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19-15 アキヒコ
ラジオで聞いた話の、震災 で妻子を失った男も、十年目にして立ち直り、新しい彼女と結婚しようとした。
徹夜 の婚前 ダンスパーティーで地震に揺 られ、友達の半分以上を失った呪 われたカップルも、とうとう船上結婚式やった。
俺のおとんも、戦後七十有余年 にして、実は居ましたと、俺とおかんにカミングアウトした。
邪悪 な小悪魔・神楽 遥 ちゃんも、とうとう己 の邪悪 さを認 めて、めちゃめちゃ中西 さんといちゃついている。
そやから虎 かて新しい恋もする。今度は幸せになれそうやった。
不覚 にも恋のキューピッドさんやった、うちの水地 亨 のお陰様 でや。今度こそハッピーエンドのコース。
ところがそれが、デッドエンドとは。虎 は嘆 くというより、皮肉 なもんやと苦笑の顔でいた。
「どしたん兄貴 、なんで起きたん」
寝ぼけたような声がして、頭ぐちゃぐちゃの赤毛が信太 の背後から顔を出した。
寝ぼけたような顔やった。それに頭からすっぽり、ハロウィンのお化けの仮装 みたいに、はがしたシーツをかぶってる。
でも敢 えて空想するまでもなく、その下になんも着てへんことは、一見 して分かった。
分からんかったら良かった。朝から嫌 なもん見てもうた。俺まで邪悪 になったらどうすんねん。
めっちゃ美しい肌 やった。言うたらあかんから以降は省略 。
見ない見ないと顔を背 けて、苦虫 かみつぶしてる俺をよそに、虎 は焦 ったような声やった。
「おいおい、なにを朝から大サービスしとうのや、寛太 。せめて服着てこい。襲 われたらどうすんねん」
「誰が襲 うんや、この状況 で……」
亨 が一応ちょっと訊 きたいという口調で訊 いていた。
「いやいや、亨 ちゃん、わからんで? 世の中、危ない奴 ばっかりや。それにこのホテル、外道 か巫覡 かしか居 らんのやで? ぼやっとしてたら連れてかれてまうかもしれへんで?」
「式攫 いか」
真面目 に言うてるらしい虎 に、亨 は至 って真面目 に答えてやっていた。
「そうそう。式攫 い。もしくは神隠 し。寛太 アホやから、誰にでもついていくしな。飴玉 やろかとか、そんな手口 でも普通にひっかかるんやで」
「お前はどこまでアホやねん、鳥さん」
罵 るというより本気で心配してるみたいな口調になって、亨 はにこにこしているシーツのお化けを哀 れむ目で見た。
「だってそんな悪いことする奴 おると思わへんねんもん」
いかにも頭にお花畑みたいな、癒 やされる感じの脱 けた笑顔で、不死鳥 は答えた。
俺、不死鳥 ってもっと、賢 い鳥なんやと思うてた。何となくのイメージやけど。亨 に読まされた手塚治虫 の漫画 『火の鳥』では、不死鳥 ってもっとインテリ系っぽかったで。
せやのに鳥さんは、どう見てもアホというか、まるで子供みたいや。車運転したり、竜太郎 に言われて携帯 で株 売ったりできんのやから、ほんまのアホではないんやろ。
氷雪系 が言うように、考えようという意欲がないだけで、知能はあるのかもしれへん。
でもそれが、全く滲 み出てない。力はあるけど、それを振 るってる時がない。あたかも本家 のぼんくらの坊 みたいに。
そう思うと何や可哀想 なってきて、俺は同病相憐 れむ気持ちになった。
こいつ、ほんまに神の鳥なんやろか。ただの鳥なんと違うんか。
そやけど何事も信心 や。まずは形だけでも不死鳥 っぽくしてやったら、何とかいい方向へ転がり始めるかもしれへん。
たとえ、ほんまはただの鳥でも、嘘 から出た真 や。昔の人も言うてはるやろ。鰯 の頭も信心 からって。
嘘 でもハッタリでも使 うて、こいつ不死鳥 やって皆が信じてくれるようになれば、それが、ほんまの力になるかもしれへん。
「あのな、寛太 。本間 先生がお前のために不死鳥 の絵描いてくれるらしいわ。そんな格好 してへんと、ちゃんと服着て髪の毛とかしとけ。先生かてお暇 やないんやからな」
くどくど世話 焼く口調になって、信太 は相方 を部屋の中に戻らせようとしていた。
たぶん鳥のセミヌードを見られたくないんやろ。ケチなやつや。その気持ちは良う分かる。
せやのに鳥は分かってへんみたいやった。
「亨 ちゃん、先生とどっか行くんか。デート?」
にこにこして赤毛の鳥は、戸口にもたれる信太 の肩に細面 の顎 を擦 り寄せ、亨 に世間話 を仕掛 けてた。
「絵の道具買いに行くんや。どっかに画材屋あるか探さなあかん。お前もチラシの裏 に描かれたくはないやろ?」
難しい顔をして、亨 は教えてやっていた。
お前のために貴重 な時間を割 いてやんのやから、感謝 しろというふうな口調に聞こえた。
「チラシの裏 でも、別にええけど。絵の道具やったら、三ノ宮 にあんで。東急ハンズが。前に竜太郎 が、絵が下手なんは道具が悪いんやってブチキレてな、蔦子 さんの言いつけで、俺がいちばん高いやつ買いにいったもん。それでも絵、下手 なままやったんやけどな。可哀想 やなあ、竜太郎 。世間 には金で買えへんもんがいっぱいあるなあ」
まさかすぐ隣 で、そのキレた竜太郎 が命がけで未来を視 てるとは知らんのやろうか。
鳥さんは情 け容赦 なく暴露 していた。
しみじみ言うてる鳥さんは、どこか悟 ってるようにも見え、アホなんか賢 いんか謎 やった。
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