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21-44 アキヒコ

 たぶん、そういう心得(こころえ)がないわけやないけど、変なことして、俺がぎょっとしたら(こわ)いって、固くなってたんやないか。  スレてへんて、思われたいんや。でもちょっと遠慮(えんりょ)しすぎやで。(かる)生殺(なまごろ)しやから、俺は。  でも、まあ、ええかって、そんな気もした。ここから先に、進みたくない。()いてやったら、瑞希(みずき)はきっと喜ぶんやろ。痛いかもしれへんけど、それでもこいつは泣いて喜ぶ。そんな気がした。  そのうち慣れて、気持ちええわって泣くかもしれへん。そしたら俺は、それに夢中(むちゅう)になるかもしれへん。  そうなりたくない。俺にとって、水地(みずち)(とおる)は特別や。夢中(むちゅう)になるのは、あいつだけ。それが犬でもええなんて、そんな自分に出会いたくない。  愛なんて、俺の妄想(もうそう)やった。誰でもええんやって分かってもうたら(こわ)い。自分がもしも、そんな男やったら。おとんのような。代々の、秋津(あきつ)当主(とうしゅ)のような。 「瑞希(みずき)……」  (もだ)える体を指で()めながら、俺は可愛(かわい)い犬の名を呼んでやった。  それにくんくん泣くような、甘い(あえ)ぎで瑞希(みずき)は答え、背後(はいご)から抱いている俺の顔を見上げてきた。 「俺の血をやる。それだけやったら、あかんか。このまま、いかせてやるしな。抱くのは勘弁(かんべん)してくれ」 「い……(いや)や。(いや)です」  ぎょっとしたふうに、瑞希(みずき)(するど)(こば)んできたけど、愛撫(あいぶ)(はげ)しくしてやると、苦しそうに身を(よじ)らせて、抵抗(ていこう)できひんようになっていた。  手応(てごたえ)えからして、相当(そうとう)気持ちええらしい。肩を抱き寄せて顔を(のぞ)き込むと、恍惚(こうこつ)とした()いめの睫毛(まつげ)が、しっとり(なみだ)()れていた。 「(いや)や……いきそう……」 「中も感じるんか、お前」  いっぱい男が()った割には、ずいぶんお(かた)いみたいなそこを(いじ)る指に、熱を()めると、瑞希(みずき)は苦しいんか気持ちええんか(なぞ)なふうな、(あら)い息やった。  もしかして、いつも痛かったんやないか。人恋しくて、やらせろ言う(やつ)にやらせてやってただけで、自分は気持ちよくなかったんとちゃうかな。  だって()れる()もない。五十人もとっかえひっかえやと。 「感じる時もある。ちゃんとできます。入れてほしい、先輩」  必死に身を()()せてくる瑞希(みずき)に、俺は正直トキメいた。まさかそんなとこから、やらなあかんなんて。経験(けいけん)豊富(ほうふ)なんやしと、入れれば(あえ)ぐようなのを想像してたんやけど、まさか練習からなんて。  無理無理無理。できひんできひん、俺にはとても無理。そんなん()ずかしすぎて、できひんから。意気地(いくじ)()しやねん、アキちゃんは。  水煙(すいえん)が初めてやったというのにも、どんだけ()えたか。それでハートを(わし)づかみされてんのやから。これ以上、(わし)づかまれたら(むね)()()けそう。というか、引きちぎられそう。  俺は(とおる)が好きなのや。あいつとだけ愛し合いたいんや。フラフラさせんといてくれ。  確かに皆、魅力的(みりょくてき)やわ。神さんやから。(とおる)だけが神というわけではないんやし。それでも俺は、あいつだけを見つめていたいねん。目を()らしたくない。あの、甘く(やさ)しい美貌(びぼう)から。 「あっ……あかん、先輩。早く、して。早う入れてください。ちゃんと、気持ちええから……すごく、すごくいい……中も感じる、中のほうが()えねん、ほんまです!」  ああ、だめ、やめて、みたいなふうに、身を(よじ)らせて、瑞希(みずき)は俺の手から何とか逃げようと藻掻(もが)いてた。じっとり汗かいた体が熱くて、真っ白やった(はだ)が薄赤く上気(じょうき)してる。 「いきそうやねん! もうやめて!」  怒ったような(わめ)き方で、瑞希(みずき)は俺をぐいぐい押し返してきた。でも、それが本気の力とは、あんまり思えへん。  もっと強いもんなんとちゃうか。本気で逃げたければ。だって京阪(けいはん)電車のオッサンは半殺しにされたんやしな。  でも、その時の腕は、やんわり甘い強さやった。たぶん逃げたくても逃げられへんかったんやろ。久しぶりやし、気持ちよくて。 「ああ、もう……いく。もう、やめて……やめてください。(いや)やぁ……」  細く引き(しぼ)られた悲鳴をあげて、瑞希(みずき)は体を(こわ)ばらせ、俺の手の中で(たっ)してた。元々(せま)いような中の感触(かんしょく)が、ぎゅうっと強く指を()め付けてきて、この中にいたらどんだけ悶絶(もんぜつ)させられたやろと思えた。  でも、そんなんしんといて良かった。お(かげ)で、(ふる)えながら感極(かんきわ)まっている、可愛いワンワンの顔がじっくり見られた。  いってる体の、中も()めてやると、瑞希(みずき)絶頂(ぜっちょう)はものすごく長く続いた。  どっと吹き出るような汗を背中に光らせ、とろとろ()らし続けてる。  それが()ずかしいんか、赤い顔を俺から(そむ)けて、瑞希(みずき)は泣いてるみたいやった。(すす)り泣くような悲しい声が、ずっと(のど)から()れていて、俺はそれに、うっとり聞き入っていたけども、瑞希(みずき)は気持ちよくて泣いてわけやない。  悲しかったらしいわ。体は()くても、心はしんどかったらしい。俺に抱いてもらわれへんで、結局(けっきょく)それかって、瑞希(みずき)は泣いてた。  よっぽど情けなかったらしい。(とおる)はすぐにメソメソするけど、こいつはそう簡単に泣く(やつ)やなかった。  それでも俺は、瑞希(みずき)が泣くのを見たことあるけど、それは俺がよっぽど鬼畜(きちく)やったという事らしい。

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