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三都幻妖夜話(3)神戸編 21-41 アキヒコ | 椎堂かおるの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
三都幻妖夜話(3)神戸編
21-41 アキヒコ
作者:
椎堂かおる
ビューワー設定
321 / 928
21-41 アキヒコ
瑞希
(
みずき
)
はグラスにミネラルウォーターを
注
(
つ
)
いで、それをソファまで持ってくると、飲んでくださいと
差
(
さ
)
し出してきた。 俺はそれを、仕方なく、
瑞希
(
みずき
)
と見つめ合いながら飲んだ。 もちろん
内心
(
ないしん
)
、冷や汗だらだらや。なんて言おう。何て言うて
断
(
ことわ
)
れば、こいつは傷つかへんのやろ。
緊張
(
きんちょう
)
する。ものすごく、ビビる。 俺は
瑞希
(
みずき
)
のことは好きや。
可愛
(
かわい
)
いと思うてる。そやから傷つけたくはないんや。こいつが泣きそうな顔するのを、もう見とうない。幸せにしてやりたいねん、こいつはこいつで。 でも俺には、そんな
甲斐性
(
かいしょう
)
がない。 「
飯
(
めし
)
、食います?
腹
(
はら
)
減
(
へ
)
るんですか、先輩はまだ」 俺がまるでもう人間やないみたいに、
瑞希
(
みずき
)
は
訊
(
き
)
いた。失礼なこと
訊
(
き
)
く奴や。俺はまだ
腹減
(
はらへ
)
る。ちゃんと人間やで。血は吸うけど、ほとんどの場合、人間や。 「ほな、どっか食いに出ます? それとも、ルームサービスでも
頼
(
たの
)
みましょうか」 部屋にいたいって、そんな
気配
(
けはい
)
のする
誘導的
(
ゆうどうてき
)
な
訊
(
き
)
き方で、
瑞希
(
みずき
)
は俺に
意向
(
いこう
)
を
訊
(
き
)
いた。 「なんでもええわ……俺も、食欲のうなってきた」 「じゃあ、酒でも飲みますか。先輩、好きでしょ。何か
適当
(
てきとう
)
に注文しますし」 言い終える間もなく、
瑞希
(
みずき
)
はとっとと電話のところに行った。その
仕草
(
しぐさ
)
が
焦
(
あせ
)
っているようなのが見て取れて、なんで
焦
(
あせ
)
ってんのやろうかと、俺はソファでぐったりしていた。
瑞希
(
みずき
)
は俺の気が変わり、どこかに逃げてまうんやないかと思っていたらしい。それに、時間もあんまりない。今夜
限
(
かぎ
)
りやからと、
焦
(
あせ
)
ってた。
素直
(
すなお
)
なやつや。今夜
限
(
かぎ
)
りと言われれば、それで満足しようとしていた。 もっとよこせと、
欲張
(
よくば
)
ったりはしいひんのやな。たった一夜で死ぬつもりというのが、俺には少し、怖く思えた。 一体、俺のどこに、そんな価値があるんやろ。ただちょっと抱いてやって、気持ちよくなって、それだけのことに何の意味がある。 もちろん意味はあるやろうけど、そのために死ぬようなもんか。なんでそんな必死やねん。 せっかく
戻
(
もど
)
ってこられたんや。俺のことなんか忘れて、もっと幸せにしてくれそうな相手を探せばええやん。世の中に男も
覡
(
げき
)
も、俺ひとりやないし、お前はけっこうモテんのやから。
瑞希
(
みずき
)
はバンケットに、ローストビーフとチーズと赤ワインを注文していた。肉食いたかったらしい。それに神戸といえば神戸牛やし。
六甲山
(
ろっこうさん
)
には
牧場
(
ぼくじょう
)
があって、地元でチーズも作っているし、ワイナリーもある。せやから神戸グルメやな。
瑞希
(
みずき
)
にはまだ食欲があるらしい。三万十八歳にもなって。まだまだ食欲
旺盛
(
おうせい
)
で、性欲もある。
可愛
(
かわい
)
いような顔してるけど、
亨
(
とおる
)
がそうなように、こいつも
結局
(
けっきょく
)
、エロエロの
外道
(
げどう
)
なんやで。
亨
(
とおる
)
と
違
(
ちご
)
て、
我慢
(
がまん
)
強
(
づよ
)
いだけで、
我慢
(
がまん
)
せんでもええときには、
我慢
(
がまん
)
できひんらしい。 もう
我慢
(
がまん
)
しいひんて、その夜は決めていた。
我慢
(
がまん
)
してもしゃあない。たった一度のチャンスやと、あいつは思ってたんやからな。 ルームサービスはこの時も、
迅速
(
じんそく
)
に仕事をした。新装開店祝いのヴィラ
北野
(
きたの
)
のラベルを
貼
(
は
)
った、ホテルおすすめの赤ワインと、
美味
(
うま
)
そうに
盛
(
も
)
りつけられた肉とチーズを乗せたワゴンが運び込まれ、それをどこに置くかと
訊
(
き
)
いたホテルマンに、
瑞希
(
みずき
)
はベッドの横に置けと
頼
(
たの
)
んだ。 なんでそんなとこに置くんや。でも、それを置く場所はちゃんとあった。
新婚
(
しんこん
)
さんて、ベッドで飲み食いするもんなんか。そんなん、お
行儀
(
ぎょうぎ
)
悪いやんか。俺はそんなん、やったことない。
亨
(
とおる
)
も、やろうと言うたことはない。あいつもあれで、俺にいろいろ
遠慮
(
えんりょ
)
してたんやろうな。 そやけど
瑞希
(
みずき
)
は知ったこっちゃない。俺と寝たことないんや。付き
合
(
お
)
うたこともない。大学で、先輩と後輩やっただけで、俺がベッドでどんな
嗜好
(
しこう
)
かなんて、あいつは知らん。 案外、お
行儀
(
ぎょうぎ
)
悪い犬やったんや。付き
合
(
お
)
うてみいひんかったら、分からん事っていっぱいあるな。 たじろぐ俺の手を引いて、
瑞希
(
みずき
)
はいきなりベッドに連れていった。早く早くや。こいつはいつも
焦
(
あせ
)
ってて、早くしてくれって俺を
急
(
せ
)
かす。
風呂
(
ふろ
)
にも入ってへんのに、部屋を
仕切
(
しき
)
った
目隠
(
めかく
)
し
壁
(
かべ
)
に隠れると、
瑞希
(
みずき
)
はもう
本性
(
ほんしょう
)
を
隠
(
かく
)
しはしいひんかった。 俺を
仰向
(
あおむ
)
けにベッドに押し
倒
(
たお
)
し、その
腰
(
こし
)
に
跨
(
またが
)
って、もう待ちはせず、自分から俺にキスをした。 それでも探るような、目を閉じて
控
(
ひか
)
え目なキスやった。
触
(
ふ
)
れるだけの。 「ローストビーフ
美味
(
うま
)
そうですよ。肉食べさせて、先輩」 めちゃめちゃ
恥
(
は
)
ずかしそうに、
瑞希
(
みずき
)
は俺にそう
頼
(
たの
)
んだ。
口移
(
くちうつ
)
しで、食わしてくれって。 ワンワン肉食えプレイや。そんなアホみたいなことすんの、
水地
(
みずち
)
亨
(
とおる
)
だけやなかったんや。
瑞希
(
みずき
)
がそんなんしてほしいなんて、俺には
驚愕
(
きょうがく
)
の
極致
(
きょくち
)
やった。 「アホみたいやで……
瑞希
(
みずき
)
」 「アホなんです俺は」 つらいという顔はしてたものの、
瑞希
(
みずき
)
は
断言
(
だんげん
)
していた。 ア、アホなんや。本人がそう言うんやから、そうなんやろうな。
瑞希
(
みずき
)
はベッドに横付けされた、白いテーブルクロスがけのワゴンから、
銀皿
(
ぎんざら
)
に
盛
(
も
)
られたローストビーフを
銜
(
くわ
)
えて戻り、また俺に
跨
(
またが
)
って、
口移
(
くちうつ
)
しにそれを食わせた。
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