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三都幻妖夜話(3)神戸編 17-11 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
17-11 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
200 / 928
17-11 アキヒコ
無心
(
むしん
)
になって剣を
振
(
ふ
)
るうと、頭がすうっとクリアになって、心が静まりかえる。それでいて熱く燃える。その感覚が気持ちよくて、
癖
(
くせ
)
になりそう。 俺もやジュニアと、
水煙
(
すいえん
)
が舌なめずりする声で俺に教えた。
癖
(
くせ
)
になりそう。 あたかも剣と一体のノリで、俺は高速の
殺陣
(
たて
)
の中にいた。 ああもうひと
突
(
つ
)
きと、
喘
(
あえ
)
ぐがごとくの
水煙
(
すいえん
)
の声がして、俺は飛びつく勢いできた
骸骨
(
がいこつ
)
の、頭のど真ん中を
突
(
つ
)
き
刺
(
さ
)
した。 それは灰となって飛び散って、
水煙
(
すいえん
)
はもう
堪
(
たま
)
らんと言った。 熱く燃えてる。ひさかたぶりで。ぬるい敵やけど、それでも
愛
(
いと
)
しい骨どもや。お前らのおかげでアキちゃんと、また一体になれる。
褒美
(
ほうび
)
に食わんといてやるし、
黄泉
(
よみ
)
に
戻
(
もど
)
って
転生
(
てんせい
)
するがいい。死の
舞踏
(
ぶとう
)
はもうやめや。
諭
(
さと
)
す
水煙
(
すいえん
)
にひるむ様子で、残る
骸骨
(
がいこつ
)
の
群
(
む
)
れは寄り集まって俺を
警戒
(
けいかい
)
していた。
頬
(
ほほ
)
の傷口は、いつの間にやら閉じていた。もう治ってもうたんやろう。血はもう
舐
(
な
)
められへん。どうせ舌もないしな。 それでも
斬
(
き
)
らなあかんのか。 俺は
水煙
(
すいえん
)
に
訊
(
たず
)
ねた。
斬
(
き
)
ってやれジュニアと、
水煙
(
すいえん
)
は俺に命じた。 こいつらは、死の
舞踏
(
ぶとう
)
や。
鯰
(
なまず
)
に
囚
(
とら
)
われ
操
(
あやつ
)
られている
亡者
(
もうじゃ
)
どもや。
斬
(
き
)
られたほうがええねん。そのほうがまた
転生
(
てんせい
)
できる。鬼ではない。ただの死者やと。 死の
舞踏
(
ぶとう
)
。そして
鯰
(
なまず
)
。それはどういう神なんやろ。それこそ
悪魔
(
サタン
)
やないのか。
地震
(
じしん
)
起こして、何の罪もない人々を殺す。やっつけなあかん神や。 気の毒にこの人らは一度死んでる。そしてまた二度までも、俺に
斬
(
き
)
られて死ぬ
羽目
(
はめ
)
になったんやないか。なんの悪さもまだしていない。昔なじみの友達を、連れて行こうとはしたけども、殺していない。まだやってへん。
神楽
(
かぐら
)
さんが助けた。それでも
斬
(
き
)
られなあかんのか。 泣いて
斬
(
き
)
れジュニア、それがお前の仕事やと、
水煙
(
すいえん
)
は言った。 それが
血筋
(
ちすじ
)
の
定
(
さだ
)
めや。お前が止めへんかったら、こいつらはまた現れる。今度こそ
生者
(
せいじゃ
)
を連れていくやろう。
鯰
(
なまず
)
のところへ。
斬
(
き
)
らねば
斬
(
き
)
られる、それが剣の道やで。 お前がお前のおとんから、俺を受け継いだ時から、その道の続きを歩くことに決まってた。
嫌
(
いや
)
なら俺を
捨
(
す
)
てるしかない。 どうするジュニア。
捨
(
す
)
ててもええんやで。そして家からトンズラこいて、どことも知れない地の果てで、俺から逃げて生きていけ。 それは負け犬の一生や。それでもお前が、それで幸せなんやったら、俺は別にかまへんのやで。 戦えと、結局
水煙
(
すいえん
)
はそう話してた。剣を
捨
(
す
)
てたら負け犬で、お前はその一生から永遠に
逃
(
のが
)
れられへん。死なれへんのやから。永遠に逃げ続けることになる。 そんな一生、
嫌
(
いや
)
やろう、
堪
(
たま
)
らんやろと、
水煙
(
すいえん
)
は俺を
誘
(
さそ
)
う声やった。 こいつは結局、剣やねん。それは、ものを
斬
(
き
)
る道具や。それと愛し合ったら、
斬
(
き
)
り続けるしかない。
斬
(
き
)
って
斬
(
き
)
って
斬
(
き
)
りまくるしかないやんか。こいつはそれが好きなんやから。それ以外では燃えへんのやから。 俺も結局、それが好きやねん。逃げようという気は、全然してへんかった。 俺にとっては、
秋津
(
あきつ
)
の家が世界の全て。そういうふうに生きてきた。 そこから
逃
(
のが
)
れようとしても、結局それを愛してる。そんな自分の心から、どうやって逃げ隠れできるやろ。
呪
(
のろ
)
われた血や。でもしょうがない。それが
血筋
(
ちすじ
)
の
定
(
さだ
)
めや。 俺は剣を
構
(
かま
)
えて、逃げまどう
骸骨
(
がいこつ
)
をひとつひとつ
斬
(
き
)
り捨てた。 音楽はガンガン鳴っていた。
踊
(
おど
)
るようなリズムに
揺
(
ゆ
)
れて、人でなしのDJが
盤上
(
ばんじょう
)
を
操作
(
そうさ
)
する指を走らせていた。 その声が俺を
褒
(
ほ
)
めていた。まるで鬼やと。まるで人でなしの鬼。最高にイケてると。 俺はその
囃
(
はや
)
す声に、最高にむかついていた。
吐
(
は
)
きそう。これって
船酔
(
ふなよ
)
い? それともあの男が最高に
胸糞
(
むなくそ
)
悪いだけか。 最後の
骸骨
(
がいこつ
)
は、そいつに助けを求めるように、俺に追われてDJブースに逃げた。でかいデスクみたいにも見える、その機械に
縋
(
すが
)
り付く骨を、俺は背中から
斬
(
き
)
った。
手応
(
てごた
)
えらしい
手応
(
てごた
)
えはない。灰のように散る。
塵
(
ちり
)
の
塊
(
かたまり
)
に
斬
(
き
)
りつけたみたいに、
切
(
き
)
っ
先
(
さき
)
はあっけなく通り過ぎ、DJブースにも
突
(
つ
)
き
刺
(
さ
)
さった。 しかしそれにも
手応
(
てごた
)
えはない。
水煙
(
すいえん
)
は
霊
(
れい
)
しか
斬
(
き
)
れない剣や。
隣
(
となり
)
の
位相
(
いそう
)
に
居
(
お
)
ると言うてた。せやから
斬
(
き
)
れるのは骨と、そしてDJブースに居た人でなしだけ。 剣の
薙
(
な
)
ぐ風が、男の白い鼻筋に吹き付けたようやった。目を見開いた顔で、
湊川
(
みなとがわ
)
はにやりとした。その
風刃
(
ふうじん
)
に小さく
額
(
ひたい
)
が
裂
(
さ
)
けて、たらりと赤い血が
一滴
(
いってき
)
、その整った
鼻梁
(
びりょう
)
を流れ落ちた。 その自分の血を、男は舌を出してぺろりと
舐
(
な
)
めた。じっと俺を見ながら。
酷薄
(
こくはく
)
そうな顔やった。人が死んでも、骨が死んでも、自分が死んでもかまへんみたいな。 「お
見事
(
みごと
)
、先生。幸せな骨や。一度ならず二度までも、
踊
(
おど
)
りながら死んだ」 手に持っていた
煙草
(
たばこ
)
を
銜
(
くわ
)
えて吹かし、男は小さく
踊
(
おど
)
るように
身悶
(
みもだ
)
えた。そして
裂
(
さ
)
けた
額
(
ひたい
)
を
煙草
(
たばこ
)
を
挟
(
はさ
)
んだ指で
撫
(
な
)
で上げた。 それだけで、傷は消えていた。こいつは人やない。 「先生の、
式
(
しき
)
になろうかな。少々
痺
(
しび
)
れたわ」 こっちを
眺
(
なが
)
め、目を
眇
(
すが
)
めて笑う男の顔を、俺はじっと見つめ返した。
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椎堂かおる
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