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三都幻妖夜話(3)神戸編 15-1 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
15-1 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
163 / 928
15-1 アキヒコ
神楽
(
かぐら
)
さんは俺の友達やった。たぶん、そういうことになるんやと思う。 恐ろしい話やけど、そうとしか考えられへん。 親しく付き合ってて、何か用事あったら
携帯
(
けいたい
)
に電話かけてきたりメール送ってきたり、
困
(
こま
)
ったことあったら相談したり、ピンチになったら助けたり。 そして、お互いその相手に恋愛めいた
下心
(
したごころ
)
がなければ、それは友達ということやないか。 その
観点
(
かんてん
)
からいくと、
神楽
(
かぐら
)
さんは間違いなく俺の友達ということになる。
霊振会
(
れいしんかい
)
でも同期入会やし。同じメルマガで顔出しさせられた
仲
(
なか
)
やしな。 しかし俺には
神楽
(
かぐら
)
さんが自分の友達というのがどうも
不思議
(
ふしぎ
)
でならない。何でそういうことになってもうたんか。 どっちか言うたら好みの
系統
(
けいとう
)
の人のはずやった。顔はあんな
女顔
(
おんながお
)
やし、いつも何となくの
憂
(
うれ
)
い顔して、ふらふら弱っちそうやし。守ってやらなあかんみたいなタイプで、背も俺より低いんやで。 まあ、それを言うたら、俺は自分より背高い奴には
滅多
(
めった
)
にお目にかからへん。
虎
(
とら
)
すら俺よか背は低い。
中西
(
なかにし
)
支配人もかなり長身やけど、それでも俺のほうが高い。自分と
並
(
なら
)
ぶ目の高さから話しかけてくるやつは、俺のおとんだけや。 背の
高低
(
こうてい
)
は実は関係ないんか。 ほんなら
歳
(
とし
)
かもしれへん。
神楽
(
かぐら
)
さんは一歳だけやけど俺より年上で、キャリア的にも上やった。 とっくに大学二回も卒業してて、すでに働いている。つまり社会人。俺から見たら
先輩
(
せんぱい
)
で、俺は自分を見下ろす
奴
(
やつ
)
に
惚
(
ほ
)
れる
性癖
(
せいへき
)
はない。 どっちか言うたら俺を
頼
(
たよ
)
って
縋
(
すが
)
り付いてくる奴が好きやねん。それがストライクゾーン。 たぶん、そこやろ。歳のこと言うたら、
亨
(
とおる
)
なんか俺より何千年レベルで年上なんやし。それでもあいつがアキちゃん好きやて、うっとりしたような
上目遣
(
うわめづか
)
いで、胸に
縋
(
すが
)
ってくるのが
可愛
(
かわい
)
いわけです。
水煙
(
すいえん
)
もそうやろ。剣の時にはそうでもないが、
人型
(
ひとがた
)
してたら、ぐんにゃり力無い
弱々
(
よわよわ
)
しさで、抱いて運んでやらんと、どこにも行けへん。 それが心のツボに来るんやろ。ど真ん中やねん。
勝呂
(
すぐろ
)
はあんなんやしな。
先輩
(
せんぱい
)
先輩
(
せんぱい
)
言うて俺を立てて、
隅
(
すみ
)
にも置かへん。 あいつ、俺の絵見ていちいち、すごいなあ、すごいなあ言うんや。大したことないて
謙遜
(
けんそん
)
してみせても、それが気持ちようない
奴
(
やつ
)
なんか
居
(
お
)
るわけないやろ。 お
世辞
(
せじ
)
で言うてるわけやない。あいつは本気で
褒
(
ほ
)
めてるらしかった。そういうのが
可愛
(
かわい
)
くないわけがない。 つまりな、その話の
結論
(
けつろん
)
は、俺は顔さえよけりゃ何でもええわけやない。
神楽
(
かぐら
)
さんは、確かに
美貌
(
びぼう
)
の男やけど、
初対面
(
しょたいめん
)
からして、俺はあの人に
借
(
か
)
りがある。
免停
(
めんてい
)
から
救
(
すく
)
われたという。 それでいて、助けてやったんやという上から目線では来ない人やった。
神楽
(
かぐら
)
さんは、自分が
偉
(
えら
)
いと思っていない。自分が持ってる
超常
(
ちょうじょう
)
の力も、神が与え
給
(
たも
)
うたもので、我がものではないし、人に
奉仕
(
ほうし
)
するのは当たり前。お役に立って
嬉
(
うれ
)
しいですって、そういうノリやねん。
傲慢
(
ごうまん
)
さの
欠片
(
かけら
)
もない。 だからかなあ、いつも同じ目線の高さにいる感じのする人や。 それがな、俺の心のツボを外してるところやねん。幸いにしてな。 せやから、俺を
頼
(
たよ
)
ったらあかんねん、あの人は。
微妙
(
びみょう
)
になってまうやろ。ストライクゾーンに入ってきてまうやんか。 それは
困
(
こま
)
るんや、もし万が一、その
球
(
たま
)
を俺が打ち返したくなったらヤバいやろ。そんなんしてもうたら、また
中西
(
なかにし
)
さんと、ややこしい関係になるやないか。 今でもすでに
充分
(
じゅうぶん
)
ややこしいけども、でも何となく
円満
(
えんまん
)
なところに落ち着いてる。俺はそう思ってる。 その平和な気持ちを、
敢
(
あ
)
えて今さら
掻
(
か
)
き
乱
(
みだ
)
されたくないねん。 俺は内心、
亨
(
とおる
)
と出会ってからの約八ヶ月間、
藤堂
(
とうどう
)
さんなる人物の存在を知った瞬間から、ずっと
片隅
(
かたすみ
)
にそのことが、痛い
棘
(
とげ
)
みたいに引っかかっていた。 絶対に負けたらあかん相手として、見ず知らずの誰か知らんおっさんと張り合っていた。 しんどいねん、そういうのは。
自然体
(
しぜんたい
)
でいたいねん。 いちいち張り合おうとする性格が間違ってるんやろけど、俺は
虎
(
とら
)
ですら、実はしんどいんや。 自分にとって、もはや確実にどうでもええはずの鳥さんを
巡
(
めぐ
)
って、あいつと張り合おうとしてまうねん。 男の
性
(
さが
)
みたいなもん。どうしようもないんや。 そういうのをな、もう
中西
(
なかにし
)
さんとやりたくない。なんというか。勝ち目がない気がするから。 負けたなあって思っても、それが
心地
(
ここち
)
いいような関係に、なんとか落とし込みたい。 せやから
神楽
(
かぐら
)
さんは俺の友達で、俺は
頼
(
たよ
)
られると困る。持ちつ持たれつの
範囲
(
はんい
)
を超えへんようにしてほしい。 せやのに
頼
(
たよ
)
られると助けなあかんと思うのも、俺の
性
(
さが
)
やった。 まずは
水族館
(
すいぞくかん
)
の続きから話をしよう。 その一連の出来事の
起点
(
きてん
)
にあたる時、俺はそこにいた。
須磨
(
すま
)
の
水族館
(
すいぞくかん
)
の、見上げるような高い天井まで続く、薄暗く青い
大水槽
(
だいすいそう
)
の部屋に。
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椎堂かおる
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