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三都幻妖夜話(3)神戸編 17-10 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
17-10 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
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17-10 アキヒコ
神楽
(
かぐら
)
さんは骨のフロアを
中央突破
(
ちゅうおうとっぱ
)
して、さっさと
怪我人
(
けがにん
)
を助けに行っていた。 それもさすがと言うべきか、神父様はやめたけど、お医者様はやめてへん。 「
亨
(
とおる
)
、
神楽
(
かぐら
)
さんについといてやれ!」 「ええ!? やっぱそうなん?
嫌
(
いや
)
やで俺は!」 うるさい。
亨
(
とおる
)
やのうて部屋が。
仕方
(
しかた
)
なく俺は
亨
(
とおる
)
と
怒鳴
(
どな
)
り合っていた。 後は
任
(
まか
)
せたと思ったんか、電話の男、DJ
湊川
(
みなとがわ
)
は、めちゃくちゃうるさい音楽の音量をさらに上げていた。もはや聴くというより、体にびりびり音が
響
(
ひび
)
いてくるような状態や。
難聴
(
なんちょう
)
なりそう。俺はうるさいのは
嫌
(
きら
)
いやねん。 ようこんな結婚式するわ。元々用意してあったんやろ。いくら
異界
(
いかい
)
や言うたかて、突然ダンスフロアとDJブース出てくるわけないもんな。 踊るつもりやったんや、
披露宴
(
ひろうえん
)
で。世の中いろんな人いてる。 見れば花嫁は少々
歳
(
とし
)
を食っていた。こう言うたらなんやけど、若いカップルではなかった。あと二十年くらい若いほうが、しっくり来る絵なんやないかと、俺には思えた。 その二十年や。
震災
(
しんさい
)
から二十余年(にじゅうよねん)。 このカップルは
震災
(
しんさい
)
の前夜、結婚の前祝いとして友達を集め、地元のクラブを借り切って、ダンスパーティーを開いてた。 踊る人らやったんや。友達はみんなダンス仲間。一晩踊りに踊ろうかというネタで、踊りに踊ってその瞬間が来た。 ぐらっと
揺
(
ゆ
)
れて、天井が落ちてきた。仲良し仲間はみんなで仲良く生き埋めやった。 そのダンスフロアはビルの地下。大勢死んだ。 この結婚は呪われている。友達の
屍
(
しかばね
)
を越えてまで、ハッピーエンドに持ち込むべきやないと、二十年も思いとどまって、それでも好きやとご
成婚
(
せいこん
)
やったんや。 生き残っていた友達は、みんな
祝福
(
しゅくふく
)
してくれた。 そやけど死んでいたお友達は、ちょっと
微妙
(
びみょう
)
やったらしい。 船には骨が現れた。また一緒に踊ろうよと、
懐
(
なつ
)
かしい
面子
(
めんつ
)
を連れて行こうとした。
異界
(
いかい
)
へ。死んだ者だけが行く、
隣
(
となり
)
の世界へ。 そこへは死なんと行かれへん。 ほんなら死ねばと、それが死者の意見。死ぬのは嫌やと、それが生者の意見。 どうして踊らないのと、俺は踊る女の骨に
訊
(
き
)
かれた。 いけてる
骨盤
(
こつばん
)
。生きてる時には美しいお姉さんやったんやろか。踊る姿は骨になってもどこかしら
淫靡
(
いんび
)
で、それを
斬
(
き
)
るのは気が引けた。 死者にも踊る権利ぐらいはあるんやないか。誰も殺さへんのやったら。 しかし中には普通でないのが混ざってた。明らかに
体術
(
たいじゅつ
)
を使う。見たことないような
格闘技
(
かくとうぎ
)
で、俺はそいつに殺されそうやと思った。 踊るように舞い、
鋭
(
するど
)
い武器のような
爪
(
つめ
)
や
爪先
(
つまさき
)
で、
喉元
(
のどもと
)
めがけて
突
(
つ
)
きや
蹴
(
け
)
りを食らわしてくる。まさに死の
舞踏
(
ぶとう
)
。 踊る危険な
骸骨
(
がいこつ
)
は、鳴り響く音楽に合わせてリズムをとっていた。 時々そいつはなにか話したけども、俺には意味がわからへん。
耳慣
(
みみな
)
れへん外国語やった。 神戸やからな、そんな奴かて
居
(
お
)
るんやろうと、俺はその時には深く考えへんかった。そんな余裕はなかったんや。相手はめちゃくちゃ
手練
(
てだ
)
れやし、やられへんようにするだけで必死やで。
宙
(
ちゅう
)
に舞うみたいな
鮮
(
あざ
)
やかな回し
蹴
(
げ
)
りを、そいつが
繰
(
く
)
り出し、
水煙
(
すいえん
)
はそれを
斬
(
き
)
り捨てた。 骨と切り結ぶ刃が通り抜けるまでの間、
骸骨
(
がいこつ
)
はけたけた笑い、そして
灰
(
はい
)
となって消え失せながら、まだ消え残る骨の手で、俺の
頬
(
ほほ
)
をざっくり
裂
(
さ
)
いていった。 痛え! まじで痛いで。治ると言うても、痛いもんは痛い。
外道
(
げどう
)
になっても、痛みまでは消えてへん。 ううっと
呻
(
うめ
)
いて、俺は血の出た
頬
(
ほほ
)
を押さえた。骨に殴りつけられた
衝撃
(
しょうげき
)
で、頭もさらにクラッと来てた。 音楽うるさい。それに飛び散った俺の血に、残った他の
骸骨
(
がいこつ
)
どもが、目の色変えて踊るのをやめていた。 目はない。もう、暗い
眼窩
(
がんか
)
があるだけで。 俺の血って、
亨
(
とおる
)
は
美味
(
うま
)
いというけども、そんなに
美味
(
うま
)
いもんなんか。踊り狂う
骸骨
(
がいこつ
)
が、踊るのを忘れるほどにか。 やばいと思った瞬間にはもう、十や十五はいる
骸骨
(
がいこつ
)
の姉ちゃんたちが、わっと一気に
殺到
(
さっとう
)
してきた。
勘弁
(
かんべん
)
してくれ、骨だけやないか。肉が付いてればまだしもや。骨にモテても仕方ない。
人魚
(
にんぎょ
)
に続く第二弾、モテても
虚
(
むな
)
しいシリーズや。 んなこと言うてる場合やない。
斬
(
き
)
れ
斬
(
き
)
れと、
水煙
(
すいえん
)
が
景気
(
けいき
)
よく俺に
怒鳴
(
どな
)
った。 甘い甘いと
水煙
(
すいえん
)
は骨を
詰
(
なじ
)
った。ただの死んだ女の
分際
(
ぶんざい
)
で、うちのジュニアの血を
舐
(
な
)
めようなんて、そんな
美味
(
おい
)
しい話があるか。舌もないのに
生意気
(
なまいき
)
やと、ばっさばっさ
斬
(
き
)
った。 もう自分が剣を
振
(
ふ
)
るっているのか、
水煙
(
すいえん
)
が俺を
振
(
ふ
)
るってるのか、あまりの速さで分からへん。 よう動けたなと思う。これも
新開
(
しんかい
)
師匠
(
ししょう
)
の鬼の教えのたまものか。 こう来たらこう動く、こう
斬
(
き
)
ってこう
避
(
よ
)
けるみたいなのが、考えなくても体に
染
(
し
)
み付いている。 もともとそれは、
染
(
し
)
み付いてたんかもしれへん。
餓鬼
(
がき
)
のころに
通
(
かよ
)
った時にも、
師範
(
しはん
)
は俺をびしびしシゴいてた。
生傷
(
なまきず
)
だらけで戻ってくる俺を見て、おかんはよう怒ってたもんやった。 それでも俺は楽しかったんや。たぶん剣道が好きやった。
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椎堂かおる
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