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14-2 トオル
それでも竜太郎 は、ふたりに帰らんでほしいという顔をしていた。
海道家 では気の強そうな餓鬼 やったけど、見知らぬホテルに連れてこられて、アキちゃんだけならともかく、俺や水煙 もいる他人の縄張 りに残されていくのは、ちょっと不安らしい。
実は案外、過保護 なボンボンなんやないか。
もう中一なんやし、水族館 ぐらい電車乗って一人で行けって感じやのに、蔦子 さんは最初、眼鏡 の式 を子守りに付けようとしたし、ここへも結局、信太 が車で送ってやってるんや。
バスで来い中一。生意気 や、ローティーンの分際 でイケメンの送迎 つきなんて。
きっと、大事な大事な跡取 り息子なんやろう。こいつも一人っ子やしな。
「アキ兄 、信太 と寛太 も一緒 に行ったらあかん? 水族館 まで……」
俺をチラ見しつつ、中一はアキちゃんに強請 った。
式 がいなけりゃ丸裸 みたいな、そんな気分がするらしい。
これは自分のやのうて、おかんの式神 やろけど、式 は家に憑 くもんでもあるらしい。せやから竜太郎 にも仕 えてる。
「アホか中一。気を利 かせろ。このゲロ甘くさいカップルを見てやな、二人っきりにしたろって思わへんのか。ビビることない。俺も水煙 も、お前をとって食うたりせえへんわ」
「でも僕、蛇 嫌いやねん」
俺が人の道を諭 してやると、竜太郎 は不愉快 そうに顔をしかめた。
なんやとこら。爬虫類 なめんな中一。
「蛇 は、ええ奴やで、竜太郎 」
にこにこして、寛太 は身をかがめ、竜太郎 の顔を覗 き込んだ。
竜太郎 はその鳥の、あっさりさっぱりした清潔感 のある顔を、じっと気まずそうに見た。
「寛太 は信太 とふたりで居 りたいだけやろ」
「そうや」
にこにこ答える鳥は容赦 なかった。こいつの辞書 に気まずいという文字はないんか。あっさり言われて、竜太郎 はうぐってなってたわ。
「まあまあ、寛太 。昼飯 ぐらいお相伴 していこ。どうせどっかで食うんやから」
信太 はちょっと嬉 しいですという顔で、いかにも余裕 があるふうに、鳥さんをたしなめていた。それがあかんねん、お前はな。
「俺らは蔦子 さん迎 えに行かなあかんねん、竜太郎 。飯 食うてから須磨 まで行ってたら、着 いた瞬間にとんぼ返りやで。どうせお前と一緒 には居 られへん」
「ほんなら、どっちか片方残ってくれればええやんか」
それでもあくまで気弱そうに、竜太郎 は信太 に反論していた。
「あかん、それは無理や」
「なんで無理なん。車二台あるんやで。寛太 残していってくれればええやん」
「それは無理や。俺が寂 しい」
いやもう照 れますわみたいな、くっと呻 いた表情で、信太 は嬉 しそうに答えた。
竜太郎 はそれに、もう話したないわって思ったみたいで、うげえという顔をしたきり、もう何も反論せえへんかった。
「そもそも何で連れてきたん……」
俺が訊 くと、信太 はふはあと煙を吐いた。
「いや、もう、家にひとりで置いといたら心配で心配で。こいつ、誘 われたら断 らへんのや。嫌 やて言うけど、なんて言うて断 っていいか分からんらしいわ」
「嫌 やって言わせればええやん……」
俺はアホかと思って、信太 に教えてやった。鳥に言うても無駄 な気がして。
「嫌 やって言うても、にこにこしてるからな。嫌 よ嫌 よも好きのうち、みたいに見えてしまうんやろな」
いやもう、ほんまに困 りますみたいな苦笑 して、信太 は答えた。
鳥さん。まだまだ課題だらけやな。人並 みまで何マイルあるんやろ。
確かに寛太 は、目の前でそんな話されてても、平気でにこにこ笑っていた。
「ここ、変なんいっぱい居 るな」
そしてアキちゃんにむちゃくちゃ馴 れ馴 れしく話しかけていた。
「先生、髪 の毛ついてる」
そして、アキちゃんの襟 の内側についてた抜け毛を、何ら気にせず襟 を開かせて平気でとった。
アキちゃんはそれに、眉 寄せて痛恨 の表情やった。
何がつらいねん、アキちゃん。何を我慢 したんや。
「近いねんお前はちょっと……他人との距離感 がなってない」
「そうやろか。先生なんか、いい匂 いする」
近寄りすぎてアキちゃんの秋津家 フェロモンにあてられたんか、鳥はうっとり匂 いを嗅 ぐ顔で、アキちゃんの首に鼻先を近づけた。
「くんくんするな、寛太 。ハマってもうたらどないすんねん」
血相 変えて、信太 がそれを引き戻してた。
やっぱりこいつらも式 は式 か。アキちゃんが振 りまく甘露 に触 れれば、それなりに酔 うんや。思わぬ伏兵 。気つけなあかん。
信太 はその場で鳥に説教 していた。
他人の抜け毛なんかとってやらんでええねん。そんなんするから誤解 されるんや、お前は。
それに力のある巫覡 には迂闊 に近寄 るな。強い式神 もあかん。
できたら俺以外の男には一切 近づくな、女もあかん、お前は可愛 いねんからと、そんな切々 とした力説 やった。
「アキ兄 ……僕、寂 しいわ。僕も式神 欲しい」
どっちに混 ざろうかっていう、宙 ぶらりんの位置に出てきて、竜太郎 は後ろでくどくど話してる、虎 と鳥とのバカップルを振 り返ってた。
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