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20-10 トオル

 俺もアキちゃんと暮らすようになってから、ええ格好(かっこう)する(くせ)がどっかいってもうてる。  俺、アキちゃんと、やったことある。玄関(げんかん)で。  あるよ、普通せえへんようなことでも、普通やないから、俺らはやるよ。  でも、やらへんのね、藤堂(とうどう)さんは。とりあえず今のところは、やってへんかったのね。  ほんで藤堂(とうどう)さんはね、そういうの、変なことすんの(きら)いなわけではないけど、自分がさせるのは良くても、相手が提案(ていあん)してくんのは()える人やねん。  初心(うぶ)な子がええねん。自分からは何も言えへんと、大人しく抱かれて泣いてるようなね。  結局お前も変態(へんたい)やないか。(えら)そうな(つら)すんな! 俺の足、()めてたくせに!  そんな強い目で、俺はお(こた)えしたけど、お前はどうしようもない淫乱(いんらん)やなあみたいな目で藤堂(とうどう)さんにじとっと見られ、結局しおしおなってたわ。  あかんねん(とおる)ちゃん、このオッサンにはなんでかあかんねん!  そんな(さげす)むような目で見られたら、お腹(いと)うなってくる。  助けてアキちゃん。 「お前はほんまに、はしたない子やなあ、(とおる)。朝っぱらから、よくもそんな話。しかも、あろうことか、俺のホテルのロビーで……」   ぶちぶち説教()れる藤堂(とうどう)さんを見上げて、湊川(みなとがわ)は物言いたげに目をぱちぱちさせた。  そして、どうしても気になるというふうに、小声で口を(はさ)んだ。 「廊下(ろうか)やないんですか、ここ」  こそっと言われて、藤堂(とうどう)さんはさらに、むっという(こま)った顔になった。  そして、ゆっくりと湊川(みなとがわ)を見返した。  その時、藤堂(とうどう)さんがどんな顔していたのか、俺は知らん。見えへんかった。  でも、湊川(みなとがわ)は、相当(そうとう)にビビッたような悲しい顔になっていた。 「廊下(ろうか)です。しょうもない事で()げ足とるのはやめなさい」  可愛(かわい)げない若造(わかぞう)やという気配(けはい)むんむんの声色(こわいろ)で、藤堂(とうどう)さんは忌々(いまいま)しそうに言った。  でもちょっと()れていた。してやられたな、オッサン。うっふっふ。ええ気味(きみ)やわ。  アキちゃんはその光景を、あんぐりとして見ていた。ほんで、ぽつりとコメントをした。 「お前、そんなこと言うから可愛(かわい)くないねん……。好きなんやったら、余計(よけい)なこと言うたらあかんやないか。それにな、中西(なかにし)さんはもうあかんで、結婚してはるから」  お前こそ余計(よけい)なこと言うてんで、アキちゃん。 「なに。なんの話?」  明らかに置いてけぼりなってる藤堂(とうどう)さん@天然が、わからんというように顔をしかめて、アキちゃんに()いた。 「いや……なんというか。こいつ中西(なかにし)さんが好きらしいんで。()れっぽいらしいんです」 「言わんでええやん、先生! そんなの(だま)っときゃバレへんやん!」  キレたみたいな悲鳴で、湊川(みなとがわ)怜司(れいじ)はアキちゃんを(とが)めていた。  お前の言うとおりや。オッサン(にぶ)いんやから、言わんかったら絶対バレへんかった。  せやけど藤堂(とうどう)さんも日本語がわからんようなアホではない。  ちょっと(こま)ったような顔をして、藤堂(とうどう)さんは湊川(みなとがわ)をもう一度(なが)め、それにラジオはイライラしたような顔をした。  たぶん、()ずかしいんやろ。気の毒すぎる。  湊川(みなとがわ)怜司(れいじ)は、いわゆるその、ツン(けい)やった。ほんまに好きな相手には、つんつん()()ない。好きやみたいな感情に、素直(すなお)になられへんらしい。  相手がたとえ他の(やつ)にいってもうても、平気やみたいな態度をとってまう。  でも、アホやった鳥さんとは(ちご)うて、こいつは全然平気ではない。ほんまは(ひそ)かに傷ついてたわけ。  いや、アホでも鳥さんも傷ついてたかもしれへんけどさ。自分が傷ついてんのが分からん程度(ていど)にアホやった寛太(かんた)(ちご)うて、こいつは自覚(じかく)はあった。  秋津(あきつ)家で水煙(すいえん)と仲悪かったんも、どうもアキちゃんのおとんが、あんまり水煙(すいえん)を大事にするもんで、焼き(もち)焼いてただけらしい。  俺は正気(しょうき)や、なんでもないみたいなフリをしながら、ものすごい嫉妬(しっと)羨望(せんぼう)(むね)()めてる。それがマスメディアや。  それが湊川(みなとがわ)正体(しょうたい)。自分のそんなラブラブ体質に、(やつ)はまだ自分で気がついてなかった。  だって()られんねんもんな。ものすご好きみたいなラブラブ爆弾を爆発させたくても、相手がおらへん。  暁彦(あきひこ)様は水煙(すいえん)のほうが好きやったし、それどころかラブラブなってる相手がいくらでもいて、(らち)があかへん。  信太(しんた)信太(しんた)で、遊び人やし、あいつはあいつで()()さんやろ。  それでお(たが)いぐずくずしてる間に、(とら)本命(ほんめい)は鳥さんてことになってもうた。  敗退(はいたい)。そして、お次のアキちゃんは、俺に牛耳(ぎゅうじ)られている。一瞬で終了。  さらにその次のは藤堂(とうどう)さんなのかもしれへんけども、出会い(がしら)にこれやから。  それにこのオッサンには、その正体(しょうたい)は小悪魔の、美形神父が取り()いている。怖いでえ、薔薇(ばら)神父。真面目(まじめ)やねんから。 「あのね……せっかくやけどね、もう伴侶(はんりょ)()とうからね……」  ゴメンネみたいに、藤堂(とうどう)さんは気まずそうな上ずった声やった。  この人ほんまに固いねん。しょうもないやろ?  なにが伴侶(はんりょ)()とうからやねん。一発やんのに関係あるか、そんなこと。  この甲斐性(かいしょう)無し。アホ。不能(ふのう)。インポ野郎(やろう)。ほんまひどい男やった、藤堂(とうどう)さん。  俺、(せつ)ないわ。ひどいなあって、皆も思うやろ。  思うよなあ、普通。人間やったら思うはずや。  思わへん? 人間やないんとちがう? いっぺん医者行って調べてもらえ!

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