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14-3 トオル
「それもええけど、人間の友達作れ」
苦笑して、アキちゃんは竜太郎 にそう諭 した。
そんなん言うて、自分も友達なんかおらんくせにやで。別におらんでええやん、人間のお友達なんか。
「うん。でも。難しい。皆、分かってくれへんもん、占 いなんて、そんなもん迷信 やって馬鹿にしてんのとちゃうか」
竜太郎 はどうも、悩 んでるらしいことを言うた。たぶん蔦子 さんがおらんからやろう。
アキちゃんはさらに苦笑して、竜太郎 の頭を撫 でるように抱いた。可愛いセンサーに触 れたらしい。
「飯 行こか」
中一のお悩み相談には特に答えず、アキちゃんはリストランテのあるほうへ足を向けた。
竜太郎 は、背を押すアキちゃんの手が、ちょっと嬉 しいという顔やった。
邪魔 やなあ、中一。お前が挟 まってるせいで、俺はアキちゃんと手繋 がれへんやないか。
アキちゃん、反対の手には水煙 を握 ってる。しかも抜 き身 のやで。危のうて近寄られへんやないか。
まさか宇宙人のまま抱えていく訳 にはいかず、とりあえず剣に戻ったものの、水煙 には鞘 がなかった。なくした訳やのうて、破戒 神父・神楽 遙 が持ち逃げしたまんまなんやって。
予想通りで良かったけど、あいつ案 の定 、藤堂 さんにハマりよったな。ほんまムカつく。
あいつに、いっぺんじっくり聞かなあかん。藤堂 さんどんなんやったか。せめてお話だけでも。
リストランテは二階にあって、中庭を見下ろす気持ちのいい日当たりの店やった。
ほどほどに夏の陽 が入るよう、緑の日除け がかけてあり、季節が進めば開放するんやろと思えるような、ガラスの折 れ戸 になっている壁際 にある席に、俺たちは案内された。
ギャルソンエプロンした店員は長身の美青年 で、藤堂 さん絶対ルックスで選んでると思えたけど、それでも接客マナーは完璧 やった。
くそう。心地よいはずのイケメン店員がやけに不愉快 や。
信太 は何でも食らうらしいが、鳥と竜太郎 は偏食 まみれやった。
鳥はいわゆる生臭物 は食われへんらしい。血の流れてる生き物を殺生 して作った飯 は喉 を通らんらしい。
それはどうも、こいつが神獣 であることと関係あるらしい。
その一方で、ただの人間の癖 に、竜太郎 は好き嫌いが多かった。
魚は食えへん。貝 も嫌 いや。オリーブ食われへんて、次から次へ、食えへんもんが挙 がってきて、ほんなら何が食えるねんて感じやった。
「お前は……卵 かけご飯 でもモソモソ食うとけ」
俺は呆 れて、思わずそうツッコミ入れてた。そしたら竜太郎 のやつ、マジで怒ってたわ。
「嫌 や! そんなん! お前、アキ兄 の式 なんやろ。僕は血筋 の親類 やぞ。生意気 な口利 くな!」
キイキイ叫 んだちびっ子にむかついて、俺は向かいの席にいた中一を、長い長いおみ足でテーブル越しに蹴倒 して、椅子 ごとこかしてやった。
「痛い!」
そら痛いやろ。とっさに信太 が椅子 は止めたが、タッチの差で間に合わず、竜太郎 はちょっぴり頭をゴツンとやってた。それでも軽く当たった程度 やで。
「なにをすんねん、この蛇 め!」
竜太郎 は顔を真っ赤にして怒ってた。
「やめてくれ亨 ちゃん。うちの跡取 りなんやで。お前から見ても分家 の坊 やろ。何でそんなことができるんや」
信太 はちょっと険 しい顔やった。怖 。亨 ちゃん、ちょっとやりすぎたかな。
「フリーやねん、今は」
ぷんぷんテーブルに戻ってきた竜太郎 に、しゅーっと威嚇 をしてやって、俺は信太 に答えてた。
「ふられたんか、先生に。いったい何をやってもうたんや」
「浮気 したんや。占 いに出てた。やっぱり当たったんや!」
水をぐびぐび飲みながら、竜太郎 はテーブルにかじりつき、俺とは目を合わせずに罵 っていた。
「振 ったんやない。解放したんや。その話はええから。何を食うんや、とっとと決めろ」
呆 れ果 てたという顔のアキちゃんにガミガミ言われ、一同 はとっとと決めた。
水煙 はどうせ何も食えへん。剣やしな。アキちゃんの隣 の椅子 で、のんびりおくつろぎ。
鳥はどうせサラダしか食わへん。草 があれば幸せ。
竜太郎 はお子ちゃまやから、ミートソース食っとけばよし。ボロネーゼでよし。
そして俺とアキちゃんと虎 で、めちゃめちゃ食うたわ。まるでチーム貪欲 。
オードブルに生ハムとメロン食うて、モツァレラチーズとトマト食うて、ラタトゥイユ食うて、イタリアンオムレツ食うて、ミネストローネ食うて、手長 海老 のスパゲティ食うて、ボンゴレ・ビアンコ食うて、ジェノベーゼ食うて、ペペロンチーネ食うて、ピッツァ・マルゲリータ食うて、ピッツァ・ゴルゴンゾーラ食うて、ピッツァ・ポモドーロ食うて、〆 にポルチーニ茸 のチーズリゾット食うた。
美味 いわあ、ここの飯 。いくらでも入りすぎ。
「デザートいっとく? デザート。ティラミスとジェラートいっとく? 桃 のタルトもいっとく?」
「食い過ぎやろ、お前……」
デザートメニューを眺 める俺に、アキちゃんが指摘 してきた。
いやいや、お前もけっこう食うてたよ。
「焼き肉食いたいなあ……」
信太 が突然そう言うた。アキちゃんはそれに、びくっとしてた。
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