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21-56 アキヒコ
「あのなあ、先生。入れて突 いたらええってもんやないねん。こういうのにもテクはあるんや。知らんのか。いつも何やってんの」
何やってんのやろ、俺はいつも。真正面 から聞かれると、どう答えていいかわからへん。
もう、やめようかな。悔 しいけど。
いやあ、どうやろ。こんなん言われて引き下がられへん。男の子の面子 がかかってる。
「体は人それぞれ違うんや。蛇 としかやってへんから、そんなんなるねん。やらんで良かったで、可愛 い瑞希 ちゃんと。下手 やなあ言われたら、先生、ショックで永遠に勃 たんようになるんちゃうか」
今でもすでにそうなりそうな危険性が大 やで。
悪い子せんと、亨 大明神 とだけやっといたら良かった。
悪い子やから罰 が当たってるんや。今まさに当たってる。
「気合 い入れて突 いて」
俺のケツを抱いて、湊川 は励 ました。ありがとう、励 ましてくれて。
「今、最高に悲しい気持ちなんやけど、こんなんでほんまに最後までやれるんやろか」
俺は悲しく言うた。
もう、やめようか。欲求不満 になるけど。
ハートが砕 け散 るより傷は浅い。俺はそう思いかけていた。
「萎 えそうなん? 別にええよ。俺が先生のケツに突 っ込 むから」
むっちゃ真顔 で言われたで。本気やったで、湊川 怜司 。
俺はその、淡 く笑った美貌 と見つめ合い、いきなりどっと冷 や汗 出てきてた。
犯 される。ちゃんとご奉仕 しいひんかったら。アキちゃんバージンやなくなってしまう。
それは、無いわ。俺はそれは想定 してへんかった。それは俺の人生設計 の中にはあれへんコースや。
亨 もどんな微妙顔 するやろな。そっちやったらまだ死刑 にはされへん気がするけど、それで、ああ良かった、という問題ではないな。
「頑張 るからやめて」
俺が真剣 にお願いすると、湊川 は片眉 をあげて、非難 がましい顔をした。
「よっぽど嫌 なんやなあ。なんでや、人のケツには突 っ込 むくせに」
すみません。我 が儘 で。意気地無 しなんです。甘 やかされて育ったボンボンやから。
「ほな、教えるから頑張 って、気持ちようしてくれ」
ありがとうございます。ご指導 ご鞭撻 してくれるらしい湊川 に、俺は黙 って頷 いていた。
こんな屈辱 を味 わったのは、生まれてこのかた滅多 にないわ。
動いて突 けば気持ちいい。それは生理現象 やから、しょうがない。
でも、下手 やなあって言われるねん。あかんあかん、違 うわ、それやない。そこも違 うてる。ずれてる惜 しい、もうちょっと頭使 うてやらなあかんわ。
いきそうなってるやろ。ヘタレやでえ先生。独 り善 がりかと、さんざん言われて泣きそうなってきて、もうぶっ殺したろうかなと、悔 しくて、でも気持ちようてな。
もう、どうしようもなく切 のうて、憎 くなってきた頃合 いやった。
「あ……っ」
ふてぶてしかった相手が、突然、甘 く鳴 いた。
俺はその声にびっくりして、思わず動きを止めていた。
今の、なに。
「気持ちいい。そこや、先生……」
ストライクやった。湊川 怜司 は、ものすごくストライクゾーンの狭 い奴 やってん。
気は多くて惚 れっぽいけど、体はわがまま。ここでないとあかんというピンポイントがある。
そこに至 ると、ヤバかった。むちゃくちゃ甘い声で喘 いだ。
「あ……、先生、やめんといて。もっと、もっとして……」
首を反 らせて悶 えているのを見て、俺は慌 てて続けた。
さっきまで、あかんあかんて言うて憎 かっただけに、急にはあはあ悶 えられると、なんかもう、あかん。脳天 に来た。
やりました、おめでとう、とうとう免許皆伝 ですみたいなファンファーレが頭の奥で鳴っていて、ものすごい達成感 がある。
悶 えて閉じそうになる脚 を開かせて、いっぱい突 いてやると、湊川 はむちゃくちゃ乱 れた。
赤く上気 した胸が仰 け反 っている。白かった肌がまだらに赤いのが、まるで絵のようで、そこにまた絵を描きたくなる。でももうそんな余裕 はない。こっちも一生懸命 やから。
俺も気持ちいい。ずっと我慢 してる。いきそうなるのを。
早く。早く言うてくれ。早く。もうだめって言うてくれ。ゴールまであと何キロあんの。
「ああ、いきそう。いかせて、先生」
必死で汗かく俺に、湊川 はやっと言うてくれた。愛しそうになった。
「先生て言うのやめてくれ」
別にそう呼ばれるのが嫌 やったわけやないのかもしれへん。
俺はちょっと変やねん。変な気分になっていた。とうとうお前を支配 した。そういう気分やったんや。
満たされまくり。あともうちょっとでゴール。
だから、それやないやろ。先生やない。
「暁彦 様」
悲鳴みたいな喘 ぐ声で、湊川 は俺をそう呼んだ。それが俺なんかどうかは、分からへんのやけど。
でも、それ。
まるで従順 なように響 く、その呼び声が、むちゃくちゃ甘 く脳 に沁 みてくる。
「抱いて」
激 しい声で求められて、俺は身悶 える体と胸 を合わせてやった。すぐに長い腕 が俺の背に巻き付けられて、甘 く喘 ぐ息の音が、すぐ耳元 で聞こえた。
「ああ……っ、気持ちいい……めちゃめちゃ悦 えわ、暁彦 様と、おんなじ……」
今は俺が暁彦 様やって。俺はそんな無粋 なことを言うのは止 した。
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