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21-27 アキヒコ

(まぶ)しい……補色(ほしょく)対照表(たいしょうひょう)みたいや」  びっくりした声で、瑞希(みずき)は初対面の(とら)と鳥を見た。  (とら)と鳥も、(うれ)しそうに肩を組んだまま、物珍(ものめずら)しいもんを見る顔で、俺と腕を組んでいる瑞希(みずき)を見下ろしていた。 「なにこのワンワン。先生、(とおる)離婚(りこん)したん?」  にっこり笑って、鳥さんがまた言わんでええことを言うた。 「離婚(りこん)してへん。犬飼うただけや」  ものすご苦い顔で、(とおる)寛太(かんた)に答えてやっていた。 「天使やめたん?」  にこにこ何の警戒色(けいかいしょく)もなく、寛太(かんた)瑞希(みずき)の顔を(のぞ)き込んで()いた。  瑞希(みずき)はそれに、(かす)かに身を引いただけで、何も答えへんかった。 「あかんで、ワンワン。人のモン()ろうとしたら。本間(ほんま)先生は(とおる)のモンやしな。(とおる)の言うこと聞かなあかんのやで。(しき)には序列(じょれつ)があんのやし、(とおる)は先生のツレやねんから、お前にとっては主人(あるじ)同然(どうぜん)や」  信太(しんた)にしなだれかかりながら、寛太(かんた)はにこやかに式神(しきがみ)作法(さほう)()いた。  俺は鳥さんがそんなマトモなことを言うなんて、想像もしてへんかったんで、あんぐりしていた。 「そうやで。寛太(かんた)。お前、なんや急に(かしこ)くなってきたやんか。どないなっとうのや」  にこにこしながら、信太(しんた)寛太(かんた)の赤い(かみ)(ほお)ずりして(たず)ねてた。満面(まんめん)()みやった。  それをビビったように見上げて、瑞希(みずき)はちょっと(うらや)ましそうやった。  まあ、確かに。ラブラブの見本みたいな(やつ)らや。「ラブラブ」と札つけて、博物館に展示してもいいくらいや。  肩を抱き、手を(つな)ぎ、(ほほ)()せる(とら)と鳥は、引き離されたら死ぬんやないかというぐらい、べたべたしていた。 「セックスしすぎかな」  むっちゃ(さわ)やかに、信太(しんた)にもたれて、鳥さんは答えた。  誰もそれにコメントできへんかった。その首筋(くびすじ)はもちろん愛噛(あいこう)だらけやった。痛そうやのに治さへんのか。怖いくらい愛しちゃってるらしい。 「何でセックスしたら(かしこ)くなるねん。そんな話、聞いたことないで。それやったら俺なんか今ごろ大天才やで?」  そう言う(とおる)はもちろん真面目(まじめ)に返事してんねんで。アホみたいやけどな。 「寛太(かんた)の場合は、一理(いちり)ありかなあ。不死鳥(ふしちょう)は高い知性のある鳥やから。精力(せいりょく)つけて成長すれば、(かしこ)くなってくんのかもしれへん。お前も大人になってきてんのかもしれへんなあ」  そう言い、でもまだまだ赤ちゃんですよみたいなノリで、信太(しんた)人目(ひとめ)もはばからず、鳥さんにちゅうちゅうキスをした。  エサやってんのやろ。いや、キスしてんのか。どっちも()ねてんのか。()れるとかないんか。何かもう突き抜けてもうてんのか。遠慮(えんりょ)無く舌からめてる補色(ほしょく)カップルを、瑞希(みずき)唖然(あぜん)として見てた。 「こ……こんなんしてええんですか、先輩(せんぱい)」  していいんやったら、したいんか、お前は。 「したらあかん。犯罪(はんざい)や。こいつらは頭がおかしいねん」  俺は目を(そむ)けて言うといた。同じことしてくれって強請(ねだ)られたら、俺も困るしな。  もっとエサくれって強請(ねだ)る鳥さんの(くちびる)(のが)れて、信太(しんた)はにこにこ俺を見た。 「絵描いてやってください、先生。不死鳥(ふしちょう)の」 「兄貴(あにき)、やめんといて。もっとして……」  お前ら、ここ、外やから。俺は思わずそう教えたくなった。  鳥さんは目映(まばゆ)(とら)の黄色いアロハの(すそ)から、しっかり手を入れ、(ガタイ)がええらしい腹筋のあたりを、物欲しそうに()でていた。  どうしたんや鳥。おかしいで。水地(みずち)(とおる)みたいになってる。それを()えてる。(とおる)でも、さすがにここまではしいひんで。最近は。 「あかんあかん、寛太(かんた)。お前はほんまに、どないなっとうのや。エロなってもうて。そんなに沢山(たくさん)したら、どんどん(かしこ)くなってまうやんか」  いや、むしろどんどんアホになっているように見えるけど。  あかんと言いつつ、(とら)はデレデレしていた。とろんと物欲しそうな目をした鳥の手をにぎにぎしつつ、(いと)しそうに顔を見ていた。 「不死鳥(ふしちょう)になるとこ、俺に見せてくれ。教えたやろう、どうやって変転(へんてん)するか。俺が(とら)になるとこ見たやろ、おんなじようにすればええねんで」 「(とら)最高」  なんの話や鳥さん。うっとり首に抱きついてくる、話聞いてない引っ付き虫みたいな赤毛の体を、よいしょと引き()がして、信太(しんた)は俺に押しつけてきた。  鳥さんは残念そうやった。よっぽど(とら)が好きらしい。 「おかしいなあ。昨夜(きのう)、焼き肉食わしたんが悪かったんか……」  (せつ)なそうにしている鳥を見て、信太(しんた)は首を(かし)げていた。  そんなもん食わしたんか、お前。精進(しょうじん)料理しかあかんて言うてたくせに。 「どうしても肉食いたいて、ハアハアするもんやから。可哀想(かわいそう)になって食わしたんです」  苦笑(にがわら)いして、(とら)は俺に言い訳をしていた。 「ほんまにおかしいねん。上の店でジェラート食うてから」  (うれ)しいけど、ちょっと困ってるっていう顔を、信太(しんた)はしていた。なんでこんなに愛されちゃってるのか、自分でも分かれへんて、そんな戸惑(とまど)い顔やった。 「肉気(にくけ)のもん食うたからやろ。あのアイス、タマゴが入っていた。それで(けが)れたんや」  車椅子(くるまいす)に座った水煙(すいえん)が、けろりとして教えてた。 「えっ、マジ?」  車椅子(くるまいす)のハンドルにもたれていた(とおる)が、本気でびっくりしたように、水煙(すいえん)の顔を見下ろし、水煙(すいえん)(あご)を上げて、それを見上げた。 「知らんと食わせてたんか、(とおる)

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