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三都幻妖夜話(3)神戸編 17-17 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
17-17 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
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206 / 928
17-17 アキヒコ
師範
(
しはん
)
はたぶん、仕事で来たんやで。 そのついでにというか、自分も行きたいとせがまれて、
小夜子
(
さよこ
)
さんを連れてきてもうたんやろか。 そうやない。
師範
(
しはん
)
は奥さんを愛してた。 これは会員特典というやつや。ヴィラ
北野
(
きたの
)
は
霊振会
(
れいしんかい
)
に貸し切られていた。
来
(
きた
)
る四日後の
鯰
(
なまず
)
出現に備え、会の偉いさんたちは、ホテルに一種の
結界
(
けっかい
)
を張っていた。大地震に襲われても、この
大本営
(
だいほんえい
)
が無事に生き残り、その機能を果たせるように。 そのためにここに
巫覡
(
ふげき
)
と
式神
(
しきがみ
)
を集めたんや。
結界
(
けっかい
)
張れる能力のある
奴
(
やつ
)
らは、自分の身に被害が
及
(
およ
)
びそうになると、無意識にしろ意識的にしろ、それを
避
(
さ
)
けようと防御用の
結界
(
けっかい
)
を張るもんらしい。 そやから、そんな
奴
(
やつ
)
らをここに
泊
(
と
)
まらせておくことで、突然襲ってきた地震にも、とっさの
防御網
(
ぼうぎょもう
)
を張ることができる。 それが俺が最上階のど真ん中の部屋に
泊
(
と
)
められている理由やったんや。 会長・
大崎
(
おおさき
)
茂
(
しげる
)
は読んでいた。俺はあの
秋津
(
あきつ
)
暁彦
(
あきひこ
)
と、
登与姫
(
とよひめ
)
さまの間にできた子や。きっと、えげつないほどの力を秘めている。 火事場の馬鹿力で、アホみたいな力を出すかもしれへん。そうでなくても
駄目
(
だめ
)
もとやと。 そんなホテルは、神戸に
居
(
お
)
るなら一番の
安全圏
(
あんぜんけん
)
やった。
新開
(
しんかい
)
師匠は秘密にしてたんや。自分の
血筋
(
ちすじ
)
の持つ力とか、普通ではない自分のことを。 せやから
小夜子
(
さよこ
)
さんには、どうしても言われへんかった。あと四日したら大地震が起きるから、どこか安全なところへ逃げろって。 それでやむなく連れてきた。ヴィラ
北野
(
きたの
)
、
泊
(
と
)
まってみたいわあっていう、お
嬢
(
じょう
)
さんみたいな奥さんを、
嬉
(
うれ
)
しいわあっていう気分のまま、何も説明せんと連れてきてたんや。 それを
意気地
(
いくじ
)
がないと、俺は責めへん。 俺もそうしたかもしれへん。どっかの剣道の大会に出て、そこで自分に
惚
(
ほ
)
れてくれた、何の力もない
鈍
(
にぶ
)
くて可愛い普通の女の子と結婚してたらな。 知られたくない。今時の世やのに、俺には
血筋
(
ちすじ
)
の
定
(
さだ
)
めがあるんや。鬼と戦う義務がある。そのための神剣を受け継いでいるやなんて。言うに言われへんよ、普通でなさすぎ。 「
本間
(
ほんま
)
君と
亨
(
とおる
)
ちゃんもここに
泊
(
と
)
まってるの? なら今晩、いっしょに
晩御飯
(
ばんごはん
)
食べましょうね」 にこにこ
嬉
(
うれ
)
しそうに、
小夜子
(
さよこ
)
さんは俺らを
誘
(
さそ
)
ってくれた。 「若い人らの
邪魔
(
じゃま
)
したらあかんで、
小夜子
(
さよこ
)
。若いモンどうし遊ぶほうが楽しいんやから」 訳知り顔の苦笑で止めて、
新開
(
しんかい
)
師匠は部屋に案内しようというホテルの人についていくよう、
小夜子
(
さよこ
)
さんに手招きをした。 師匠はもちろん知っていたやろ。俺と
亨
(
とおる
)
がどういう
間柄
(
あいだがら
)
やったか。
亨
(
とおる
)
が人ではないことも。そしてロビーにたむろする顔の
綺麗
(
きれい
)
な連中がみんな、人ではないことも。 三人そっくり同じ顔した、長い長い巻き毛の黒髪をした女を
侍
(
はべ
)
らせて、ロビーのソファに腰掛けている
白髪
(
はくはつ
)
の老人が、タイトな真っ黒いパンツスーツに身を包んだ女たちの、乳バーンみたいな露出度大の胸元を
擦
(
す
)
り寄せられて、何かをしきりに
強請
(
ねだ
)
られているのを見て、
小夜子
(
さよこ
)
さんは目が点になっていた。 女たちの息ははあはあ荒かった。たぶん血が欲しいんやろ。あの
爺
(
じい
)
さんが三人相手に頑張れると思えへん。 それとも頑張れるのか。それはそれで
異界
(
いかい
)
や。三つ子のセクシーダイナマイツとジジイ。想像するだに目の毒や。 それだけやったらまだええよ。 よりによって
小夜子
(
さよこ
)
さんは、その
隣
(
となり
)
のソファで
虎
(
とら
)
とめちゃめちゃキスしてる
湊川
(
みなとがわ
)
怜司
(
れいじ
)
を見てもうて、もともと点やった目が、さらに宇宙の彼方ぐらいに遠くなり、
敷
(
し
)
かれた赤い
絨毯
(
じゅうたん
)
にけつまずきながらエレベーターホールに消えた。 なんで
居
(
お
)
るねん、ここに。しかもなんでキスしてんねん、
虎
(
とら
)
。DJのお兄さんと。 しかも
隣
(
となり
)
に鳥さん
侍
(
はべ
)
らせて。鳥さん、ぽかーんみたいな顔で見てるやないか。 さらに言うなら、
虎
(
とら
)
はその鳥さんと手を
繋
(
つな
)
いでた。赤いのと薄茶のと、左右に
侍
(
はべ
)
らす
虎
(
とら
)
さんやった。 俺はそれに、開いた口が
塞
(
ふさ
)
がらん。人のこと言えた義理ではないかもしれへんけど、そんなことしてええんかお前。 あかんやろ、いくら鳥さんがぽかんと見るだけで怒らんとしても、立場が逆やったらお前はどういう気がするねん。 しかしそれは、
奴
(
やつ
)
らの感覚では
浮気
(
うわき
)
には
含
(
ふく
)
まれないらしい。うちでは
吸血
(
きゅうけつ
)
が
浮気
(
うわき
)
に含まれないという合意が、なし
崩
(
くず
)
しに成立していたように、
虎
(
とら
)
にとってキスは性行為ではない。
給餌
(
きゅうじ
)
や。エサ。飯食わせてるようなもんらしい。
信太
(
しんた
)
は口移しに何か
精気
(
せいき
)
の
塊
(
かたまり
)
というか、
飴
(
あめ
)
か
水飴
(
みずあめ
)
みたいなもんを与えてやれるらしい。 鳥が
雛
(
ひな
)
にエサやる時に、とってきた食いモンを吐き戻して食わせるみたいなもん。
虎
(
とら
)
は神やと祈る人々から吸い上げた、まさに
虎
(
とら
)
並みのお力を、
信太
(
しんた
)
は仲間に分け与えてやっていた。 そうやって赤い鳥も育てた。欲しい言うたら、それが
湊川
(
みなとがわ
)
怜司
(
れいじ
)
でも、しゃあないなあってくれてやる。それが目当てで
奴
(
やつ
)
は
信太
(
しんた
)
と付き合っていた。 そやから、しょうがない。
式
(
しき
)
が
懐
(
なつ
)
くのは、エサが見当てや。通常、それ以外に理由はない。 見なかったことにしよう。俺はそう思って目を
逸
(
そ
)
らそうとした。
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椎堂かおる
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