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14-14 トオル

 算段(さんだん)なんかあらへんで。何の(さく)もなかったけどもや、(だま)ってもうたらお(しま)いやって、そんな気がしてん。 「やめよう水煙(すいえん)。ひとりで()(ぱし)らんといて。俺ら家族やろ。チームやないか。どう見ても『アダムス・ファミリー』みたいな妖怪一家やけどな、それでも一人で考えんと、(みんな)で考えような。アキちゃんにもちゃんと、話してやってくれ。ジュニアやないで、あいつがお前の主人やないか。秋津(あきつ)当主(とうしゅ)の、秋津(あきつ)暁彦(あきひこ)なんやろ?」  水煙(すいえん)は、俺の話を聞いていた。  せやけど俺は俺の話をいまいち聞いてへんかった。  なんて言うてた、今。必死すぎて聞いてへん。どのへんに反応してたんや。  妖怪一家? それやないな。  秋津(あきつ)暁彦(あきひこ)?  あっ、それかな。その辺やった? 誰か見てた? 見てへんかった?  一体どのへんつつけばええんや。水煙(すいえん)(くず)れ落ちる、そんな心のツボみたいなんが、絶対あるはず。  人でもなんでも、心があるやつには、それがあるはず。それは経験的な俺の(かん)。  甘く(ささや)二枚舌(にまいじた)で、人を(たぶら)かして生きてきた外道(げどう)やないか。こうなったらもう、舌先三寸(したさきさんずん)()けるしかない。 「あの子はまだ、秋津(あきつ)当主(とうしゅ)やない……神剣を受け()(げき)が、秋津(あきつ)家督(かとく)()げるんや」  それを語る水煙(すいえん)は、苦しそうやった。  代々の当主に俺は(あが)められた。そういうプライドが、こいつにはあるはずや。  せやのにアキちゃんは散々(さんざん)水煙(すいえん)()みにじってやな、こいつの心はズタボロや。  それでも好きやて()れたんやないか。()れたらあかん神剣のくせにやな。 「なんで。お前はアキちゃんの剣やんか。二人セットで家を守るんやろ。俺なんかお邪魔(じゃま)なんやろ。そういうデカい態度しとったやないか」 「あの子は俺を、愛してない。お前を愛してる。お前だけが好きやねん」  俺を求めてない。だから神剣の主になれないと、水煙(すいえん)は俺にゲロった。  あら。そう。そんなふうに来ちゃうのね……。  ほんなら俺は、お前に一番教えてやりとうないことを、言うしかなくなる。 「そんなことない……()いてみたことあるか、アキちゃんに。(たの)んだことある? 俺のこと、愛せるかって。(のぞ)いてみたらええやん、アキちゃんの本音(ほんね)本音(ほんね)のとこを」 「そんなもん、見てどないすんねん。(とおる)好きやはもう沢山(たくさん)なんやで。俺にも()(がた)いことはある」  さあ食おかって、水煙(すいえん)はやけに長いように見える白い舌を見せた。  美しい顔して、それはちょっと怖い。  ぺろりと()められ、水煙(すいえん)の手の中の竜太郎(りゅうたろう)(たましい)は、七色のさざ波のような(ふる)えを走らせた。 「可哀想(かわいそう)になあ。この子もジュニアに()れてるわ……そんな味やで。(あわ)いけど」  初恋(はつこい)の味ってとこやろ。水煙(すいえん)美味(うま)そうに()めた。  べろんごっくんまで、あと一秒、それとも二秒かって、俺は(もだ)えた。  言うしかないなあ、教えてやるしか。 「あのなあ……水煙(すいえん)。アキちゃんは、お前のことも好きなんやで。愛してると思うわ」  どうにもしゃあないと、俺もゲロった。  水煙(すいえん)不愉快(ふゆかい)そうに顔をしかめた。 「えらい口から出任(でまか)せやなあ……」 「(うそ)やない。俺に気兼(きが)ねしてるだけ。俺が()らんようになったと思った時には、迷わずお前を抱いたやろ。キスもしたしな。そういう(やつ)やねん。気が多いんや」  ほんまにどうしようもない。  今ごろのんきに海の絵描いてるやろうツレのことを、俺はぼんやり思い出し、脳内(のうない)でタコ(なぐ)りにしてやった。  もう死ね。本間(ほんま)暁彦(あきひこ)。死んでまえ、この浮気者(うわきもん)。  (うそ)。死なんといて。言うてみただけ。  死んだら(こま)る。愛してんねん。  でも水煙(すいえん)も、勝呂(すぐろ)瑞希(みずき)竜太郎(りゅうたろう)も、お前を愛してるらしい。  死ぬほど好きやて水煙(すいえん)言うてる。ほんなら死ねばって、なんでかもう思われへん。  (じょう)(うつ)ってもうたんや。ほんの一時だけやのに、お前も家族って思ったら、アキちゃんが好きなお前のことが、他人と思えへん。  トミ子二号や。ブサイクやないけど、この宇宙人がトミ子二号。  アキちゃんが、藤堂(とうどう)さんのこと、好きやって言うてくれた。  なんでやろ。俺にはそれがけっこう胸に来た。  (うれ)しかったんや。過去も未来もなにもかも引っくるめて受け入れてくれたって、そんなふうな気がしてん。  アキちゃんアホやわ。俺もそんな超弩級(ちょうどきゅう)のアホにならなあかん。  だってそのほうがアキちゃんはきっと(らく)やろし、幸せに生きていけるんやないか。妖怪だらけのアダムス・ファミリーと。  水煙(すいえん)好きなら好きでええやん。確かに美形(びけい)や。しかもちょっと怖い。  でも(たよ)りにはなる。お高いけど(かしこ)い。でもちょっとアホ。  ひとりでいろいろ思い詰めすぎやねん。  そんなアホな宇宙人を(しず)められるのは、アキちゃんの愛だけや。  愛して欲しいって苦しいねん。俺にも分かるよその気持ち。  アキちゃん愛してくれへんかって、ずっと(せつ)なかった。  苦しみ藻掻(もが)いてアホなところも、ブサイクなところも見せた。  それでもアキちゃん愛してくれたで。  せやから平気や、宇宙系でも、下半分が(りゅう)でも、顔綺麗(きれい)なんやから。  それで心優しい神さんやったら、美しすぎるて言うて(あが)めてくれる。うっとり(なが)めて、絵に描いてもらえるで。  絶対そうや、あいつの底知(そこし)れぬキャパを(もっ)てすれば、水煙(すいえん)くらい楽勝(らくしょう)

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