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三都幻妖夜話(3)神戸編 14-14 トオル | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
14-14 トオル
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
158 / 928
14-14 トオル
算段
(
さんだん
)
なんかあらへんで。何の
策
(
さく
)
もなかったけどもや、
黙
(
だま
)
ってもうたらお
終
(
しま
)
いやって、そんな気がしてん。 「やめよう
水煙
(
すいえん
)
。ひとりで
突
(
つ
)
っ
走
(
ぱし
)
らんといて。俺ら家族やろ。チームやないか。どう見ても『アダムス・ファミリー』みたいな妖怪一家やけどな、それでも一人で考えんと、
皆
(
みんな
)
で考えような。アキちゃんにもちゃんと、話してやってくれ。ジュニアやないで、あいつがお前の主人やないか。
秋津
(
あきつ
)
の
当主
(
とうしゅ
)
の、
秋津
(
あきつ
)
暁彦
(
あきひこ
)
なんやろ?」
水煙
(
すいえん
)
は、俺の話を聞いていた。 せやけど俺は俺の話をいまいち聞いてへんかった。 なんて言うてた、今。必死すぎて聞いてへん。どのへんに反応してたんや。 妖怪一家? それやないな。
秋津
(
あきつ
)
暁彦
(
あきひこ
)
? あっ、それかな。その辺やった? 誰か見てた? 見てへんかった? 一体どのへんつつけばええんや。
水煙
(
すいえん
)
が
崩
(
くず
)
れ落ちる、そんな心のツボみたいなんが、絶対あるはず。 人でもなんでも、心があるやつには、それがあるはず。それは経験的な俺の
勘
(
かん
)
。 甘く
囁
(
ささや
)
く
二枚舌
(
にまいじた
)
で、人を
誑
(
たぶら
)
かして生きてきた
外道
(
げどう
)
やないか。こうなったらもう、
舌先三寸
(
したさきさんずん
)
に
賭
(
か
)
けるしかない。 「あの子はまだ、
秋津
(
あきつ
)
の
当主
(
とうしゅ
)
やない……神剣を受け
継
(
つ
)
ぐ
覡
(
げき
)
が、
秋津
(
あきつ
)
の
家督
(
かとく
)
を
継
(
つ
)
げるんや」 それを語る
水煙
(
すいえん
)
は、苦しそうやった。 代々の当主に俺は
崇
(
あが
)
められた。そういうプライドが、こいつにはあるはずや。 せやのにアキちゃんは
散々
(
さんざん
)
、
水煙
(
すいえん
)
を
踏
(
ふ
)
みにじってやな、こいつの心はズタボロや。 それでも好きやて
折
(
お
)
れたんやないか。
折
(
お
)
れたらあかん神剣のくせにやな。 「なんで。お前はアキちゃんの剣やんか。二人セットで家を守るんやろ。俺なんかお
邪魔
(
じゃま
)
なんやろ。そういうデカい態度しとったやないか」 「あの子は俺を、愛してない。お前を愛してる。お前だけが好きやねん」 俺を求めてない。だから神剣の主になれないと、
水煙
(
すいえん
)
は俺にゲロった。 あら。そう。そんなふうに来ちゃうのね……。 ほんなら俺は、お前に一番教えてやりとうないことを、言うしかなくなる。 「そんなことない……
訊
(
き
)
いてみたことあるか、アキちゃんに。
頼
(
たの
)
んだことある? 俺のこと、愛せるかって。
覗
(
のぞ
)
いてみたらええやん、アキちゃんの
本音
(
ほんね
)
の
本音
(
ほんね
)
のとこを」 「そんなもん、見てどないすんねん。
亨
(
とおる
)
好きやはもう
沢山
(
たくさん
)
なんやで。俺にも
耐
(
た
)
え
難
(
がた
)
いことはある」 さあ食おかって、
水煙
(
すいえん
)
はやけに長いように見える白い舌を見せた。 美しい顔して、それはちょっと怖い。 ぺろりと
舐
(
な
)
められ、
水煙
(
すいえん
)
の手の中の
竜太郎
(
りゅうたろう
)
の
魂
(
たましい
)
は、七色のさざ波のような
震
(
ふる
)
えを走らせた。 「
可哀想
(
かわいそう
)
になあ。この子もジュニアに
惚
(
ほ
)
れてるわ……そんな味やで。
淡
(
あわ
)
いけど」
初恋
(
はつこい
)
の味ってとこやろ。
水煙
(
すいえん
)
は
美味
(
うま
)
そうに
舐
(
な
)
めた。 べろんごっくんまで、あと一秒、それとも二秒かって、俺は
悶
(
もだ
)
えた。 言うしかないなあ、教えてやるしか。 「あのなあ……
水煙
(
すいえん
)
。アキちゃんは、お前のことも好きなんやで。愛してると思うわ」 どうにもしゃあないと、俺もゲロった。
水煙
(
すいえん
)
は
不愉快
(
ふゆかい
)
そうに顔をしかめた。 「えらい口から
出任
(
でまか
)
せやなあ……」 「
嘘
(
うそ
)
やない。俺に
気兼
(
きが
)
ねしてるだけ。俺が
居
(
お
)
らんようになったと思った時には、迷わずお前を抱いたやろ。キスもしたしな。そういう
奴
(
やつ
)
やねん。気が多いんや」 ほんまにどうしようもない。 今ごろのんきに海の絵描いてるやろうツレのことを、俺はぼんやり思い出し、
脳内
(
のうない
)
でタコ
殴
(
なぐ
)
りにしてやった。 もう死ね。
本間
(
ほんま
)
暁彦
(
あきひこ
)
。死んでまえ、この
浮気者
(
うわきもん
)
。
嘘
(
うそ
)
。死なんといて。言うてみただけ。 死んだら
困
(
こま
)
る。愛してんねん。 でも
水煙
(
すいえん
)
も、
勝呂
(
すぐろ
)
瑞希
(
みずき
)
も
竜太郎
(
りゅうたろう
)
も、お前を愛してるらしい。 死ぬほど好きやて
水煙
(
すいえん
)
言うてる。ほんなら死ねばって、なんでかもう思われへん。
情
(
じょう
)
が
移
(
うつ
)
ってもうたんや。ほんの一時だけやのに、お前も家族って思ったら、アキちゃんが好きなお前のことが、他人と思えへん。 トミ子二号や。ブサイクやないけど、この宇宙人がトミ子二号。 アキちゃんが、
藤堂
(
とうどう
)
さんのこと、好きやって言うてくれた。 なんでやろ。俺にはそれがけっこう胸に来た。
嬉
(
うれ
)
しかったんや。過去も未来もなにもかも引っくるめて受け入れてくれたって、そんなふうな気がしてん。 アキちゃんアホやわ。俺もそんな
超弩級
(
ちょうどきゅう
)
のアホにならなあかん。 だってそのほうがアキちゃんはきっと
楽
(
らく
)
やろし、幸せに生きていけるんやないか。妖怪だらけのアダムス・ファミリーと。
水煙
(
すいえん
)
好きなら好きでええやん。確かに
美形
(
びけい
)
や。しかもちょっと怖い。 でも
頼
(
たよ
)
りにはなる。お高いけど
賢
(
かしこ
)
い。でもちょっとアホ。 ひとりでいろいろ思い詰めすぎやねん。 そんなアホな宇宙人を
鎮
(
しず
)
められるのは、アキちゃんの愛だけや。 愛して欲しいって苦しいねん。俺にも分かるよその気持ち。 アキちゃん愛してくれへんかって、ずっと
切
(
せつ
)
なかった。 苦しみ
藻掻
(
もが
)
いてアホなところも、ブサイクなところも見せた。 それでもアキちゃん愛してくれたで。 せやから平気や、宇宙系でも、下半分が
龍
(
りゅう
)
でも、顔
綺麗
(
きれい
)
なんやから。 それで心優しい神さんやったら、美しすぎるて言うて
崇
(
あが
)
めてくれる。うっとり
眺
(
なが
)
めて、絵に描いてもらえるで。 絶対そうや、あいつの
底知
(
そこし
)
れぬキャパを
以
(
もっ
)
てすれば、
水煙
(
すいえん
)
くらい
楽勝
(
らくしょう
)
。
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椎堂かおる
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