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21-61 アキヒコ
「仲良 うせなあかん、亨 。仲良 うせな……」
もう家族やねんから。お前には悪いけど、もうそういう事になってもうたんやから。
「畜生 、ふざけんなアキちゃん。俺も脱 ぐ」
なんで脱 ぐんかな。トホホやけども。脱 いだらあかん理由もあるような、ないような。
でも、とにかく脱 ぐもんは脱 ぐんやから。俺は素 っ裸 の美少年と、素 っ裸 の美青年と抱いて、ソファに寛 ぐ羽目 に。
なんという不道徳 な情景 やろうか。まさか自分がそんな絵の中にいる事があろうとは。一年前には想像だにしなかった大どんでん返し。確かに人生、生きてみな分からん続きがあるわという実例 やな。
「アキちゃん、俺もアキちゃんと一緒に寝たい」
亨 は悲しそうな潤 んだ目で擦 り寄 ってきて、俺の頬 に額 を擦 り寄 せた。
そんなん俺もやで。俺もお前と寝たい。
俺は亨 の白い綺麗 な背中を片腕で抱き寄せた。両手に花やから。片腕でごめん。
でもほっぺた擦 り擦 りはした。気持ちいい。やっぱり亨 が一番好きや。
「一緒に寝よか」
微笑 んで誘 うと、亨 は潤 んだ目をしたが、目付きはジトッと俺を恨 んでた。
「犬はどないすんねん、この全裸 の美少年は」
「そうやなあ、瑞希 も一緒に寝よか」
亨 ににっこりして、俺は一応言うてみた。
だってそれしかないやんか。ベッドひとつしかないし。可哀想 やんか、ソファで寝ろって言うのは。
「ぶっ殺す、アキちゃん」
そうは言うけど、亨 は俺にキスしただけやった。我慢 はしたけどもう無理です。そんな感じで抱きついてきたまま、俺を自分に向かせて唇 を重ねさせた。
なんという不道徳 な。
瑞希 はビビったようやったけど、もう、どうにもしょうがない。俺は元々ノー・デリカシー男やし。これには慣 れなしょうがないんやないか。いちいち殺し合ってたら、一歩も前に進まれへん。
「しょうがない……新しい世界に行こか」
それはどういう世界やろう。亨 は俺の舌 を吸いながら、舌 っ足 らずにそう言うた。
そして、名残 惜 しげに唇 を貪 ってから離 れ、亨 は、またかと難 しい嫌気 のさした顔でいる水煙 に、向き直って言うた。
「お前も脱 げ」
「な……なにを言うんや」
水煙 は、今度は真っ青になっていた。比喩的 な意味で。もう宇宙人 ちゃうからな。実際には白い顔のままや。ビビった表情になっただけで。
「穴無 し治ったか俺が見てやる」
「余計 なお世話 や、そんなん見んでええわ!」
水煙 は必死で叫 んでいた。亨 が本気やと思うてんのやろ。
俺にも本気みたいに見える。まさかと思うけど、まさか本気なんやろうか。なんでお前が俺より前に見るねん。
「なんやと、俺やったら何が不満や。アキちゃんに確かめてもらおうというんか。許 さへん。俺が見て解説 しといてやるから、それで我慢 しろ」
地獄 や、それは。見たらあかんのやったら、解説 するのもやめてくれ。
なんでお前のエロエロ実況 解説 を聞かなあかんのや。そんなん聞いてムラムラしたらどないすんねん。水煙 は俺にとって永遠の清純派 やのに。お前にかかるとどうなるか怖すぎて無理や。
「もう寝る。俺もう眠いから。眠らせてくれ……」
ほんまに眠いし、俺は酔 いつぶれかけていた。クラクラした。
「あかんあかん、何言うてんのや、アキちゃん。朝エッチも昼エッチもしてへんのに。夜エッチ休んだら、まる一日ゴハン抜きなんやで。そんなん常識で考えてありえへんやろ」
常識について説 かれ、俺は両手で顔を覆 って仕方 なく頷 いていた。
そうやな。お前の言うとおりや。
俺はこれから一体、どうなったんやろ。
それはあまりに不道徳 やしな。解説 を避 けよう。
避 けるなアホ! って、飛んでくる座布団 が今見えた。
幻覚 やろか。こっちとそっちでは位相 が違うんやろか。それとも同じひとつの世界なんやろか。
同じやといい。そのほうが皆と会える機会 もあるやろうから。
そやけど一つに繋 ぐのは、できれば、座布団 が飛んでこんようになってからにさせてくれ。
それでは、お休みなさい。ぐっすり夢も見ずに朝まで。残り少ない夜明けまでの時間やけど。腰痛 なったらどうしよう。
あはは。平気平気。腰揉 んでもらいつつ、惚気 たらええねん。朧月夜 に。
あいつらほんまにどうしようもない。寝る間もないわ。腰痛 いわあ、って。
きっと笑って聞くやろう。朧 なる者は。そして優しく癒 やしてくれるやろう。ジャズと。スコッチと。甘く燻 る優美 な煙 のある部屋で。
俺はその部屋が、永遠にあればええのにと願っていた。
それが新たな問題で、それをどうやって解決するのか、俺はもう何も考えていなかった。
考えなくても、結論 は出ていたからや。
朧 の部屋からの帰り道、上機嫌 で鼻歌 の『月がとっても青いから』を歌いながら、もう考えたんや。結論 が出た。
おとんは式 を愛してたんや。俺はアホで、水煙 は賢者 かもしれへんけども、俺のほうが正しいことはある。アホでも俺も考えてんのや。俺なりに。
おとんも式 も木石 ではない。それにも命があって、心もある。それを愛しく思うなら、生きろと命じる他はない。それが秋津 暁彦 の、結論 やった。七十有余年 前も。そして平成 の今もや。
だって考えてもみよ。今夜の朧 は美しい神やった。俺は痺 れた。
あんなのを俺のおとんが愛さへんかった訳があるやろか。俺が愛してんのに。気高 く可愛 い水煙 様を、愛さへん訳 あるか。
それは無理。絶対に無理や。
みんな愛 しい。麗 しい大事な神さんたちや。俺はそれに仕 える神官 で、神々を愛して崇 め奉 る。それが覡 としての、俺の本性 や。
それが自分や。どうして自分に嘘 ついて、生きていけるんや。
そんなもん間違 うている。俺は俺の描きたい絵しか描かれへんのや。
そうでないと、俺はなんのために俺として、この世に生まれてきたんやろ。
ありのままでええんや。俺のままで。常識や前例 なんて、クソ食らえやで。俺のやりたいようにやるわ。
そう結論 がつくと、むちゃくちゃ気が楽 やった。無限 の力が湧 いてきた。
そうして俺は、心の底から祈 ってた。
生きてくれ。俺の愛しい者たちよ。俺が死んでも、平気で生きていってくれ。それが一番、俺は幸せや。お前らの幸せのために死ぬんやったら、俺はそれで本望 なのや。
どうか、心あるなら天地 よ、俺の祈 りを聞いてくれ、って。
ほんまにつくづく、俺はおとんの息子やわ。
悔 しいけども、俺はそれを誇 りに思う。そやからな、おとんと同じ道を行くことにする。
それでええかなあ、どう思う?
それでは、またそろそろ、次号 に続く。どうも、長い話を、ご静聴 ありがとう。
皆さん、どうぞ今夜もいい夢を。その眠りが安 らかなように、俺が祈 っておくからな。
今夜の語り部は、酔 っぱらいの坊 、悪いボンボン平成 版 、秋津 の暁彦 様でした。
おやすみ。愛してるよ、みんな。
――第21話 おわり――
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