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18-5 トオル
二十一年、怠 けに怠 けたアキちゃんと違 うて、竜太郎 は予知 をする覡 として、英才教育されていた。せやから中一とはいえ、力量的 にはもう一人前に開花 してたんや。
中一言うたら昔なら、もう元服 をして大人になる歳 やねん。
秋津 の皆さんはそういうもんらしいで。十二歳ぐらいまでに能力が発露 してなかったら、そいつはぼんくらや。
せやからアキちゃんは、ぼんくらの坊 やと陰口 きかれてたんやんか。可哀想 やけど、実際そうやったわけやから、言われてもしゃあないなあ。ぼんくら、ぼんくら。まさにそれです。
「神剣 があったら、竜太郎 はその殻 を破 れるんか」
腕組 みしたまま、大崎 茂 は眼光 鋭 く蔦子 さんを見て言うた。
「やってのけると思います。親馬鹿 で言う訳 やないけど、あの子はうちより力が強い。父方の血が、神人 の流れを汲 んでいるんどす。龍 の血や。そやから、うちより上手に時空 を泳ぐ……」
水なん、時間て。泳ぐもんなの。知らんかった。
そういや時は流れるもんやしな、日本語では。水なんかもしれへんわ。この秋津島 ではな。
俺はそっち方面、さっぱり疎 いのよ。亨 ちゃん、過去は振り返らん主義やし、先のこともくよくよ考えたりせえへんのよ。藤堂 さんやないけど、なるようになるさ と思っちゃう性格やねん。
それでヤバい方向行ったりするわけやけど、そんな性格やなかったら、アキちゃんとデキたりせえへんよ。どうなるか分かってたら、怖くて飛び込まれへんかった。アキちゃんと生きる一生なんかには。後先考えへんからええんやろ、恋は。
しかし時が流れるもんならば、それは水の一種や。秋津 家の皆さんの十八番 。
秋津 は水と縁 のある鬼道 のお家柄 。水と言えば蛇 、そして龍 、あるいは半人 半龍 の怖い怖い怪物、水煙 様や。
こいつが秋津 の守り神。というか、どうもこいつが秋津 の血筋を興 した張本人 やないかと俺は思うんや。
代々の当主 は、神剣・水煙 を家督 の証 として受け継 いできた。水煙 が認めへんかったら当主になられへん。それは実質、こいつが家長やということや。
ご乱行 には定評 があったらしいアキちゃんのおとんも、水煙 と相性 悪いからというだけの理由で、信太 のツレの茶髪 の式 を放逐 していた。水煙 が、こいつは要 らんと言えば家を出される。たぶん、そういう世界なんやで。
おとん大明神 は自分自身死んでもうて、この世の肉体をロストした身でありながら、他の式神 は全部戦 で消耗 させたというのに、水煙 だけは連れて帰ってきた。
それが家督 を継 ぐのに必要やから、可愛いジュニアが困 るやろという事なんやろうけども、たぶん秋津 の家を守るということは、水煙 を守ることと同義 なんや。
この古い神は、秋津 の血族 に捕 らえられているやのうて、自分がその血筋に連なるものを隷属 させている。
ある種、俺と同じや。アキちゃんに、支配されるだけでは飽 きたらず、アキちゃんを支配しようとする。そして崇 めてもろて、気持ちよう過 ごせたら、それでええわという、そんな神さんやで。
水煙 兄さん、キリスト教の神さんよりもキャリアは上やみたいな事をほざいてたけど、それがほんまやったとしたら、こいつがもし本気の本気を出して気張 れば、でかい宗教起こせてたんやないか。
なんで気張 らへんかったん、水煙 兄さん。ごっつ美味 しいことになってたかもしれへんのに。
ヴァチカン見てみ、キンキラキンやで。今でこそ、あれで地味 になったほうやけど、最盛期 なんか見てみ、金銀財宝でキラッキラやったで。うなるほど金と権力を集めてた。
今の秋津 も大概 金持ってるみたいやけどな、そんなんヴァチカンの至宝 と比べたら、どうせ個人資産の世界やないか。水煙 様の頑張 りしだいで、世が世なら、アキちゃんもローマ教皇 みたいになれてたかもしれへんのになあ。
そのキンキラの玉座 に座 す膝 に、俺が甘えて座っとったら邪教 やろうか。
ええやん別に、蛇神 様やで。どうせ蛇 の宗教やんか。水煙 かて半分蛇 みたいなもんなんやしさ。その神官が蛇 と仲良うしてたかて、誰も文句言うわけあらへん。むしろ有 り難 いくらい。
ステキ。そんなんやったらええのに。
俺も小夜子 ポーズで妄想 したい。ヴァチカンなみの大宮殿 の、金とルビーの天蓋 ベッドで、アキちゃんと心ゆくまで組んずほぐれつ。
いいよう、ゴージャスだよ。金貨 がうんうん唸 ってる声が聞こえるようだよ。
目指 そうか、そういうの。目指 す? 目指 さへん?
アキちゃん、絵描きになりたいだけ? 教祖 やのうて?
無欲やからなあ。性欲と物欲はムンムンあっても、権力欲とか名誉欲の薄い男やからあかんねん。ぼんくらや、うちのジュニアは。ぼんくら、ぼんくら。
俺が真顔でそんな空想に浸 る間にも、話はガンガン進んでいた。
アキちゃんは渋々 やけど、水煙 を竜太郎 に貸してやることにしたようや。
何というても有事 やからな。それに三都 の命運 がかかっていると言われてもうたら、水煙 は俺の剣やしなんて、餓鬼 くさい我 が儘 も言うに言われへん。
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