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三都幻妖夜話(3)神戸編 17-12 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
17-12 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
201 / 928
17-12 アキヒコ
美貌
(
びぼう
)
というならそうかもしれへん。
虎
(
とら
)
かて顔はいい。こいつも針のようやけど、
鋭
(
するど
)
い
美貌
(
びぼう
)
をしてた。力のある
式神
(
しきがみ
)
は、たぶん皆、その力に見合う美しい姿をしてるんやろう。
湊川
(
みなとがわ
)
は
長髪
(
ちょうはつ
)
の男やった。細い茶色の髪を肩の辺りまで伸ばしてて、耳にはピアス。白シャツに、ビンテージっぽいジーンズ。手首と指にも銀をじゃらじゃら帯びている。 それも
髑髏
(
どくろ
)
のモチーフやった。
虎
(
とら
)
の
信太
(
しんた
)
が確かこれと、同じ物をしてた。 あいつには好みなんやろ。こういうのが。鳥さんも髪長い。あんなふうにナヨくもアホそうでもないが、静かな
美貌
(
びぼう
)
や、
品
(
ひん
)
もあるし、頭も良さそう。 しかしこいつは、俺の好みではない。ストライクゾーンを
外
(
はず
)
してる。 人の死を、笑って
眺
(
なが
)
める奴は、俺は嫌いや。 「
要
(
い
)
らん、うちはもう、定員オーバーや」 俺が
拒
(
こば
)
むと、男はにやりと、また目を細めた。 「そうです? あと一人くらいいけるやろ。あの
蛇
(
へび
)
ちゃんと、その
刀
(
かたな
)
と、それだけなんやろ。まさか神父も
飼
(
こ
)
うてんの?」 「
飼
(
こ
)
うてへん。人を
飼
(
か
)
えるわけないやろ」
淫靡
(
いんび
)
に言われた想像にむかついて、俺は
唸
(
うな
)
るような口調で言った。 「そうやろか……」 薄く笑って、
湊川
(
みなとがわ
)
は同意はせんかった。 「
飼
(
こ
)
うてる
奴
(
やつ
)
もいますよ。この世の中、なんでもありや。なんでもあり。欲にかられて鬼ばっかりや。それが
面白
(
おもしろ
)
うて、メディアのばらまく
他人
(
ひと
)
の不幸に
釘付
(
くぎづ
)
けなってる鬼もおるでしょう。なんで先生が鬼やったらあかんの。やりたいようにやったらええやん。抱きたい
奴
(
やつ
)
は抱いたらええやん。
蛇
(
へび
)
もええけど、神父も
美味
(
うま
)
そう、鳥もええなあって、そんな感じでしょ?」 笑って
踊
(
おど
)
りながら、
湊川
(
みなとがわ
)
は俺に話した。 ものすごい音量で流れる曲のまっただ中やのに、こいつの声はクリアに聞こえる。たぶん普通の声ではないんやろ。 「
信太
(
しんた
)
が言うてた。先生、
寛太
(
かんた
)
に気があるって。
困
(
こま
)
ったなあって。ええやん別に、何も
困
(
こま
)
ることない。
一晩
(
ひとばん
)
貸してやればええやん。前は誰にでも貸してたで。三人でやったこともある。それが何で急に
嫌
(
いや
)
やねん。鳥さんラブラブ、イカレてもうてな、頭おかしい」 何がおかしいんや。あいつは鳥さんに
惚
(
ほ
)
れてるだけやろ。そんな相手を誰にでも貸す奴
居
(
お
)
るか。俺なら
発狂
(
はっきょう
)
するわ。 「おかしいのはお前の頭や」 俺は
湊川
(
みなとがわ
)
の目を見て教えた。 何でかな、ほんまにイカレてる
奴
(
やつ
)
には見えへん。どっちつかずで迷ってる。
闇
(
やみ
)
に
堕
(
お
)
ちるか、光の中に出てくるか。 手を引いて、正しいほうに連れていけば、鬼にはならへん。
悪魔
(
サタン
)
にも。 きっと美しい神になるやろって、そんな気のする
奴
(
やつ
)
やねん。 「そうかなあ、先生。
乱交
(
らんこう
)
します? ええよう、気持ちいい。
誰彼
(
だれかれ
)
かまわずやりまくり。抱くもよし、抱かれるもよし、俺は両方いけますし、何やったら両方同時でも」 けらけら笑う
酔
(
よ
)
うたような目で、
湊川
(
みなとがわ
)
は俺を
誘
(
さそ
)
った。
上品
(
じょうひん
)
そうな声なんやけど、言うてることは
品
(
ひん
)
がない。どっちやねんお前は。 「しいひん、そんなの。音楽止めろ。めちゃめちゃうるさい。
怪我人
(
けがにん
)
連れ出してやらなあかん」
銜
(
くわ
)
え
煙草
(
たばこ
)
で
踊
(
おど
)
りつつ、
湊川
(
みなとがわ
)
は面白そうに首を
振
(
ふ
)
り、そして
盤上
(
ばんじょう
)
にあったバドワイザーを
瓶
(
びん
)
から飲んだ。
煙草
(
たばこ
)
を
挟
(
はさ
)
んだ指で持つ茶色のボトルに、窓から
射
(
さ
)
し始めた港の
鋭
(
するど
)
い夏の
陽
(
ひ
)
が、まばゆく
透
(
す
)
けて、俺は例の暗黒の
霧
(
きり
)
が晴れ始めていることを
悟
(
さと
)
った。 「もう、いない。
怪我人
(
けがにん
)
は。
神父様
(
ファーザー
)
が治した。あれも
美味
(
うま
)
そうな血やな。逆さに
吊
(
つる
)
して全部
絞
(
しぼ
)
りたい」 流し目に、
床
(
ゆか
)
に座って泣く花嫁を
膝
(
ひざ
)
に
縋
(
すが
)
らせて
宥
(
なだ
)
めてる
神楽
(
かぐら
)
さんを見て、
湊川
(
みなとがわ
)
は
物欲
(
ものほ
)
しそうに言うた。 「お前も鬼なら
斬
(
き
)
っていこうか?」 俺はちょっと本気で
訊
(
き
)
いていた。
湊川
(
みなとがわ
)
はそれに、
可笑
(
おか
)
しそうに笑った。 「俺は鬼やないですよ。
KISS
(
キス
)
FM
(
エフエム
)
のDJのお兄さんやで? 今日かて船上結婚式の取材で来たんやもん。皆、俺のことは人間やと思うてる。いきなり消えたらびっくりしますよ」
盤上
(
ばんじょう
)
に指をやり、まだ何か操作しようとする男にキレてきて、俺は
怒鳴
(
どな
)
った。 「音楽止めろ!」 それだけで、音は止まった。何も
触
(
さわ
)
らへんのに、ぴたりと無音が始まって、急にしいんとした船室の中に、人の
息遣
(
いきづか
)
いや、すすり泣く声のする
静寂
(
せいじゃく
)
が立ちこめた。
湊川
(
みなとがわ
)
はそれに小さく
口笛
(
くちぶえ
)
を吹き、探すと
亨
(
とおる
)
は離れた壁に背をもたれさせ、退屈そうな
渋面
(
じゅうめん
)
のまま
腕組
(
うでぐ
)
みをしてた。 結婚式のために着飾っていた人たちは泣いていた。まるで
葬式
(
そうしき
)
みたいに。 色とりどりの衣装は、
踊
(
おど
)
るための服かもしれへん。今時もうボディコンでもないんやろけど、ダンス用の服やと思えた。 ひらひらのスカート。キラキラのラメにスパンコール。ダンスフロアの照明に
照
(
て
)
り
映
(
は
)
える、そんな衣装や。 楽しく
踊
(
おど
)
って、二十年遅れの結婚を祝おうって、そんな集まりやったんやろ。 俺はその
派手
(
はで
)
な服の人らの
趣向
(
しゅこう
)
がなにか、その時になってやっと、DJ
湊川
(
みなとがわ
)
の口から聞いた。 この人ら、
震災
(
しんさい
)
の生き残りのダンサーどもや。死に
損
(
ぞこ
)
ないの友達を骨が
迎
(
むか
)
えに来た。 それでも死にたくないとこの人らは言う。なんで死んだらあかんのや。 助けてくれって逃げるんで、とりあえず助けたけども、なんで俺は助けたんやろ。 なんでもうババアになってんのに、結婚なんかするんやろ。 愛してるって何。愛とは何か、俺にはまだ分からへん。先生、教えてくれへんか。
湊川
(
みなとがわ
)
はその話を俺だけに聞こえる
周波数
(
チャンネル
)
で話したと思う。
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椎堂かおる
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