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21-9 アキヒコ
「嫌 か。そうか。ほんまかな。とりあえず、シャワー浴びる? それとも、このままベッド行く? ちょっと話そうか。まだまだ月も出たばかりやし、そう急いでやることない。話しながらちょっと、気持ちようなって、それから本番 でも、時間はあるやろ」
酒のグラスを取り上げられた俺の手を引き、湊川 すぐ隣 にあったベッドに連れていこうとした。
俺は焦 った。まだまだ素面 や。ぜんぜん酔 うてない。
そやのに、いきなり布団 に連れ込まれて、なんやかんやするというのは、あまりにも意識 がはっきりしすぎてる。
ああ、どうしよう。亨 に悪い。すまない水煙 。許 してくれ瑞希 って、そういう気まずい事がずらずら頭に出てくるねんで。
でも、そんなもん、ラジオは頓着 しいひんかった。
ラジオというのは亨 が湊川 につけたあだ名みたいなもんで、いつも亨 はそう呼ぶんや。
あいつは口が悪いねん。瑞希 のことは犬とかワンワンやしな、湊川 のことはラジオやで。
ほんでトミ子に至 っては、ブスって言うやろ。いくらブスやからっていうても、その呼び名はどうなんや。死んでも腐 っても女の子なんやで。可哀想 やと思わへんのか。
そんな話、今はどうでもええか。俺は逃げてるか。話、戻 さなあかんか。
そうやな。戻 そか。それからどうなったか。
湊川 はベッドで俺にキスをした。もう一回。抱き合 うて足をからめて、もう一回や。
しかも、あいつは俺のベルトを外 した。なんで外 すんや。外 す必要あんのか。
あるわな。もちろん。脱 ぐんやったらベルト外 さなあかんよな。それは常識や。
着たままやったらあかんか。
あかんことはないけど、まあ、脱 いだほうが開放感 あるよな。
窮屈 やから。その日は俺は、ジーンズやったし。いろんな事情で窮屈 なときがあるんや、男の子やからな。
でも湊川 は、脱 がせてはくれへんかった。ただベルト外 して、前開けて、指入れただけ。
むしろもっと窮屈 やで。勘弁 してくれ。いきなり触 ってくるのは。
「やめて」
俺は本気で頼 んだ。お願いします。
人間には我慢 できることと、我慢 できひんことがある。特に男の子には。
「やめんの。なんで。どないしたん先生、こんなに腫 らして」
くすくす笑って、湊川 は俺の耳を舐 めていた。
それも、やめといてくれ。ヤバいから。マジでヤバいから。もう後戻りできひんようになるから。
「話して。何があったんや先生。なんで急に、俺を口説 こうなんて思ったん? 生 け贄 にする式神 欲しいんやったら、俺が船で誘 った時に、さっさと食うといたらよかったのに……」
まさに口八丁 手八丁 というやつかな。舌技 に定評 があるらしいけど、たぶん手技 にもあるな。
あるに違いない。白い指で虐 められて、俺は悶絶 したいのを堪 えていた。
あかんあかん、集中したらあかん。
気を遠くに持て俺。
ああもうイキそうみたいになるから。感度良好 すぎやから。
「あかん、湊川 。もうちょっと……緩 く」
やめてくれとは、もう頼 めへん俺に、湊川 はくすくす笑った。
月もそれに相和 して、笑っているような気がした。
きっと笑っているんやろ、月読命 も。
お前はなんて不実 な餓鬼 や。つい昨日、永遠の愛なるもんを、可愛い可愛い蛇 を相手に誓 ったばっかりやのに、今夜にはもう、得体 の知れん朧 なる者 と、抱き合 うて喘 ぐ。
そういう奴なんやなあって、からから笑われているみたいな気がする。
「気持ちええやろ、先生。弱いとこ、暁彦 様と同じやなぁ」
まさにそこ、という所を責 められて、俺は内心、ひいひい言うてた。
それでも我慢 してるのは、悔 しいからや。
俺は確かに、おとんと生き写しやけど、そんなとこまで似てんのか。ツボも同じか。
綺麗 な白い指で責 められると、泣きそうになるところまで、同じなんか。
「濡 れてるなあ。なんで濡 れてんの」
また底意地 悪く、湊川 は俺に訊 いた。
なんでかなんか知るか。俺は知らん。知ってても答えへん。
質問に答えなあかん義理 はないやろ。まったくマスコミの連中ときたら、えげつないねん。
俺には知る権利があるって、ずけずけ何でも訊 いてきやがって。俺にも言いとうないことは多々 あるんや。
プライバシーなんや。恥 ずかしすぎて言われへん。
「我慢 せんでええねんで、先生。何回でもいかしたるし、また勃 たしたる。できるやろ、まだ若いんやし……それに、絶倫 やからな、覡 なんてもんは大体 において。先生みたいに、力の漲 ってる人は、こっちも漲 ってんのやろ?」
要 らん事訊 くな、湊川 。下の人にも訊 くのはやめろ。
そこをぎゅうっと握 られて、俺は目の前真っ白なったわ。
我慢 すんのってつらい。
「嫌 や……俺は、そんな。まだ始まって五分くらいやで」
俺には変な癖 がついてた。亨 が最近、タイムを計 ってるもんやから、それをめっちゃ気にしてるんや。
あいつ変なんとちゃうか。終わった後ににっこりして、満足したわって可愛い顔で、アキちゃん、十五分二十二秒、とか言うねんで。
秒まで見るな。愛してへんかったら殺してる。
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