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三都幻妖夜話(3)神戸編 19-18 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
19-18 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
255 / 928
19-18 アキヒコ
嫉妬
(
しっと
)
を
覚
(
おぼ
)
える。 それは
悪心
(
あくしん
)
や。そやけど人には当たり前にある。 愛してるから
妬
(
や
)
けるんやで。
独占
(
どくせん
)
したいと思うのは、愛してるからやねん。
信太
(
しんた
)
は鳥が変になってると話してた。でも俺は、そうは思わへん。
寛太
(
かんた
)
はだんだん普通になってきてたんや。 赤ん坊みたいに
無垢
(
むく
)
で、なんも考えてへん
鳥頭
(
とりあたま
)
。ぼけっとしていて
欲
(
よく
)
がない。そんな
穢
(
けが
)
れ無き
不死鳥
(
ふしちょう
)
やったのに、
寛太
(
かんた
)
は
穢
(
けが
)
れた。 なんでか。それはこの
時点
(
じてん
)
では、誰にも分かってへんかった。そんなん
追求
(
ついきゅう
)
してるような
状況
(
じょうきょう
)
やなかった。 そやけどこの話を皆に語って聞かせている今、俺はその答えを知っている。
亨
(
とおる
)
のせいやねん。
邪悪
(
じゃあく
)
な
蛇
(
へび
)
が、
禁断
(
きんだん
)
の食いモンを鳥さんにすすめた。 鳥はそれをすすめられるまま
素直
(
すなお
)
に食った。 イタリアン・レストランで食うた、メロン味のジェラートや。 俺も知らんかった。ジェラートなんか作ったことない。 ティラミスやったら作ったことあったんやけどなあと、
亨
(
とおる
)
も言うてた。 ジェラートは担当外で、
習
(
なら
)
ったことないと。ただの
凍
(
こお
)
ったメロンジュースやと思ってた。 まさかあれに
卵
(
たまご
)
が入ってたなんて。
肉気
(
にくけ
)
のもんや。
無精卵
(
むせいらん
)
やろうけど。それでもあかんのか。 牛乳があかんて言うんやったら、あかんのかなあ。 とにかく鳥さんはそれで、うっかり
穢
(
けが
)
れてもうてたらしいわ。
若干
(
じゃっかん
)
、
悪魔
(
サタン
)
方向に
推移
(
すいい
)
していた。 それでも、元々からして、あんなふうな、ぽわんと
有
(
あ
)
り
難
(
がた
)
い神か仏みたいな
奴
(
やつ
)
やから、
邪悪
(
じゃあく
)
やいうても
神楽
(
かぐら
)
さんの百分の一くらい?
亨
(
とおる
)
の一万分の一くらい?
詳
(
くわ
)
しい数字は
解明
(
かいめい
)
できてないが。
寛太
(
かんた
)
はこの朝、生まれて初めて
嫉妬
(
しっと
)
を
覚
(
おぼ
)
えた。 たぶん昔、まだ自分がいない世界で、
睦
(
むつ
)
み
合
(
あ
)
ったらしい
虎
(
とら
)
と、
湊川
(
みなとがわ
)
怜司
(
れいじ
)
の
不透明
(
ふとうめい
)
な関係に。
未
(
いま
)
だに同じ指輪して、それを
外
(
はず
)
してへん関係のことを。 それは普通や。鳥さんが
我慢
(
がまん
)
しづらいというのも。
水煙
(
すいえん
)
が、
鬼畜
(
きちく
)
な俺からしばらく離れていたいと思うのも。 それはもう、
仕方
(
しかた
)
がない。でも
水煙
(
すいえん
)
はちゃんと、俺の所に戻ってくる。そういう気がする。 おとんが死ぬ時、
水煙
(
すいえん
)
はおとんと共に深い海の底に
沈
(
しず
)
んだ。俺が
予言
(
よげん
)
のとおり、
水底
(
みなぞこ
)
での死を
迎
(
むか
)
えることがあったら、その時
水煙
(
すいえん
)
はまた、共に
沈
(
しず
)
んでくれるやろうか。 俺は自分の
跡取
(
あとと
)
りを、残してへん。子供いてへん。自分もまだ子供やのに、いるわけない。
竜太郎
(
りゅうたろう
)
は、力はあっても
傍流
(
ぼうりゅう
)
や。
秋津
(
あきつ
)
の家は
実質的
(
じっしつてき
)
に、俺の
代
(
だい
)
で
滅
(
ほろ
)
びるんやないか。 もしもそうなら
水煙
(
すいえん
)
は、俺が死んでもずっと、俺の
太刀
(
たち
)
のままでいてくれるんやろか。 それともお前は、俺を捨てて、
竜太郎
(
りゅうたろう
)
のものになることにするか。 それがお前の
定
(
さだ
)
めやもんな。ずうっと昔から、ずうっとそうしてきたんやろ。 そうして
不実
(
ふじつ
)
に次々と、前のから今のへ、心変わりを
繰
(
く
)
り返してきた。 アキちゃん好きやと、お前はおとんに
囁
(
ささや
)
いたんやろ。そして、おとんに抱かれたか。熱く暗い
闇
(
やみ
)
の
蠢
(
うごめ
)
く、
夢
(
ゆめ
)
に
時折
(
ときおり
)
現れてくる、あの
異界
(
いかい
)
で。 俺はそれを
時折
(
ときおり
)
ふと想像して、ものすごく
妬
(
や
)
けるんや。
寛太
(
かんた
)
と同じ。今さらやのに。もう、とっくの昔に過ぎ去った、俺が生まれるより前のことやのにな。 俺が夢に立ち現れたら、抱いてくれるかジュニアと、
水煙
(
すいえん
)
が俺に
訊
(
き
)
いた。
寝床
(
ねどこ
)
で
蛇
(
へび
)
を抱くような、そういうものとは違うかもしれへんけども、熱く深く
交
(
まじ
)
わって、
震
(
ふる
)
いつくような
心地
(
ここち
)
にはなれる。 お前にはそれだけやと、
物足
(
ものた
)
りないかもしれへん。 それでも
蛇
(
へび
)
のおらへん夢の
時空
(
じくう
)
でやったら、俺にも言うてくれるか。
水煙
(
すいえん
)
、お前が好きでたまらへんと。 さあ。どうやろ。ほんまの話、俺は
滅多
(
めった
)
に夢は見いひん。
憶
(
おぼ
)
えてへんねん。 ぐっすり死んだみたいに
眠
(
ねむ
)
って、夢は見いひんようにしてる。子供のころからの、おかんの
躾
(
しつけ
)
やねん。 夢やら見んと、朝までぐっすりお休みやすって、おかんが俺に
暗示
(
あんじ
)
をかけた。そやから俺は、夢はほとんど見た
覚
(
おぼ
)
えがない。 記憶に残ってへん夢ん中で、俺が
水煙
(
すいえん
)
と
逢
(
お
)
うたか、それは知らん。だって
憶
(
おぼ
)
えてへんのやもん。 もしもそうなら、それは
不実
(
ふじつ
)
と思うけど、
嘘
(
うそ
)
の指輪とどっちがましか。
浮気
(
うわき
)
な夢やと
亨
(
とおる
)
は怒るかもしれへんけども、それでも抱いて寝てんのは
亨
(
とおる
)
のほうやで。
新開
(
しんかい
)
師匠
(
ししょう
)
やないけど、
太刀
(
たち
)
を抱いて寝てるやなんて、そんな変な
奴
(
やつ
)
、普通はおらへん。 何事かあれば飛び起きて、すわ
戦闘
(
せんとう
)
、ていう、そんな
事態
(
じたい
)
でなければな。 俺が
水煙
(
すいえん
)
を、抱いて寝るなんて、そんなことがあるとは、この時はまだ夢にも思ってへんかった。 俺は
結局
(
けっきょく
)
、
水煙
(
すいえん
)
の静かな問いかけには、なにも答えられへん口ごもった
沈黙
(
ちんもく
)
のまま、
亨
(
とおる
)
に
連
(
つ
)
れられて、その場を
去
(
さ
)
った。
水煙
(
すいえん
)
を、
分家
(
ぶんけ
)
の
式神
(
しきがみ
)
たちに
預
(
あず
)
けて。 そして、何日ぶりかで、
亨
(
とおる
)
とふたりきりのドライブに出かけた。 ヴィラ
北野
(
きたの
)
の
優雅
(
ゆうが
)
な
車寄
(
くるまよ
)
せを出て、
迎賓館
(
げいひんかん
)
みたいな黒い
飾
(
かざ
)
り
格子
(
ごうし
)
の門をくぐり、
坂
(
さか
)
を
下
(
くだ
)
った
下界
(
げかい
)
の街、神戸の
繁華街
(
はんかがい
)
、
三ノ宮
(
さんのみや
)
へ。 ――第19話 おわり――
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椎堂かおる
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