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三都幻妖夜話(3)神戸編 17-4 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
17-4 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
193 / 928
17-4 アキヒコ
神戸
(
こうべ
)
訛
(
なま
)
りやからか。それとも電話から
漏
(
も
)
れる
気配
(
けはい
)
が、なんとはなしに人でないような、そんな気がするのが似てたんか。 電話
越
(
ご
)
しにも
匂
(
にお
)
う、
外道
(
げどう
)
の
匂
(
にお
)
いやで。 「行きましょう」 俺に向かって言い、
神楽
(
かぐら
)
さんは電話を切った。 その顔は、めちゃめちゃ暗かった。 俺は
水煙
(
すいえん
)
に、剣に戻るように
頼
(
たの
)
んだ。
水煙
(
すいえん
)
はそれには
逆
(
さか
)
らわれへん。俺の
式
(
しき
)
やから。
青肌
(
あおはだ
)
の怪物が剣に変身するのを、
神楽
(
かぐら
)
さんは悪いもんでも見たように見てた。見慣れてへんのもあるやろけど、これが現実かと俺は思った。 やっぱ
水煙
(
すいえん
)
には、もっと人間くさい姿をさせとかなあかん。 本人はどうでもええらしいけど、俺が傷つく。誰が見ても
綺麗
(
きれい
)
やなあって普通に思えるような姿のほうがいい。 でも、それって、
水煙
(
すいえん
)
には傷つく話なんやろか。 もやもやそう思いつつ、俺が剣を
握
(
にぎ
)
ると、
水煙
(
すいえん
)
はくすりと笑ったようやった。 そして、好きにすりゃええよと言うた。お前のおとんも自分の好みに合うように、俺を
刀匠
(
とうしょう
)
に打ち直させた。それをジュニアもやろうというんや、結局、似たもの親子やろと。 それは
皮肉
(
ひにく
)
に聞こえたもんで、
嫌
(
いや
)
なら無理に付き合うことはないよと、俺は思った。思うだけでも
水煙
(
すいえん
)
にはバレバレやからな。
嫌
(
いや
)
やないよと
水煙
(
すいえん
)
は笑っていたようやった。
嫌
(
いや
)
やない。お前の好みに合うように、好きな形に作り替えてくれ。 剣の時でも、人の時でも。そのほうが、俺は
嬉
(
うれ
)
しいと。 それは
艶
(
なま
)
めくような声で、ひたりと
寄
(
よ
)
り
添
(
そ
)
われたような
錯覚
(
さっかく
)
がした。 剣の時に話してよかったと、俺は思った。たとえ青い肌でも、
人型
(
ひとがた
)
の時やったらヤバかった。なんかそんな気がした。
亨
(
とおる
)
は車を降りて、車体
越
(
ご
)
しの海を見ていた。そこには
一隻
(
いっせき
)
の白い船が、港に到着するちょっと手前ぐらいで静止していた。
錨
(
いかり
)
を打って、
停泊
(
ていはく
)
しているみたいに見えた。 「あの船?」
眉
(
まゆ
)
をひそめて、
亨
(
とおる
)
は誰にともなくそう
訊
(
き
)
いた。 船は、
造花
(
ぞうか
)
かもしれへんけども、とにかく白とピンクの
薔薇
(
ばら
)
で
飾
(
かざ
)
られていた。そして
甲板
(
かんぱん
)
には花のアーチがかけられていて、それをくぐった先には小さな
祭壇
(
さいだん
)
がある。 結婚式をする船やないかと、そんな
風
(
ふう
)
な見かけやった。 しかし
甲板
(
かんぱん
)
には誰もいなくて、ひっそり静まりかえってる。誰も乗ってないわけやのうて、乗客は皆、船室のほうに引っ込んでるんやないかという
気配
(
けはい
)
がしてた。 何か、ただごとでない
気配
(
けはい
)
はする。船室の窓に
渦巻
(
うずま
)
く、
濃
(
こ
)
い
紫
(
むらさき
)
の
霧
(
きり
)
のようなもの。俺にはそれに見覚えがあった。 もちろん
神楽
(
かぐら
)
さんにもあったやろ。教会の地下で見たのと同じ
障気
(
しょうき
)
や。 「行きますか、
神楽
(
かぐら
)
さん」 俺が
訊
(
き
)
いたら、船を見ながら立っていた
神楽
(
かぐら
)
さんは、そっちを見たまま小さく
頷
(
うなず
)
いた。 そして、
後生大事
(
ごしょうだいじ
)
に持っていた、ねじれたような
溝
(
みぞ
)
のある
装飾
(
そうしょく
)
のクリスタルの
瓶
(
びん
)
を、ごとりと車の屋根に置いた。 「これは、
聖水
(
せいすい
)
ですが……ただの水でしょうか。それとも、これは、
効
(
き
)
くでしょうか。
骸骨
(
スケルトン
)
に」
真顔
(
まがお
)
で
訊
(
き
)
かれ、俺は
困
(
こま
)
った。 そんなもん、分かるわけない。あんたが専門なんやで? 「分かりません。今は
謎々
(
なぞなぞ
)
やってる時では……」 「違います、相談してるんです。
本間
(
ほんま
)
さん。これが
効
(
き
)
かないんやったら、僕は行っても役に立ちません。神の名と、
聖句
(
せいく
)
によってしか、
悪魔祓い
(
エクソシスト
)
は戦えません。それに意味がないら、僕はただの人間や。行けば足手まといになるかもしれません」 行ってええかと、
神楽
(
かぐら
)
さんは
訊
(
き
)
いてたんや。
微妙
(
びみょう
)
なところやった。 もしもこの人になんかあったら、俺はどうしよう。責任とられへん。
亨
(
とおる
)
に守らせたらええわと、
水煙
(
すいえん
)
が俺に
提案
(
ていあん
)
してきた。 その声は、俺以外にも聞こえたらしい。少なくとも
亨
(
とおる
)
と
神楽
(
かぐら
)
さんには。 「
嘘
(
うそ
)
やろ、
水煙
(
すいえん
)
。
冗談
(
じょうだん
)
きついよ」
亨
(
とおる
)
が
愚痴愚痴
(
ぐちぐち
)
、文句言うてた。 「なんで俺が神父を守らなあかんのや。そんな
義理
(
ぎり
)
ないで!」 絶対いややという顔で言う
亨
(
とおる
)
を笑い、
水煙
(
すいえん
)
は、チームワークやろと答えた。 お前の好きなチームワークやないか。うだうだ言うな、ついて来たんやったら仕事せえと、びしびし
叱
(
しか
)
って
大人
(
おとな
)
しくさせた。 すごい。
亨
(
とおる
)
を説得した。 俺はなんで
水煙
(
すいえん
)
がずっと、うちの家の
筆頭
(
ひっとう
)
の
式神
(
しきがみ
)
として、家を守ってこられたのか、その一瞬で
納得
(
なっとく
)
していた。
嫌
(
いや
)
なら来るなと
留
(
とど
)
めをさされ、
亨
(
とおる
)
は
渋々
(
しぶしぶ
)
やったけど、その作戦を受け入れた。 あんたもええな、死ぬよりマシやろ、と、
水煙
(
すいえん
)
は
神楽
(
かぐら
)
さんにも語りかけていた。
蛇
(
へび
)
や言うても、
亨
(
とおる
)
はイイ子やで。うちでは神なんやからな、守ってもらえて
有
(
あ
)
り
難
(
がた
)
いと思え。 土地の神の力を借りようというんやったら、その土地のルールを
憶
(
おぼ
)
えへんとなあと、
猫
(
ねこ
)
なで声で言われ、
神楽
(
かぐら
)
さんは押し
黙
(
だま
)
っていた。
水煙
(
すいえん
)
と、話したくないんやろ。 鳥さんとも、
神楽
(
かぐら
)
さんは話したくなかった。あいつが聖なる文句を口に出来ると分かるまで、
神聖
(
しんせい
)
か
邪悪
(
じゃあく
)
か分からんし、
口利
(
くちき
)
きたくないという態度でいたわ。 「あのな、
水煙
(
すいえん
)
。お前、なんか
神聖
(
しんせい
)
なこと言えるか?」 そのほうが
神楽
(
かぐら
)
さんも気が楽なんちゃうかと思えて、俺は
水煙
(
すいえん
)
に
頼
(
たの
)
んだ。お前も自分が神やという
身
(
み
)
の
証
(
あかし
)
を立てて見せてやればええよと思って。 そやけど
水煙
(
すいえん
)
も
伊達
(
だて
)
に
歳食
(
としく
)
った神ではなかったんや。
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椎堂かおる
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