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三都幻妖夜話(3)神戸編 17-1 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
17-1 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
190 / 928
17-1 アキヒコ
神楽
(
かぐら
)
さんは、ものすごく落ち込んでいた。 それも無理ない、デートをすっぽかされたんやから。デートというか、まさかプチ・ハネムーンやろか。神戸港に船乗りにいくという予定やったらしい。 恐ろしい話や。結婚するなんて。 そんなこと俺は、いっぺんも考えてみたことがない。男同士で結婚できるなんて、これっぽっちも想像したことがない。
固定概念
(
こていがいねん
)
というのは恐ろしい。なんで
亨
(
とおる
)
が女やなかったら結婚できへんと思ってたんやろ。もちろん、それが常識やからやけど。 しかし、世の中には、相手が
異性
(
いせい
)
でなくても正式に結婚できる国もあるらしい。それは後々聞いた話やけども、
中西
(
なかにし
)
支配人はそういうのを知っていて、それで、結婚しよかという話を
神楽
(
かぐら
)
さんにしたらしい。 そやけど
神楽
(
かぐら
)
さんにすれば、ほな、しよか、というような、簡単な話やない。 元はといえば、同性愛はあかんと言うてた人なんやで。それは教会がそれを禁じてるから。ヴァチカンが同性愛を認めてないから。社長があかんと言うてるからや。
察
(
さっ
)
するに、
神楽
(
かぐら
)
さんは長年それで苦しんできた人やった。だって、ほら、初恋の相手からして、たぶん男やったんやんか。同じ教会に通うてる、ちょっと年の離れた兄ちゃんなんや。 きっと、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
が俺を好きやというようなもんなんやろう。子供の頃って、年上の兄ちゃんに
憧
(
あこが
)
れたりするもんや。 それがちょっと本気すぎたってだけやろ。相手が
下手
(
へた
)
に
応
(
こた
)
えへんかったら、それはそれで適当に
誤魔化
(
ごまか
)
してやっていけたんやろ。 しかし
神楽
(
かぐら
)
さんは割とマジやった。
中西
(
なかにし
)
さんのことも、ほんま言うたら前々から、けっこうマジで好きやったんやないか。
神楽
(
かぐら
)
さんのおとんは、家具を
扱
(
あつか
)
う
貿易商
(
ぼうえきしょう
)
。妻子を連れてイタリアに帰ったものの、事業を
止
(
や
)
めたわけではなかった。会社は
依然
(
いぜん
)
として日本にあったし、その
拠点
(
きょてん
)
は
神戸
(
こうべ
)
やった。
中西
(
なかにし
)
支配人は、まだ藤堂さんやった頃から、そのおとんと親交があった。ホテルに家具入れたりする
縁故
(
えんこ
)
があったんや。それがきっかけで、
六甲
(
ろっこう
)
の
神楽
(
かぐら
)
・スフォルツァ
邸
(
てい
)
に
招
(
まね
)
かれたりもしていた。 それに、なんせどっちもカトリックの
信者
(
しんじゃ
)
やし、家もけっこう近かった。 ひとつの教会が担当しているエリアのことを
教区
(
きょうく
)
と呼ぶらしいんやけども、その、同じ
教区内
(
きょうくない
)
に家があり、つまりは毎週同じ教会で顔を合わせていた
仲
(
なか
)
やった。 もしかすると
中西
(
なかにし
)
さんは、小さい
遥
(
よう
)
ちゃんに
悪魔
(
サタン
)
が
憑
(
つ
)
いた話も、なぁんとなく知っていたんかもしれへん。 イタリアに帰った後も、この家族の親交は
途切
(
とぎ
)
れへんかった。
中西
(
なかにし
)
さんが、その当時はまだ
藤堂
(
とうどう
)
さんやったやろけど、仕事でイタリア行ったついでに、
神楽
(
かぐら
)
さんのおとんの家を
訪
(
たず
)
ねていくこともあったらしい。 そこで
神楽
(
かぐら
)
さんは
藤堂
(
とうどう
)
さんに会っていた。ヴァチカンはキリスト
教徒
(
きょうと
)
にとっては
巡礼
(
じゅんれい
)
の地や。せっかく
近場
(
ちかば
)
まで行ったら
寄
(
よ
)
りたいもんらしい。
藤堂
(
とうどう
)
さんは家族を連れてきていた。奥さんと娘。全員カトリックやで。 その三人家族を連れて、
神楽
(
かぐら
)
さんはヴァチカンを案内してやった。
大聖堂
(
だいせいどう
)
に美術館。神聖な
祭礼
(
ミサ
)
。 もう小さい
遥
(
よう
)
ちゃんではない。神父様と、
藤堂
(
とうどう
)
さんは
冗談
(
じょうだん
)
めかして
神楽
(
かぐら
)
さんのことを呼んだ。
神学生
(
しんがくせい
)
やったからや。
神楽
(
かぐら
)
さんにしたら、久々に話す日本語やったんやろ。楽しかったんやって。 自分は日本人やと、その時気づいた。 フォロロマーノの古い
遺跡
(
いせき
)
を見て、
円形競技場
(
コロッセオ
)
を見て、トレビの
泉
(
いずみ
)
を見て、真実の口を見る。古い
都
(
みやこ
)
や、見るとこだらけ。
藤堂
(
とうどう
)
さんは英語はぺらぺらやけど、イタリア語は話せへん。
神楽
(
かぐら
)
さんは教会から
休暇
(
きゅうか
)
をもらい、何日もかけて観光に付き合ったらしい。
通訳
(
つうやく
)
兼
(
けん
)
ガイドやな。 せやけどその時にはもちろん何もない。
藤堂
(
とうどう
)
さんは結婚してた。そして自分は
神学生
(
しんがくせい
)
。 思えばおかしい。
神楽
(
かぐら
)
さんが
悪魔祓い
(
エクソシスト
)
として
派遣
(
はけん
)
されてきた時、
藤堂
(
とうどう
)
さんはいっぺん死んで、
蘇
(
よみがえ
)
って、そして
離婚
(
りこん
)
してた。それで
中西
(
なかにし
)
さんになったんやで。
教義
(
きょうぎ
)
に合わへんモンが
嫌
(
きら
)
いで、白黒つけたい
神楽
(
かぐら
)
さんが、俺を紹介してくれたとき、
中西
(
なかにし
)
さんにはにこにこ
挨拶
(
あいさつ
)
してた。
親
(
した
)
しげやった。会えて
嬉
(
うれ
)
しいみたいに見えた。この人は
中西
(
なかにし
)
さんですと紹介した。 それはただの人物紹介やけども、
神楽
(
かぐら
)
さんは
亨
(
とおる
)
みたいに、いつまでもあの人のことを
藤堂
(
とうどう
)
さんとは呼んでへん。 実は喜び
勇
(
いさ
)
んで、この人は日本に戻ってきたんやないか。
中西
(
なかにし
)
さんは奥さんと別れて、今フリーやし。
駄目
(
だめ
)
もとで
頼
(
たの
)
んでみた。
霊振会
(
れいしんかい
)
の人ら
泊
(
と
)
めてやってくれへんかって。そしたらまた、顔を合わせる
口実
(
こうじつ
)
にもなる。 それでどうこうしたいって、そんな勇気はなかったやろけど。でも無視しては通られへん。
六甲
(
ろっこう
)
に
派遣
(
はけん
)
されて、すぐ近くに
居
(
お
)
るのに、
素通
(
すどお
)
りはできひんかった。 引き寄せられる。
縁
(
えん
)
の力に。あるいは愛か欲か、そんなようなもんの
引力
(
いんりょく
)
によって。ぐいぐい引かれる。 そして今はもう、これ以上近づきようもないぐらい近くに
居
(
お
)
る。抱き
合
(
お
)
うて眠ってる。俺と
亨
(
とおる
)
が
寝坊
(
ねぼう
)
したみたいに、
神楽
(
かぐら
)
さんも今朝は
寝坊
(
ねぼう
)
した。 そして外で一緒に
朝飯
(
あさめし
)
食いたいって、甘えて
頼
(
たの
)
んだ。
卓
(
すぐる
)
さんに。そして
船遊び
(
クルーズ
)
デートの予定やった。
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椎堂かおる
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