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三都幻妖夜話(3)神戸編 14-11 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
14-11 トオル
作者:
椎堂かおる
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14-11 トオル
水煙
(
すいえん
)
はずっと俺のこと、
蛇
(
へび
)
や
蛇
(
へび
)
やと
蔑
(
さげす
)
むように呼んでやがったけど、お前も似たようなもんやないか。
大層
(
たいそう
)
変わらん
長虫
(
ながむし
)
仲間や。 「
海道
(
かいどう
)
竜太郎
(
りゅうたろう
)
」 真っ青な長い指で、
水煙
(
すいえん
)
は
竜太郎
(
りゅうたろう
)
の両肩を
掴
(
つか
)
んでた。
蛇体
(
じゃたい
)
がけっこう長くてな、
水槽
(
すいそう
)
から立ち上がると、上から
迫
(
せま
)
ってくるようなでかさやねん。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は
完璧
(
かんぺき
)
に
腰抜
(
こしぬ
)
けてたと思うわ。キャットウォークにへたり込んでいた。 実を言うと俺もちょっとへたりそうやった。怖いねん。
水煙
(
すいえん
)
怖いよう。 こいつは俺の
先輩
(
せんぱい
)
で、
蛇神
(
へびがみ
)
の一種やったんやなあ。 実はこっちが
本性
(
ほんしょう
)
で、ずっと長く剣の姿をとりすぎて、自分がどんな
正体
(
しょうたい
)
やったか忘れてもうてたんやないか。 それを思い出したんやろ。アキちゃんのおとんと一緒に
軍艦
(
ぐんかん
)
乗ってて、いっしょに海に落ちてもうて、海のエキスたっぷりの
水気
(
みずけ
)
を吸うて、思い出した。自分がどんな神やったか。 でももうその時には、アキちゃんのおとんは死んでもうてたんや。 「お前には
予知
(
よち
)
の
才
(
さい
)
があるやろ。
分家筋
(
ぶんけすじ
)
には昔からあった。それに
僅
(
わず
)
かばかりとはいえ、お前も
龍
(
りゅう
)
の
眷属
(
けんぞく
)
や。
龍
(
りゅう
)
に愛された血筋や。そうやろ
竜太郎
(
りゅうたろう
)
」
震
(
ふる
)
いつくような
美貌
(
びぼう
)
の
水煙
(
すいえん
)
に、
間近
(
まぢか
)
に甘い息を
吐
(
は
)
きかけられて、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
はこくこく
頷
(
うなず
)
いていた。 泣きそうみたいな、ビビりきった顔でな。 「血が
匂
(
にお
)
うてるわ。
龍人
(
りゅうじん
)
の
末裔
(
まつえい
)
や。そして
覡
(
げき
)
でもある。
秋津
(
あきつ
)
の
傍流
(
ぼうりゅう
)
やからな。お前やったら
申
(
もう
)
し
分
(
ぶん
)
ない。お前が
龍
(
りゅう
)
の
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
になれ」 「なに……なに、なんの話なん。
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
って……」
水煙
(
すいえん
)
は、
非力
(
ひりき
)
やったはずや。 それでも
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は、
水煙
(
すいえん
)
から
逃
(
に
)
げられへんらしい。 確かに食い込むような指で、
水煙
(
すいえん
)
は
竜太郎
(
りゅうたろう
)
をとっつかまえてた。 もしかして、この水が、海水やからかなと、俺は
水煙
(
すいえん
)
が長い
半身
(
はんしん
)
を突っ込んだままでいる
水槽
(
すいそう
)
の中の、
潮
(
しお
)
の
香
(
かお
)
る水を見つめた。 海の水って、ただの水と、なんか違うの。塩辛い以外にも、なんか違いがあんのかな。 あるんやろうな。
風呂
(
ふろ
)
の水やと、あんなにナヨかった
水煙
(
すいえん
)
が、今ではまるで怪物か、海の底から現れた、ええのか悪いのかよう分からんような神さんや。
水煙
(
すいえん
)
の体は、
怪
(
あや
)
しく
輝
(
かがや
)
くような
鱗
(
うろこ
)
で
飾
(
かざ
)
られていて、
綺麗
(
きれい
)
やけども、抱かれると傷だらけになりそうやった。 「
龍
(
りゅう
)
が現れると
予知
(
よち
)
したやろう。お前の他の連中も、同じように
予知
(
よち
)
をした。ヘタレの
茂
(
しげる
)
がそう言うてたわ。せやからそれはもう
確定
(
かくてい
)
やろう。
確定
(
かくてい
)
した未来になるんや」 キレたみたいに
水煙
(
すいえん
)
は
怒鳴
(
どな
)
り、それに部屋の
水槽
(
すいそう
)
の中で飼われてる魚が、びしゃびしゃ
跳
(
は
)
ねた。 「
忌々
(
いまいま
)
しいわ。でも、そうなるもんは仕方ない。
肝心
(
かんじん
)
なのは、そこから先や。お前に見える未来は、ひとつだけか、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
」
怪
(
あや
)
しく光る
水煙
(
すいえん
)
の大きな目に
睨
(
にら
)
まれて、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は
縮
(
ちぢ
)
こまっていた。 それでも神の問いかけや。質問には答えないとあかんと思ったんやろ。 ふるふると、小さく首を横に
振
(
ふ
)
ってた。真っ青な顔してな。 「わからへん……見ようとすると、モヤモヤってなって……」 「まだ
確定
(
かくてい
)
してないんや」
竜太郎
(
りゅうたろう
)
の言葉を引き取って、
水煙
(
すいえん
)
は結論をつけた。 そうして黒い目を細め、
水煙
(
すいえん
)
は少しの間だけ、遠くを
見透
(
みす
)
かすような目つきをしてた。 「未来を
視
(
み
)
ろ、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
。一番当たり
障
(
さわ
)
りのない未来を。それが無理なら、お前が
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
になる未来を
視
(
み
)
るんや。うちの
坊
(
ぼん
)
を
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
には出させへん」 「アキ
兄
(
にい
)
が
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
になるんか?」
驚
(
おどろ
)
いた顔をして、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は聞き返してた。 こいつは
龍
(
りゅう
)
の
出現
(
しゅつげん
)
を
予知
(
よち
)
しただけや。
詳
(
くわ
)
しいことは分かってへんかったんやろ。 俺はどうも、
水煙
(
すいえん
)
のやり
口
(
くち
)
に
賛同
(
さんどう
)
しかねる
面
(
めん
)
もあってな、思わずよそ見をしていたわ。見てるとちょっと引いてもうてな。
水煙
(
すいえん
)
は、こういう考えやった。 なんでうちのジュニアが死ななあかんねん。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
がおるやろ。 あいつも
傍流
(
ぼうりゅう
)
とはいえ
秋津
(
あきつ
)
の血を
汲
(
く
)
む
餓鬼
(
がき
)
んちょで、
予知
(
よち
)
の才能もある
覡
(
げき
)
や。 それに
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
は若いほうがええねんて。そしてできれば、
童貞
(
バージン
)
のほうがいい。
龍
(
りゅう
)
は実際的には
童貞
(
バージン
)
やのうても、より強い力のあるアキちゃんのほうが好きかもしれへんけども、それでも
竜太郎
(
りゅうたろう
)
でもかまへんやろ。 なんというても
童貞
(
バージン
)
やしな。 なんというてもアキちゃんを死なせるわけにはいかへん。 せやから代わりに、死んでもらおか、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
に。って。 それなら
秋津
(
あきつ
)
の
面目
(
めんもく
)
も立つし、アキちゃんも死なせずに済む。 こういう時のバックアップとしての
分家
(
ぶんけ
)
やないか。それを使う時やって。 「
秋津
(
あきつ
)
は
龍
(
りゅう
)
が
暴
(
あば
)
れた時には、一族から
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
を出してきた。
大抵
(
たいてい
)
は
適齢
(
てきれい
)
の、できるだけ
末子
(
まっし
)
に近いのをやった。せやけどあいにく、
本家
(
ほんけ
)
は一人っ子でな。
分家
(
ぶんけ
)
のお前が
適任
(
てきにん
)
や」 「
嫌
(
いや
)
や……
生
(
い
)
け
贄
(
にえ
)
なんて、なりたないわ!」
逃
(
のが
)
れようと
藻掻
(
もが
)
いて、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は
拒
(
こば
)
んでた。
水煙
(
すいえん
)
はそれを、
逃
(
のが
)
しはせえへんかった。 「誰かてそうや。死ぬのが
嬉
(
うれ
)
しい言うて死んだ
奴
(
やつ
)
なんかおらん。泣く泣くの
覚悟
(
かくご
)
を決めて、家のため、国のために死ぬんやないか。お前もそれをやれ、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
。
本家
(
ほんけ
)
の
養子
(
ようし
)
にしてやるわ」
水煙
(
すいえん
)
は怖いぐらいの無表情やった。
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椎堂かおる
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