口で、
神楽
(
かぐら
)
さんは
訊
(
き
)
いた。 どう聞いても、あんたは地元の人間やっていう、そんな神戸
訛
(
なま
)
りで。 あんた。話せるんやん。生まれた土地の
訛
(
なま
)
りを。 なんで今まで
標準語
(
ひょうじゅんご
)
やったんやろ。 「なんで、って……なんでですやろ。俺にも分からへんけど……
神楽
(
かぐら
)
さん、なんで
神戸弁
(
こうべべん
)
?」 俺がついつい
指摘
(
してき
)
すると、
神楽
(
かぐら
)
さんはもともと青かった顔を、さらにさっと青ざめさせて、
鋏
(
はさみ
)
を持ったままの手を口元にやり、手の
甲
(
こう
)
で
唇
(
くちびる
)
を
塞
(
ふさ
)
ぐような
仕草
(
しぐさ
)
をした。
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椎堂かおる
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